「本は紙である」という環境で育ってきた僕らに、電子書籍はどんな未来を見せてくれるのでしょう。『Web本の雑誌』はブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんとともに、関わりのある方にお話を聞いてきました。第4回のゲストは、Reader™ StoreやLISMO Book Storeなどのストアと、本を発行する出版社をつなぐプラットフォームを提供する、ブックリスタ代表取締役社長の今野敏博さん。前職では音楽というソフトをCDというパッケージから「着うた®」へと広げた開拓者は、電子書籍というフィールドにどんな未来を見ているのでしょうか。


【仕入れは共通でも、品揃えはストアそれぞれ】

内沼 今野さんは、もともと音楽業界のご出身ですよね。その今野さんが、ブックリスタという新しい企業のトップに就任し、電子書籍分野に取り組んでいらっしゃる。まずはブックリスタという会社の成り立ちから、あらためてお聞かせください。

今野 ブックリスタは2010年7月に、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞の4社が立ち上げた会社です。現在は、ソニーのReader™ に向けて電子書籍を配信するReader™ Store と、KDDIのbiblio Leafに向けて電子書籍を配信するLISMO Book Storeに対して、電子書籍配信のためのプラットフォームを提供しています。ふたつのストアのバックヤードのような役割ですね。レストランに例えるなら、同じグループの違うチェーン店に料理を卸す、セントラルキッチンのようなイメージです。

内沼 ブックリスタは「電子書籍取次会社」ということでしょうか?

今野 コンテンツ収集という面では、取次事業も行っていますが、少し違います。ストア、つまりReader™ StoreやLISMO Book Storeと一体化した存在だと捉えています。全体でひとつの大きな世界を形成しており、あとはそれぞれの役割がある、という住み分けです。コンテンツの収集についても、Reader™ StoreやLISMO Book Storeの特集企画をベースにしたり、読者の皆さんに読んで頂きたいと思う本をセレクトして、こちらから独自の提案をしたりしています。

内沼 Reader™ StoreとLISMO Book Storeでは、買える本が似通ってはいるものの、一部違うラインナップになっていますよね。

今野 ストアごとに違うポリシーのもとで運営する方が正常だし、個性も出ますよね。最近では、ふたつのストアの間で、ユーザー層や人気となるコンテンツの違いが見えてきています。Reader™ Storeは男性の比率が高く、文芸書・ビジネス書・自己啓発系が強い。一方のLISMO Book Store はReader™ Storeより女性の比率が高く、実用書や週刊誌記事なども売れている印象があります。ただ当初は正直、驚きました。まさか1000円以上する普通の本がこんなに多くダウンロードされるとは。

内沼 でも実際に売れる。となれば、出版社との交渉もやりやすくなりますよね。当初3000万円だった資本金もこの2月に一気に4億9000万円まで増資されました。多くのユーザーが望むのは、めぼしい新刊がほぼ買えるようになること、それと手に入りにくい既刊の良書が充実してくることだと思いますが、期待してよいのでしょうか。

今野 確実に追い風は強くなっていますね。ベストセラーが狙える書籍だと、いままでは電子化が難しいケースもあったのですが、最近では紙の本とほぼ同時に発売できるものも増えてきています。『フェイスブック若き天才の野望 5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた』というノンフィクションは、ほぼ同時期にリリースできましたし、今まさに街の書店で平積みになっているマイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』も、タイムリーに電子版を出すことができています。

内沼 『全貌ウィキリークス』もほぼ同時でしたよね。

今野 そうですね。『これからの「正義」の話をしよう』で実績ができて、『全貌ウィキリークス』の同時配信につながった。最近では出版社さんから販売計画のアイディアやご相談を頂くことも増えています。この循環が軌道に乗ると、過去に音楽で配信事業をやっていた経験がより活かせるようになる。例えば電子書籍配信でテストマーケティングをやって、売れそうなものは紙でもたくさん刷るというような売り方も視野に入ってきます。


【電子書籍で本を読むスピードが倍になった】

内沼 ちなみに今野さんご自身は、ブックリスタの社長をお引き受けになるくらいですから、ずっと本はお好きで読まれていたんでしょうか。

今野 いや、実は、本をたくさん読むようになったのはこの会社に来たおかげなんです。

内沼 えっ。そうでしたか。

今野 もともとあまり落ち着きというか集中力がない(笑)。しかも読むのも相当に遅かった。ところが、Reader™やbiblio Leafのプロモーションも兼ねて、通勤中に地下鉄で読むようにしたら、以前の倍くらいのスピードで読めるようになりました。すると、さらに興味のワクが広がって、いままで読んだことのない本も読んでみたくなる。しかも、電子書籍端末で読みたいものもあれば、紙で読みたくなる本もあるんですよ。

内沼 そうした「読書」全体のワクを広げるには、もっと広く電子書籍端末の普及が必要になりますよね。

今野 そうですね。ブックリスタとしてもReader™とbiblio Leafの他に、配信できる電子書籍端末を増やしていきたい。ありとあらゆる「画面」にブックリスタの看板を掲げたストアを作りたいですね。そして3年後には、読書のスタイルが変わったと実感できるような環境を作り上げていたいです。

内沼 そのための条件というのはあるのでしょうか。

今野 まず新刊で「電子書籍発」のヒット作品が出ること。既刊本でもいいんですが、まったく新しいものの方が世の中に与えるインパクトは大きいですから、できれば新刊本がいい。その上で、電子書籍作りのシステムが出版業界で整備されることですね。


【ブックリスタのリアル店舗を作りたい】

内沼 いま編集者の仕事量は膨大になっていて、その理由のひとつが、紙の本と電子書籍を作るのにそれぞれ手間がかかるという話です。テキストや写真など、同じ素材で紙の本と電子版が一度にできない。それぞれ指定を入れなければならないから、仕事量が膨大になってしまう。

今野 少なくとも、電子書籍ならではの特殊な仕掛けがない本は、紙の本を作ると同時に、それと同じ出来の電子版も生成できるようにならないといけない。さらに、最終的なオーサリングや著作権の問題など、クリアすべき課題はまだまだあります。でもそうした環境の整備がなされた上で、3年後に向けて、じつは夢があるんです。ブックリスタのリアル店舗を作りたいんです!

内沼 いいですね! 絶対にやるべきだと思います。端末にどんな書籍が入っているか一覧できて、実機に触ることができるリアル店舗は必要です。先日この連載で幅さんとお話ししたときにも、「一緒にリアル店舗が作れたらいいよね」というような話をしたばかりですし。

今野 その頃には電子書籍端末自体ももっと進化しているでしょうから、店舗と電子書籍端末、どう組み合わせられるか楽しみですね。

内沼 最後に、今野さんが考える理想の電子書籍端末を教えていただけますか。

今野 いまも技術としてはあると思うんですが、読み上げ機能が進化した電子書籍端末に期待したいですね。リモコンなど使わず、コミュニケーションがすべて音声で成立するもの。途中で止めたいと思ったら「止めて」というと止まったり、登場人物の背景がわからなくなったら、「それ、どんな人だっけ?」というと説明してくれたり。電子書籍端末というより、語り部のおばあちゃんのような、そんな電子書籍端末ができたら楽しいでしょうね。

(構成:松浦達也)


<プロフィール>
今野敏博
こんの・としひろ●1957年生まれ。1981年4月、(株)CBS・ソニー 入社、 (株)レーベルゲート代表取締役 執行役員社長、(株)レーベルモバイル(現・(株)レコチョク)取締役 代表執行役社長 などを経ながら、「着うた®」「着うたフル®」の開発に携わる。2010年11月 (株)ブックリスタ 代表取締役社長に就任。
※「着うた®」「着うたフル®」は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標です。

内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう●1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)。LISMO Book Store Magazine編集長。 http://numabooks.com







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