ケネディおたくでよかった!

 「少年時代に出会った最大の作家が小林信彦だとしたら、大学で出会った一番の作家はデイヴィッド・ハルバースタム!」

 前回に引き続いてお届けする、スポーツジャーナリスト・生島淳さんの読書遍歴。後編は、アメリカのジャーナリズムに開眼したという大学時代の話から。

 「中学の頃からのケネディおたくなんです。だから、ハルバースタムの名前は知っていました。ケネディ本といえばハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』だという意識はありましたから。実際に読んだのは、受験勉強を終えてひと段落した、大学入学後になりますが」

 ニューヨーク・タイムズの特派員としてのベトナム取材をまとめた『ベトナムの泥沼から』で注目を浴び、その後ベトナム戦争を巡る数々の報道でピューリッツァー賞を受賞したアメリカ屈指のジャーナリスト。ケネディおたくの生島さんと、ハルバースタムとの出会いは必然だった。

 「彼がすごいのは、政治記者なんだけど、同じ労力でスポーツのことも書いていたこと。スポーツもので最初に読んだのは、NBAを題材にした『勝負の分かれ目』。他にも、『男たちの大リーグ』や『さらばヤンキース』など、手にして読める本はすべて読みました」

 政治もスポーツも同じ距離感、同じ労力で書いていく。そんなハルバースタムの執筆スタイルから受けた影響は絶大だった。

 ハルバースタムとの出会い以降、アメリカのジャーナリズムに傾倒していった生島さん。ロジャー・エンジェルやボブ・グリーン、フランク・デフォード、アイラ・バーカウなど、アメリカのコラムニストやジャーナリストの本を愛読した。

 「僕にとって映画はアメリカ映画。ケネディマニアであり、大統領選挙マニアであり、大リーグも好き。つまり、アメリカのカルチャーが大好きなんです。ただ、アメリカは小説の国ではないと思いますね。ジャーナリズムの国。才能ある人が政治とジャーナリズムの世界に集まるのがアメリカだと、僕は思います」

 2007年には、敬愛していたハルバースタムが交通事故で亡くなってしまったが......。

 「代わりというのも変ですが、最近ではマイケル・ルイスが面白いですね」

 自身が勤めていた投資会社での経験を描いた『ライアーズ・ポーカー』でデビュー。ドットコムバブルを題材にした『ニュー・ニュー・シング』や、今年ブラピ主演の映画が公開される『マネー・ボール』など、マイケル・ルイスもまた分野を問わない著作を発表している。

 「最高傑作はなんといっても『マネー・ボール』。スカウトの目よりも数字を信じて選手を選ぶ、オークランド・アスレチックスの経営哲学を書いた本です。経済も野球も同じような感覚で書けて、キャラクターの書き込み方も超一級。本当に面白い本を書く人です」

 生島さんが好きなのは、近頃どっぷりハマッているという歌舞伎流に言うと"兼ねる"作家。様々な分野の知識を頭の中でインテグレートして、新しい視点を提示するところに、ジャーナリズムの面白さがあるという。その考えは、生島さんの読書の仕方にも及んでいる。

 「僕にとっての読書は連想ゲーム。最近なら歌舞伎好きが高じて着物や茶道、お花などの和物へ、和物から時代小説へとどんどん興味が広がっています。いろんなジャンルの本を読み、それらを頭の中でないまぜにするのも読書の楽しみですね」



生島淳(いくしま・じゅん)
スポーツジャーナリスト。1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、博報堂勤務と並行してライター活動を行い、1999年に独立。著書に『駅伝がマラソンをダメにした』『慶応ラグビー「百年の歓喜」』『スポーツを仕事にする!』など。他、キャスターやラジオパーソナリティなど幅広く活躍中。


取材・文=根本美保子









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