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当たり前のことだけれど、人にはそれぞれ好みがある。だから、「最近、お勧めの映画は?」と聞かれると実はいつも困ってしまう。映画について記事を書いていると、そう尋ねられることが多いのは当然だが、相手の好みを知っていればともかく、初対面の人とそういった会話をしなければならないのは正直言ってしまうと少々気が重いのだ。相手の好みを知らずに、自分の好きな作品を挙げれば、後々、ささいとはいえ、“映画ライター”として不甲斐ないことにもなりかねない。それでも、私は良い作品を見つけたら、広くお勧めせずにはいられない。これも性というものなのか。

そんな前置きをした理由は、そろそろ映画界最大の祭典、アカデミー賞の話題がメディアに登場してくるからだ。実は私は、アカデミー賞とは相性が悪い。ノミネート作品はさておき、心を根底から揺さぶってくれるような作品が最優秀賞を受賞することが少ないからだ。その反対に、強烈に共感できるのが、ベルリン国際映画祭。この映画祭で受賞した作品には、お気に入り映画になるものが極めて多い。こんな相性もあるものなのか。毎年、面白いぐらい、その結果を信頼できる。

そんなベルリン国際映画祭が2010年度の銀熊賞(最優秀脚本賞)に選んだのが、中国映画『再会の食卓』だった。監督、脚本はワン・チュエンアン。実は彼はベルリンに愛されている人物で、前作『トゥヤーの結婚』が2007年の同映画祭でグランプリに当たる金熊賞を受賞している。



というわけで、ベルリン好きにはたまらない『再会の食卓』。中国と台湾との複雑な関係性を背景に、戦争に翻弄された人々の悲しみ、優しさ、喜び、切なさを丁寧に描いていく。
主人公は、上海に暮らす初老の女性。戦争で若い頃に夫と生き別れ、新しい夫との間に家族を得て平穏に暮らしている。そんな彼女に、40年以上前に引き離されてしまった元夫から一通の手紙が届くのだ。「これからの人生、私と一緒に台湾で暮らして欲しい」と。
ここまで読んだ方々は、この先、女性がどんな決断を下すのか気になり、家族の間にかなりの大騒動が巻き起こるのではないかとご心配だろうが、物語は思いのほか淡々と進んでいく。

実は、中国人が持つ不幸な歴史とその悲劇性、40年ぶりの再会というドラマ性は、あくまでもこの映画の外枠なのだ。核となっているのは、そういった出来事を通して見えて来る、「人を人間たらしめるもの」の愛おしさ。決して裕福ではない家族が、女性の元夫を迎えるために、テーブルいっぱいに並べた料理を準備し、存分にもてなす。もしかすると、家族にとっては疎ましい存在=招かれざる客でしかないかもしれない元夫だが、皆でテーブルを囲むのだ。特に、最も不安を抱いているであろう現夫の姿が胸を打つ。日頃は倹約家として知られるが、この時とばかりに「客人がやってきた!」と高級な蟹を市場で買い、テーブルに乗せるのだ。



それぞれが胸に抱くさまざまな思いを、食卓でのシーンといくつかの短い会話劇の中で浮き彫りにした本作は、観る者の感情を静かに、だか確かに揺さぶっていく。とても洗練された作品に仕上がっているのだ。中国という国は、時として我々と全く違う文化を持つのだと感じざるをえないニュースもここのところ多いが、『再会の食卓』から見えて来るきめ細やかなもてなしの心、思いやりの気持ち、敬意というものは、極めて普遍的なもの。中国の歴史や、「もてなし」「礼節」といった色濃いアジア文化に彩られているにも関わらず、ヨーロッパの映画祭で高く評価されたのはそれゆえだろう。

2011年、この2月10日から20日まで、またベルリン国際映画祭が開催される。今年は、どんな作品を選んでくれるのか楽しみだ。

『再会の食卓』
2011年2月5日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開

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