「出世に興味がない」――。高度成長期のモーレツ社員が聞いたら卒倒するだろう。

明治安田生命が新社会人1030人を対象に昨年2月に実施した調査によると、目指す役職を尋ねる質問に対し、男性の27.9%が「役職に興味がない」と回答。2003年の調査開始以来、初めて「役員クラス」(25.3%)、「部長クラス」(24.5%)などを上回った。

一方で、終身雇用を望む社員も増えている。会社への帰属意識についての質問では、終身雇用を望む社員が51.9%で、2年連続で増加。「いずれ起業・独立」は7.5%にとどまった。

こうした新社会人たちの願望は完全に矛盾している。昇進適齢期を迎えても平社員のままでいれば、リストラのリスクも高まるし、定年までの雇用はむろん安泰ではない。ビジネスコンサルタントの山崎将志氏が嘆く。

「1990年代にリストラされた父親を持つ世代にこういう考え方が多いんです。偉くなるほどリストラされるリスクは少なくなります」

最近の人事制度は、かつての「職能給(人が基準)」から「役割給(仕事が基準)」が常識となりつつある。若くても優秀な人材を抜擢しやすい一方、職責を全うできない社員は随時降格される憂き目に遭う。

「その代わり、2段階の飛び級昇進も可能になりました。だから同じ30代、40代でも役職格差は激しくなってきています」(企業の人事・雇用制度に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏)

役職に伴って年収も当然変動してくるわけだから、若いうちからの出世次第で生涯収入は同期の間でも大きく違ってくる。 人事労務コンサルタントの二宮孝氏が解説する。

「役割給の増加で、一般社員と管理職の収入格差は増大傾向にあります。また、管理職だと定年後の再雇用の条件が有利になったり、住宅ローンを借りやすくなるなど、社会的な信用度も高まります」

仮に役職付でリストラに遭ったとしても、転職市場では前の会社でどんな役職を経験したかが問われるため、採用の可能性も広がる。 つまり、出世は会社員人生における生活防衛であり、幸せな老後を送るための準備の一環でもあるのだ。

※週刊ポスト2011年3月18日号