「本は紙である」という環境で育ってきた僕らに、電子書籍はどんな未来を見せてくれるのでしょう。『Web本の雑誌』は電子書籍を目の前にして真剣に考え、ブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんとともに、端末を持って関わりのありそうな方にお話を聞いてきました。
第3回のゲストはブック・ディレクターの幅允孝さん。TSUTAYA TOKYO ROPPONGIの立ち上げや国立新美術館「スーベニアフロムトーキョー」のブックディレクションを手がけた選書家は、じつは電子書籍にも深く関わっていました。


【選書家にとっての、紙と電子の違いとは】

内沼 幅さんやぼくはいわゆる「紙の本」の選書家として、これまでリアルの本棚をつくるのが主な仕事でした。ところが昨年あたりから、電子の仕事が増えています。幅さんはソニーのReader™ Storeのエディトリアル・ディレクターに就任されていますが、実際どんな"仕事"をされているのでしょう。

幅 基本的には紙の本でやっていることと同じですね。「本を選んで」「その場所にもっとも似つかわしいものをおすすめする」。確かに紙との違いはありますが、どの仕事でも一定の制約は発生するので特に気にはなりませんね。

内沼 「紙との違い」も人それぞれだと思います。ぼくは「ネットに繋がるか否か」だと考えているのですが、幅さんにとっては紙と電子書籍の違いとは何を指すのでしょう。

幅 基本的に、違いはなくってどちらも「道具」だと思っています。まあ、敢えて言うなら皮膚感覚ですかね。僕は紙の本を選ぶとき、装幀や印刷など、紙の手触りやインクの香りなども気になる性質。それは突き詰めると「女性を見るときにはうなじから」というようなフェティシズムにたどり着く。ただ、この問題をフェティシズムの領域のみで話していてはいけないと思います。一方、世の中にあるほとんどの本は読まれることがそのまま価値となります。つまり大多数の人にとって、「本」とはそのまま「コンテンツ」のことを指す。読んで深く考察したり、ヤル気をかき立てさせられるような存在と言ってもいい。そういう一般的な読書スタイルの人にとっては、デバイスが紙でも電子端末でも大きくは変わらないと思います。


【本読みになじむ、反射光端末】

内沼 一口に電子書籍端末といっても、ソニーReaderやKDDIのbiblio Leafなど、いわゆるKindle型の反射光端末や、液晶でもiPadのほかに専用端末としてGALAPAGOS、docomoのSH-07Cなど、さまざまな端末が発売されています。

幅 好みだとは思うんですが、僕には液晶の画面は目にチカチカしてダメでした。あまり使い込んでいないからかもしれませんが、もともとパソコンに長時間向き合うのが苦手で、長文メールも読みたくない性質なので、体が抵抗しているんでしょう(笑)。いっぽう、電子ペーパー――反射光端末の方は問題なく読めます。「膨大な冊数を持ち歩ける」「検索できる」などのツールとしての便利さは紙の本にはない特徴です。自分自身、読書スタイルの引き出しが増えた実感もあります。僕は普段5〜10冊くらい、並行して読書をするので、地方や海外に行くときにどうしても荷物が重くなる。そこで昨年末の帰省時に思い切ってReaderひとつに絞って年末を過ごしてみたんです。意外とイケましたね(笑)。

内沼 ぼくはふだんパソコンに向かっている時間も長いので、実は液晶でも一冊読みきれてしまうんですが、それでも反射光端末のほうが目も疲れない上に、軽いので腕も楽です。僕の友人でも紙の本が苦手だったのに「電子書籍なら読める!」というヤツも現れましたから(笑)。いわゆる"本読み"――活字中毒には反射光端末の方がなじみやすいようですね。

幅 感覚の違いはありますが、ある程度は慣れの問題でしょう。最近気づいたのは「読む」ときに身体をどう使うか、じつは身体感覚がポイントだということ。いまはまだ「この本は紙で読みたい」「こっちは電子書籍で」というような、本の適性にまで話が届いていませんよね。でもそれぞれ読み比べてみると、明らかに違う。電子書籍は目と脳に負う部分が大きい。対して紙の本は意外にも体全体を使って読んでいる気がしてきました。

内沼 身体感覚というのは、具体的にはどんなイメージですか?

幅 例えばガルシア・マルケスの『百年の孤独』(※)のような長大な断片の集積のような物語系は、紙で読んだ方がいいでしょう。時系列もあっちやこっちや行くから、読み戻すこともこの物語を読む一部です。そんな時、紙の本だと「確かこの辺」と指先の感覚や何となくの記憶で、ページ数のアタリをつけておくことができる。指先の感覚と記憶の交差点のような不確かな指標をまさぐってページをさかのぼっている気がしますね。
※世界各国でベストセラーとなった、数世代にわたる登場人物たちによる、無数のエピソードが重層的に綴られた長編小説。本作などが評価され、ガルシア・マルケスは1982年にノーベル文学賞を受賞した

内沼 なるほど。ならばいっそ、印刷物から電子書籍への進化をあくまで複製技術の進化であると捉えて、もうひと世代前の"写本"の身体性を取り戻す、みたいなムーブメントを起こすのも面白いかも。

幅 身体を通さないとわからない本というのもありますからね。そういう本は紙で読み、目と脳で読むような即効性を求める本は電子書籍で読めばいい。

内沼 印刷技術が生まれる前は、みんな手で写して読んでいたわけですから。ただこの先、「読書」のスタイルは確実に変わるでしょうね。もし『百年の孤独』の電子書籍版が出たら、既に紙で読んだ人はページをめくり返せないことをいらだたしく感じるでしょうし、一方電子書籍慣れした人が読んだら「複雑な人間関係の物語なら、人名で検索できて当然」と感じるでしょう。

幅 あと、障害があったり、身体機能の弱っている人は全身全霊で読まなくていい。電子リーダーの方が使いやすいでしょう。

内沼 すべての人にとって、読書の可能性が広がるような使い方が生まれたら楽しいですよね。

幅 そのためには、ユーザーの声を供給側にもっと届けないと。端末やサービスの進化は、実際に使った人のフィードバックなしにはあり得ませんから。じゃあ早速僕からいきましょう。まずReaderですが、Windowsからしか買えないことに、頭に来てます(笑)。

内沼 それ、書いてもいいんですか?

幅 もちろん。だってMacからも買える方がいいに決まってますよね。ビジネスの都合が良き読み手の読書行為を阻害してはいけない。実は今の時代にもっとも必要なマインドだと思います。


【ハードとソフトの分離という大革命】

内沼 他の端末を触ってみた感触はいかがでしょう。

幅 さっきも言ったように液晶は目がツライのと、手持ちには重い印象があるんです。このGALAPAGOSの10.8インチは、家電量販店以外で見るのは初めてかも......。大きいですねぇ。biblio Leafの下の方についている四角いスペースは何ですか?

内沼 ソーラー充電パネルなんです。Readerもそうですが、反射光端末は自然光が差し込むような明るいところでも読めますよね。その特徴をアイコン化した......とKDDIの人に聞いたわけではありませんが(笑)、そういうものだと捉えています。

幅 確かに海外に行くと、外国人がプールサイドで読んでる端末って、iPadじゃなく圧倒的にKindleなんですよ。ソーラーか。面白いなぁ。ついでにどこかのメーカーに防水の端末を作って頂きたいんですが。

内沼 幅さんがソニーさんに仰ればいいじゃないですか(笑)。ただ、さっきのプールサイドの話などを聞くと、防水端末は確かにほしくなりますね。

幅 日常で使うことを考えると防水機能は絶対必要なはずなんです。腕時計は当たり前のように生活防水機能がついているし、最近では携帯電話もそうなりつつある。風呂やキッチンのような日常の使用シーンを想定しながら進化していってほしいですね。

内沼 これまでの紙の本は、ハードとソフトが一体化していましたよね。電子書籍は連綿と続いてきた書籍文化のなかで、初めてハードとソフトが切り離された。便利さも不便さもそこから生まれています。同時に、今までとは違ったコンテンツが生まれてきそうです。

幅 そのために、まずは現状の市場を充実させることが必要です。そのためにも、まずはこの新しいツールをガジェットマニアの方だけでなく、本読みの方にも手にとってほしいですね。そしてその「使える」部分だけでなく、ストレスフルな箇所もどんどんメーカーに言っていってほしい。新しい本の道具は本好きが作っていくべきだと思うんですよ。Reader™ Storeでも僕らがリクエストした本が思うようにそろわずに、時にもどかしい思いをすることがあります。まあ本の読み手がもっと自由になればそれでいいし、好きな本が増えるってことは、紙への間口が広がるということでもありますから。

内沼 一緒に「電子書籍」を盛り上げていくことで、「本」好きを増やすような試みをしていきたいですね。今日はどうもありがとうございました。

(構成:松浦達也)


<プロフィール>
幅允孝
はば・よしたか●ブックディレクター。BACH(バッハ)代表。紙メディアの新しい場所づくりを多数手掛ける一方、最近は、ソニーのeBOOKストア「Reader™ Store」のアドバイザーも務める。まあ、本好きが増えるといいなと、手をかえ品をかえ、なわけです。http://www.bach-inc.com/

内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう●1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。Lismo Book Store Magazine編集長。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)http://numabooks.com







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