1999年、処女作『日蝕』で第120回芥川賞を23歳で受賞した平野啓一郎。『日蝕』が明治時代の作家を思わせるような擬古文で描かれていたため、もしかしたらそのイメージが強い人もいるかもしれませんが、『かたちだけの愛』は平野氏初の長篇恋愛小説です。

 主人公・相良郁也は37歳の有名デザイナーで、ある日、事務所近くで起きた自動車事故で女優の叶世久美子を助けます。一命はとりとめましたが、片足を切断するという大けがを負った彼女。その後、郁也は彼女のために義足を作ることになり、二人は次第に心を通わせるように......。

 冒頭、別れた妻との思い出したくもない会話の回想シーンから、この物語は始まります。

 「最後だから教えて。ね? 愛って何? あなたにとって、本当に大切なものなの?」
 「いい加減にしてくれないか。」 
 「教えて。愛って何?」
 喰い下がられて、彼はとうとう、観念したように言った。
 「何だろうね。......少なくとも、水や空気みたいに、無いと死ぬってほどのものでもないよ。」

 あなたが男性なら、「うっとうしい女だな」。女性なら「サイテーの男」。こんな感想が一般的でしょうか。

 好きでつき合いはじめたのに、次第に意見の相違に気づき、衝突を繰り返すのが男女というもの。程度の差こそあれ、すべてをわかりあうなんてことは到底無理な話です。

 しかし、この小説で主として語られるのは冒頭での回想シーンのような男女ではなく、わかりあえるかもしれない男女の恋愛模様。"インラン"と近所で噂されていた母の「幻影」がある男と、失った足が疼く「幻痛」がある女。彼らは「あるもの」と「ないもの」、「見えるもの」と「見えないもの」の間で揺れ動きます。そして男はタイトルにも通じる"愛のかたち"に気づくのです。

 本作について、作者は自身のブログで次のように綴っています。
 
 今回の小説のテーマは、ズバリ「愛」です。
 愛とは、結局のところ、何なのか?
 現代人が信じることの出来る愛とは、どういうかたちのものなのか?
 (中略)
 この『かたちだけの愛』では、人と人とが共に生きていくこと、愛し合うことの意味を考えました。

 出会いと別れの季節・春を迎える前に本書を読めば、あなたの恋愛も一味違ったものになるかもしれません。


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 http://www.chuko.co.jp/special/katachidake/index.html




『かたちだけの愛 』
 著者:平野 啓一郎
 出版社:中央公論新社
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