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今まさにアメリカで開催中(1月20日〜30日)のサンダンス映画祭に、昨年新潮社から出た短編集『いちばんここに似合う人』が話題のミランダ・ジュライ(紀伊国屋書店のスタッフが厳選する30冊キノベス2010の第一位に決定。このHPにはキノベス受賞記念インタビューも掲載されている)が監督した新作映画「The Future」が上映された。一早く映画を観た観客のブログ記事も見ることができる。

上:ミランダ・ジュライ「The Future」より Courtesy Todd Cole (c)2011 THE FUTURE

映画のあらすじは、「病気の猫を飼うことに決めたカップルの話。猫の世話のために仕事を辞め、インターネットの接続も外した末に、二人が見つけた未来の夢。それは……?」。日常のささいな出来事から、人とつながりたい気持ちや、つながりたいのにつながれない孤独感を描き出すミランダの短編集が、日本でも多くの熱烈な読者に迎えられたことは前述の通り。私も、彼女のアートシーンにおける作品をいくつか知っていながら、多作な彼女の世界観をトータルにつかむことができた、と思えたのはこの短編集を読んでからであった。あらすじを読む限り、彼女の短編集の世界にとても近いことが想像できるミランダ・ジュライの監督長編映画第二作「The Future」。ぜひ、日本でも公開されてほしい。このところミニシアターの閉館が続き、映画業界ではさかんに不況がささやかれているが、これだけ書籍で話題を呼んだミランダの作品なら、きっと動員も期待をうらぎらないだろう。


左:ミランダ・ジュライ Courtesy of Aaron Beckum (c) 2011 (Miranda July)
右:マイク・ミルズ Courtesy of TIFF


ミランダのパートナーであるマイク・ミルズも、新作長編映画「Beginners」を昨年秋のトロント映画祭に出品した。この映画は、母親を亡くした後、75歳の父親が「いままでも、これからも、ゲイである」ことを告白、その父親をまた5年後に亡くす、というマイクの実体験に基づいて制作された。


マイク・ミルズ「Beginners」の1シーン Courtesy of TIFF

NIKEやGAPという大クライアントのCMを作りながら、一方でhumansのようなインディペンデントなプロジェクトをもち、一見カラフルでポップなグラフィックワークの底から、消費文化をシニカルに捉えるメッセージを発信してきたマイク。表現はとてもチャーミングでありつつ、現代アート作家のように客観性と自己批評的な視点も備えもつその彼が、自分の人生におこった実話を、そのままストレートな表現につなげるだろうか? 映画の着想を本人の口から聞いてから、たしかもう5年以上10年未満の時間が流れた。その間じゅうずっと私は「一体どんな作品になるのだろう?」と思っていた。つい最近、「Beginners」完成直前の彼をとらえた上記のインタビュー記事を読んだとき、15年前にはじめて私が彼をインタビューしたときに、彼の口からよく聞いたフレーズ、「I am confused」を発見して、なんだか嬉しくなった。

新しい表現を追い求める人間が、設計図通りにものを作ることはありえない。製作期間も予算も莫大にかかる長編映画に実人生をあてはめてみたら、それは自分の人生のようでいて、同時に自分から離れていく。そんな結果を、自ら招いて、あえて「confusing」な場に自らを追い込むクリエイター、それこそ私の良く知る、真剣で実験的、ポップでシニカル、挑戦的で可愛げなマイク・ミルズである。これもぜひ、早く日本で見てみたい映画だ。

文/林 央子

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