海堂尊が、現役の医師でありながら超売れっ子ミステリー作家であることは、多くの人に知られている。2005年『チーム・バチスタの栄光』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したとき、大胆な心臓外科手術とともに、謎解きのカギとして世の中はAi(オートプシー・イメージング)という死亡時画像診断技術があることを知った。CTやMRTを使い、遺体を傷つけず死因を特定する技術が実用化されていないことにも驚いた。

『ゴーゴーAi』は海堂尊が海堂尊になる前から書き起こされている。一介の病理医が、Aiという方法を思いつき、これこそが医療現場の疲弊や悪しき隠蔽主義、遺族の納得のいく方法論だ、と協力者とともに邁進した結果、官僚や学会上層部の攻撃にあいながら、この事業の啓蒙、推進にあたった10年間のクロニクルである。ちなみに執筆のスケジュールは書いていない。この間の怒濤の出版物はいったいいつ書かれたのだろう。

 本書を読むと、海堂が作家になったわけがAi推進のためでなかったことがよく分かる。本名で活動していた1999年から2004年まで、彼の受けた不当な圧力に耐えかね、彼は気晴らしで小説を書いたのだ。気晴らしとはいっても、目の前には現実に悪役がたくさんいて知識も豊富だった。そしてプラス、サービス精神旺盛だった。それが受賞要因だったのだ。

 それにしても彼が「10年シカト」「連続ハシゴ外し」「怪文書攻撃」「卓袱台返し」と呼ぶ仕打ちの過酷さよ。森達也『A3』の裁判制度の矛盾や村木厚子厚労省元局長の検察捏造事件などと根っこは同じ、官僚やアカデミズムの縄張り争いに振り回されていたのだ。

 医学の進歩に「死」がなくては検証も進歩もない。身内の死の原因を普通に知ることの出来る世界がもうまもなく来る、と思いたい。

(東えりか)







■ 関連記事
『高樹のぶ子の艶めかしい短編集『トモスイ』』(2011年2月8日16:58)
『災い転じて福となす異色闘病記〜『身体のいいなり』』(2010年12月17日20:33)
『HIV感染者の性愛と現実を追う『感染宣告』』(2010年12月2日15:43)


■配信元
WEB本の雑誌