IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること(前編)

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今回はあきみちさんのブログ『Geekなページ』からご寄稿いただきました。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
今のインターネットはIPバージョン4で動作していますが、そのIPv4で各機器を識別するためのIPv4アドレスが遂に事実上枯渇しました *1 。長年“枯渇する”と言われ続けていましたが、それが遂に現実の物となりました。ここでは、IPv4アドレス枯渇とは何かと、それによって何が起きるのかを紹介します。

*1:参考:「【速報】IANAからAPNICへ、二つの/8ブロックが割り振られました」 2011年2月1日 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
http://www.nic.ad.jp/ja/topics/2011/20110201-01.html

IPv4アドレス枯渇に関して、アナログ放送の停波と地上デジタル放送への移行や、原油枯渇と似たようなものであるような認識が多くみられますが、個人的にはIPv4アドレス枯渇後のIPv4アドレスのアナロジー(類比)としては相撲の親方株の方が近い気がしています。

まず、アナログ放送の停波と地デジへの移行ですが、アナログ放送は2011年7月に一斉に停止します。しかし、IPv4アドレスの場合は、ある日突然IPv4が使えなくなるわけではなく、今まで使っているIPv4アドレスはそのまま使い続けられるという意味でアナロジーとしてアナログ放送の停波とは大きく異なります。

原油枯渇とIPv4アドレス枯渇もアナロジーとして適切ではないと個人的に感じています。石油は使うとなくなってしまいますが、IPv4アドレスは使い続けるものであり、利用することによって“消費”されるものではありません。

・IPv4アドレス枯渇って何?
では、IPv4アドレス枯渇とは何でしょうか? 非常に単純に言ってしまうと、“これ以上IPv4によるインターネットが拡大できなくなる”というものです。

今までのインターネットは、新規ユーザーが参加したいと言ったときに新しいIPv4アドレスを割り当てて対処してきました。 IPv4アドレスの在庫が存在していたので、ユーザーが増える分だけ新しくIPv4アドレスも割り当てが行える状態が今まで続いていました。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
しかし、IPv4アドレスが枯渇したことによって新規在庫がなくなってしまいました。これまでは新規ユーザーが増える度に“IPv4インターネット”も拡大できましたが、IPv4アドレス数の上限に達してしまったため、数に限りがあるIPv4アドレスの範囲内で新規ユーザーに対処しなければならなくなります。これは、限られた空間の中にドンドン新しいユーザーを詰め込むようなもので、ユーザーが増えれば増えるほど一人あたりのIPv4アドレス数が減るという状態です。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
問題は、世界中で今後どれだけインターネットユーザーが増えるかですが、2010年時点でのインターネット普及率は、世界全体で28.7%となっています。北米は今後急激には成長しないと思われますが、その他の地域は今後も成長を続けるものと思われます。
IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
出展:世界のインターネット普及率 2010年版 『Internetworldstats』 World Internet Penetration Rates by Geographic Regions-2010
http://internetworldstats.com/stats.htm

IPv4アドレス枯渇後もインターネットユーザー数は増え続け、IPアドレスの需要も増加します。上限が来てしまったIPv4空間を、今より多いユーザーが分け合って使わなければならなくなります。

・本当の枯渇は今年中期〜後半
“IPv4アドレス枯渇”と一言で言っても、何が枯渇なのかは文脈によって異なります。今回の枯渇は“IANA(Internet Assigned Numbers Authority)在庫の枯渇”であり、一般のユーザーに影響が出るのは、まだもう少し先の話です。

IANA在庫の枯渇のアナロジーとしては“IPv4アドレス製造工場で製造中止された状態であって、問屋と小売店には、まだIPv4在庫が残っている”という感じかも知れません(IANAはIPv4アドレスを作っているわけではないので製造工場というよりも巨大倉庫ですが、そこら辺は愛きょうということで許して下さい)。

・IPアドレス管理の階層構造
インターネットのIPアドレスは一意であることが求められます(エニーキャスト、プライベートIPアドレス、マルチキャスト、その他特殊用途は除く)。そのため、誰がどこでどのようなIPアドレスを使うかに関して、世界で一元的な管理が行われています。管理は、IANAを頂点とする以下のような階層構造で行われています。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
IANAは、全てのIPv4アドレスを256個に分けて管理しています。 IPv4アドレスの1/256は“/8ブロック”と呼ばれ、世界5地域を代表するRIR(Regional Internet Registry,地域インターネットレジストリ)へと割り振られます。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
RIRは、NIR(National Internet Registry,国別インターネットレジストリ)やLIR(Local Internet Registry)の要求に応じて、IANAから受け取ったIPv4アドレスを割り振り、在庫が少なくなるとIANAに“おかわり”を要求するという流れで今までIPv4アドレスの割り振りが行われていました。 IPv4アドレスのIANA在庫が枯渇することによって、RIRは、これ以上新規/8ブロックを受け取れなくなります。

今回、IANA在庫が枯渇しましたが、IANA在庫最後の/8ブロック5個は自動的に世界5つのRIRに割り振られることが決まっており、各RIR は“最後の/8ブロック”を受け取ります。さらに、過去の経緯から細切れのまま未割り振りとなっていた“Various”とされるアドレスが/8ブロック7.4731個分ありますが、それらも各 RIRに割り振られます(各RIRは1.69462個分を“Various”から割り振られます。188.0.0.0/8を2009年時点で受け取った RIPE-NCCには0.69462個分)。

このIANA在庫枯渇の瞬間に各RIRが受け取った/8ブロックは、最後の/8ブロック2個を割り振られたAPNICが4.6942個、LACNICとAfriNICとARINがそれぞれ2.6942個、RIPE-NCCが1.6942個となります。

IANA在庫枯渇の次に来る枯渇が、各RIRでの枯渇です。 IPv4アドレス枯渇後も、各RIRはNIRやLIRに対してIPv4アドレスを割り振って行きますが、そのうちRIRの持つ在庫も枯渇します。枯渇の順番としては、IANA在庫枯渇→RIR在庫枯渇→NIR在庫枯渇→LIR在庫枯渇となります。

IPv4アドレス枯渇のタイミングに関して最も参照されているpotaroo予測も、IANA在庫枯渇のタイミング予測から、RIR在庫枯渇のタイミング予測へと切り替わります。

・IPv4アドレス枯渇の影響を真っ先に受けるのが日本などのアジア太平洋地域
RIRでのIPv4アドレス在庫枯渇は、世界5か所で別々に発生しますが、日本は世界で最も速く最終的なIPv4アドレス枯渇に遭遇するであろう地域にいます。

日本を担当するNIRであるJPNICは、独自にIPアドレスの在庫を持たず、必要に応じてAPNICの在庫から割り振りを行っているため、APNICが持つIPv4アドレスの在庫が枯渇すれば、IPv4アドレスの割り振りができなくなります。そのため、日本国内に対するIPv4アドレス枯渇はAPNICのIPv4アドレス在庫枯渇とほぼ同時です。

日本が参加しているAPNICには中国とインドも参加していますが、中国はここ数年急激にインターネットユーザー数を増やしています。 『InternetWorldStats』で公開されている資料によると、2010年時点で中国のインターネット普及率は31.6%です。人数にすると推定4億2千万人ですが、これは世界のインターネット人口の約2割です。しかも、まだまだ凄い勢いで中国のインターネットユーザーは拡大しています。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
出展:中国のインターネット普及率 『Internet World Stats』 Internet Users in China 2000-2009 February 2010
http://www.internetworldstats.com/asia/cn.htm

このような背景があり、中国やインド(2010年時点のインターネット普及率は6.9%)*2 をはじめとするアジア太平洋地域は5つあるRIRのうち最もIPv4アドレス割り振りスピードが速くなっています。

*2:India 『Internet World Stats』
http://www.internetworldstats.com/asia/in.htm

割り振りスピードが速いというのは、世界5つのRIRのうち、真っ先にIPv4アドレス在庫が切れるのが恐らくAPNICになります。このため、“アメリカを見習ってから何かをする”という良くあるパターンが通用しない可能性があるので注意が必要です。

逆に、世界で最もIPv4アドレス枯渇到来が遅いのがアフリカのAfriNICになりそうです。今のpotaroo予測を見る限り、2014年か2015年頃にはAfriNICのIPv4アドレス在庫も枯渇しそうです。そのため、IPv4アドレス枯渇の緊急性が最も低いのもアフリカ地域なのかも知れません。また、アフリカ地域はそもそもインターネット普及率が低いので、IPv4を全く使わずに最初からIPv6をベースとしてインターネットを構築出来る可能性もあります。

・IPv6への移行と“二つのインターネット”
IPv4アドレス枯渇への対策として挙げられるのがIPv6への移行です。 IPv4とIPv6には互換性はないので、IPv4を使っている世界中のユーザーにIPv6へと移ってもらうというものです。ただ、今のインターネットはIPv4であり、ほとんどのユーザーがIPv4を使っているため、IPv6への移行は非常に長い期間(たとえば10年以上? 20年以上?)をかけて行われるものと思われます。

その間は、同じIPv4アドレスを複数人で使いながら密度がどんどん上昇するIPv4が継続して利用される一方で、IPv6も利用されるという“IPv4とIPv6によるデュアルスタック環境”になります。 IPv4とIPv6には互換性がないので“二つのインターネット”が存在している状態です。

インターネットをレイヤー分けして考えると、これまでのIPv4だけのインターネットは以下のように表現できます。 IPを表す第3層(ネットワーク層)だけプロトコルが単一で、それ以外は全て複数のプロトコルが存在しています。 IPの部分だけが単一になった砂時計のような形です。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
このように、“IP部分はIPv4だけ”という前提で設計されているソフトウェアや環境は世界中にあふれています。 IPv4考案当初はコンピュータも今よりも遥かに非力で、32ビットが表す空間は当時としては無限のような大きさであったのだろうと思います。

しかし、インターネットが普及し、一人で何個ものIPアドレスを利用するような使い方が当たり前になったのでIPv4のアドレスが足りなくなってしまいました。そこでIPアドレス空間が大きいIPv6への移行が提案され、今までは単一であることが前提であった“IP”が一つから二つへと変わろうとしているのが、IPv4アドレス枯渇とIPv6への移行です。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
現時点で、もう既にIPv6のインターネットは存在しています。日本国内では、様々な事情により、まだIPv6サービスを開始できていない事業者が多いのですが、今後IPv6対応は増えて行きます。一般のインターネット利用者も、サーバやネットワークの管理者も、通信が関連するプログラムを書くプログラマも、“1つが前提”であったIP層が“二つ存在しているデュアルスタック環境”になることを意識しなければならない場面が増えそうです。

今後、一般家庭での論理的な接続形態は以下のようになります。各家庭では、ISPを通じてインターネットへと接続するための機器であるCPE(Consumer Premise Equipment、モデムやSOHOルータなどの機器の総称)を通じてIPv4とIPv6の両方のインターネットへと接続するようになるでしょう。

IPv4アドレス枯渇 その意味と恐らくこれから起きること
上記図では、CPEを通じて二つのインターネットへと接続していますが、これは論理的な概念図であり、実際の物理的な接続としては、ユーザー機器とCPE間は一つの物理回線(無線や有線などでの接続は1つでCPEとつながっている状態)となります。

このように、一般家庭への配線だけを考えれば、結局は一つの回線の中にIPv4とIPv6の両方のパケットが流れるだけであり、物理的には全く同じ通信路やトポロジになる部分も多いです。また、ネットワークの向こう側に存在するウェブサーバなどの各種サーバは、IPv4とIPv6両方で接続できるように設定されると思われるので、全く異なる二つのインターネットが出来るというよりは、“実体は同じもしくは非常に近い要素が混在している二つのインターネット”という形になるのではないでしょうか。

ということで、“二つに分離する”というのは、ちょっと言い過ぎな部分もありますが、要として一つだったものが二つに増えるというインパクトは小さくはありません。今までは、インターネットを構成しているIPは一種類であることを前提としていたものは色々あるので、それが二つに増えるというのは色々とややこしい話があります。

・IPv6への移行と、IPv4アドレス枯渇対策は似て非なる物
IPv4アドレス枯渇というコンテキストで良く語られているIPv6ですが、IPv4アドレス枯渇対策とIPv6への移行は狭義では、全く別の話であるというのが最近の私の主張です。 多少ややこしい話なのですが、広義ではIPv6への移行はIPv4アドレス枯渇対策です。しかし、狭義ではIPv4アドレス枯渇対策は、IPv4上で行わなければいけません。これは、現時点のインターネットはIPv4で動いておりユーザーもIPv4を使っているためです。現時点で急いでIPv6への移行をしても、ほとんどのIPv4ユーザーは使ってくれません。今のインターネットを利用している今のユーザーと、インターネットを使って通信を行うには、少なくともユーザー側はIPv4で行われる通信を使う必要があります。

IPv4アドレスが枯渇するということは、IPv4アドレスをこれ以上新たに割り当てられなくなるということであり、それでも規模を拡大したい場合には今あるIPv4アドレスをどうやって使い回すかという話になってきます。そして、今あるIPv4アドレスを使い回すために、一部のIPv4アドレスの利用を圧縮して他にまわすようなことが要求されるようになります。このようなことを考えたり、準備をするのが、IPv4アドレス枯渇対策です。

一方で、IPv6への移行というのは、IPv4との互換性がないIPv6を多くのユーザーに使ってもらうようにしていく活動です。これ以上IPアドレススペースを拡大出来ないIPv4ではなく、IPアドレススペースが巨大なIPv6へと引っ越してもらうことです。みんながIPv4の世界に居て、IPv6の世界に居ない状態で、自分だけIPv6へと引っ越してもあまり意味がありません。「IPv4アドレスが枯渇したから対策としてIPv6へと移行を急ぐべきだ!」というのは、マクロな視点で見た場合は、確かに解決策です。インターネット全体や、国としてという視点で見た時には、IPv6への移行が「解決策」と言えそうです。

しかし、IPv4アドレス枯渇が実際にトリガーされた後に、痛みを伴う個々の事業者やユーザーを主体として見た時には、IPv4アドレス枯渇対策というのは「限られたIPv4の世界でどうやって規模拡大を実現するか?」という話になります。

後編に続きます。

執筆: この記事はあきみちさんのブログ『Geekなページ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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