作品間の“辻褄合わせ”が生んだ海堂尊の最新作

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 “モルフェウス”とは、ギリシャ神話に出てくる眠りの神のこと。
 人気作家・海堂尊さんの新作『モルフェウスの領域』(角川書店/刊)は、この“モルフェウス”と“モルフェウス”をサポートするメンバーを描いた物語だ。

 佐々木アツシはレティノという目の病気で、5歳のときに右目を手術で摘出したが、9歳のときに残った左目にも再発。5年間、人工凍眠(コールドスリープ)させて、特効薬の日本での製品化が承認されるのを待つことになった。
 コールドスリープしているアツシの維持・運営を担当したのが、未来医学探求センター(通称コールドスリープ・センター)非常勤職員の日比野涼子だった。コールドスリープ・センターの地下1階でアツシを見守り続けている涼子は、アツシのことを“モルフェウス”と呼んだ。そして5年後、アツシが目覚める時、「モルフェウスをひとりぼっちにしてはならない」と涼子が下した決断とは…?

 本作でコールドスリープをする佐々木アツシは、『ナイチンゲールの沈黙』(宝島社/刊)、『医学のたまご』(理論社/刊)にも登場するのだが、この2つの物語でアツシが成長する過程において、その年齢が5歳分合っていないという事態が起きている。そのことは、角川書店の『モルフェウスの領域』公式ページに掲載されている海堂さんのインタビューで海堂さん自身が言及している。
 そのインタビューによれば、出版社の担当者から「年齢が合わない」という矛盾を指摘され、その辻褄を合わせるために、アツシを“5年間眠らせる”ことにしたのだという。そして、この辻褄合わせからはじまった物語は、海堂作品の過去と未来をつなげる大きなポイントとなる小説へと仕上がったのだ。

 愚痴外来の田口や高階院長など海堂尊さんの小説では、おなじみの人物も佐々木アツシをサポ−トするメンバーとして登場する。『モルフェウスの領域』だけでも十分楽しめるが、それだけでは海堂尊の「桜宮サーガ」を楽しんだとは言えない。本作を執筆するきっかけとなった『ナイチンゲールの沈黙』と『医学のたまご』をはじめ、他の作品も読むとより深く楽しめること間違いなしだ。
(新刊JP編集部/田中規裕)

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