深夜に読むと面白さが倍増する小説

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 日常とは違う、別世界を旅することができるというのは、小説を読む楽しみの一つである。その世界は、作者が書き記したテキストに読者の想像力が掛け合わされることによって、まさに読者十人十色のオリジナルなものになりうる。
 特にSFや幻想小説に言えることだが、作品世界を鮮明にイメージできるかどうか(つまりは読者にイメージさせることができるかどうか)ということは、その作品の良し悪しを判断する際の一つの尺度だといえるだろう。

 その尺度を使ってみるなら、『蕃東国年代記』(西崎憲/著、新潮社/刊)は優れた作品ということになる。

 本作を一読して、まず目を引くのは設定の緻密さだ。
 日本海に浮かぶ架空の島国「蕃東」。その都、景京が本作の主たる舞台となっており、時代設定は日本でいうところの平安期を思わせる。日本と中国に挟まれた立地ゆえに、文化的には両国の影響を色濃く受けている。この舞台に蕃東国の人々や彼らの関心事と会話、風景、動植物、物の怪たちが乗ることで、見事に調和のとれた美しい世界ができあがっている。本作には、この世界で起きた出来事が物語として描かれているのだが、作品設定にちゃちゃを入れる余地がないおかげで、読み手は安心してこの豊かな世界をイメージし、その中に浸ることができるのだ。

 もう一つ、読者の空想を掻き立てる要素が、本作にはある。
 作者が意図したに違いないのだが、設定の緻密さと対照的に、物語の構成にはある種の“ゆるさ”があり、その余白を読者が頭の中で自由に埋めていくことができるのだ。この“ゆるさ”は、物語が「説話的」「おとぎ話的」であるということと同義である。出来のよくない小説では、この作業は苦痛を伴うものだが、本作においてはこれがなんとも心地よいのだ。

 本作には『雨竜見物』『霧と煙』『海林にて』『有明中将』『気獣と宝玉』の5作品が収載されており、どれも独特の浮遊感に満ちている。
 著者の西崎氏は、この作品について「なるべく夜に読んでほしい」と語っていたが、その言葉の通り、想像力の働く深夜に読むとその魅力が倍になるような一作である。
(新刊JP編集部/山田洋介)

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