「ジャーナリズム脳を鍛えられるかもしれない3冊」

 少年時代の『イワンのばか』から、アフリカ取材の伴であるミステリー小説まで。松本仁一さんの読書遍歴が明らかになった前回に続き、後編ではジャーナリストたる松本さんの"考え方"に影響を与えた本を聞いてみたい。

 「ものの考え方というのはしょっちゅう変わるものですが、今の僕の考え方に影響を与えたということでいえば、印象に残っているのはこの3冊。他にもたくさんありますけど、とりあえず」

 その1 ヴォーリン『知られざる革命―クロンシュタット反乱とマフノ運動』(1966年)
 
 新聞記者になってしばらく経った頃に読んだ、ロシア革命の裏側で起きたもう一つの革命を記した本。
 
 舞台はバルト海の出口に位置する軍港の街クロンシュタット。そこにはレーニンが唱えた社会主義革命を本気で信じた人々がいた。彼らが始めた"本当の社会主義革命"は、鍛冶屋のソビエト、兵隊のソビエト、船乗りのソビエトという風に、それぞれが「ソビエト」という組織を作り、各組織による議論のもと共同で街の運営をしていくもの。レーニンの命令よりも"皆で議論して決めたこと"を優先したから、政府から弾圧を受けるようになり、遂にある冬の日、凍ったバルト海の上を政府軍の戦車がやってきて、革命にかかわった人々が皆殺しにされた。

 「これはショックでしたね。まじめに社会主義を建設しようとした人々を、当のレーニン社会主義政権がつぶしたのですから。でもこのことを知ってからは、イデオロギーというものに対して距離を置いて見られるようになりました。きれいごとでイデオロギーを唱えるような人の裏には、何かうさん臭いものがあるんじゃないかと。そういう意味ですごく僕の考え方を変えた本です。それに、ソ連や中国の支持者でなければ知識人ではないといった雰囲気の時代に出たものだから、ますます値打ちがあったと思います」

 その2 ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』(2000年)

 「南半球の人たち...アフリカや中南米の人たちは、なぜ文明化に遅れてしまったのか。人種的な優劣などあるわけがない。ヨーロッパと日本が同じくらいのスピードで文明を築いてきたように、距離の問題でもない。ところが結果として、ニューギニアの人たちはいつまで経っても裸だったし、アフリカの人々はいつまで経っても国家を作れなかったし、中南米はピサロに征服されてしまった。それが何故かということをきっちり分析した、優れた本です」
 
 世界の北と南の格差について、1万3000年もの人類史を辿りながら考察した本。タイトルにある銃・病原菌・鉄というのは、格差の広がりに影響したと思われるものの正体だ。松本さんの著書『カラシニコフ』も併せて読むと、なお面白い。

 その3 ネルソン・マンデラ『自由への長い道』(1996年)
 
 1994年、南アフリカ共和国初の黒人大統領になったネルソン・マンデラ。反アパルトヘイト運動を指導し国家反逆罪で終身刑となったマンデラが、27年にも及ぶ獄中生活を中心に語った自伝だ。

 「非常に読みやすい。小説のように読める自伝です。すごく面白い。終身刑でいつ出られるのかもわからず牢屋で暮らすというのは決して楽しいことじゃないけれど、彼はいつも笑っていられる状態を自分で作り上げていくんです。そういうマンデラに引きずられてみんなが笑い、うんと威張っていた白人の看守たちも彼を尊敬するようになっていく。すごいですね。ああいうすごく大きなことを成し遂げる人には、必ず違った心の持ち方があるんじゃないかと感じました」

 というわけで3冊ともたまらなく読みたいモードになったところで、ヴォーリンとマンデラの絶版が判明! 復刊乞う!


松本仁一(まつもと・じんいち)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。1942年長野県生まれ。東京大学法学部卒業。68年、朝日新聞社に入社。社会部員、外報部次長、ナイロビ支局長、中東アフリカ総局長、編集委員を歴任し、07年よりフリージャーナリストに。日本記者クラブ賞、日本エッセイスト・クラブ賞などを受賞。主な著書に『アフリカを食べる』『アフリカ・レポート』『カラシニコフ』など。


取材・文=根本美保子







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