チリ落盤事故に見る“組織のマネジメント”の方法

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 昨年夏、世界中の注目を集めたのが、チリで起きた「サンホセ鉱山落盤事故」です。
 ご存じの方も多いかと思いますが、この事故は、崩落によって33人の男性作業員が地下700メートルに生き埋めになったというもの。しかし、彼らはリーダー格のルイス・アルベルト・ウルスア氏を中心に、1つの組織として様々なルールを設け、外界との接触が一切閉ざされた17日間、そして救出されるまでの2ヶ月間を乗り切りました。

 彼らはどのように自らの組織をマネジメントしていたのか。チリ出身のジャーナリスト、マヌエル・ピノ・トロ氏が執筆した『33人 チリ落盤事故の奇跡と真実』(大纒玲子・真砂冬愛・美馬しょうこ・矢田陽子/訳、主婦の友社/刊)に掲載されている、宗教面でのリーダーとして精神的な支えとなったホセ・エンリケス氏、「詩人」と呼ばれたビクトル・サモラ氏へのインタビューから、その内実を紹介します。

■33人で果たされた「民主主義」
 どのように33人はまとまったのか、インタビューにおいて2人が口を揃えて言ったのは「民主主義制」です。つまり、何かを決めたいときは投票で決めるのです。
 ビクトル氏は「話をし、意見を言い合い……すべて言葉にしていた。最終的には投票で決めていた。すべてのメンバーに話す権利があった」と語っています。言い合いになるときもあったそうですが、この投票制によって自分ひとりで勝手に決める人はいなかったそうです。

■全員に希望を与えてくれた「主へのお祈り」
 最初の2週間、彼らは失望に包まれていました。助けは来ないかも知れない。食料はすぐに底をつく…。そんなとき、牧師であったホセ氏は仲間たちからお祈りをして欲しいとお願いされます。
 もちろん33人はそれぞれ宗派も違います。そしてホセ氏自身は福音派。そのお願いに彼はこう言います。「もしみんなが福音派のやり方に従うというのなら、いいでしょう、祈りましょう」、と。

 すると、1日2回のお祈りの時間には宗派を限らず全ての人が参加するようになりました。ビクトル氏は「彼(ホセ氏)は私たちに考える時間や気力のこもった言葉を与えてくれた」と言います。そして、こう続けるのです。「これはあくまで私の話だが……私たちはみな希望やチャンスが必要だし、誰かにすがるのが最も得策なんだ。私たちにとって、祈りの言葉を受けるときが、一番心が落ち着いた」。
 また、ビクトル氏は、宗派はみんな違ったがその教会の中ではみんな一緒だったと言います。様々な立場を超えて、1つのものを共有する。その中ではみんな平等である。グループとしての強い結束はこうしたお祈りから生まれたことがうかがえます。

■「生き残る象徴」をみんなで共有する
 お祈り同様、33人を1つにまとめていたものがあります。それが「ツナ缶」です。
 2日分の食料しか残されておらず、わずかの食料を皆で平等に分かち合いながら最初の2週間を乗り越えたのは幾度も報道されましたが、最後に残った1つの「ツナ缶」は生き残るための象徴として残しておいた、とビクトル氏は言います。
 「生き残る象徴」としての「ツナ缶」、その元にグループは1つにまとまっていたのです。

 全員が言葉に出し、全員の意思で物事を決めること。そして1つの象徴の元に、自分たちの目標を確認し合う。33人の男たちはこのようにして一致団結したことが2人のインタビューから分かります。

 『33人 チリ落盤事故の奇跡と真実』にはインタビューだけではなく、チリ国家や救出部隊などに主に着目し、その外側でも緊迫した時が流れていたことを伝えます。
 組織のマネジメントや危機管理の上でも参考すべきところがあり、そして何より人間的にも必ず学ぶべきところが見つかることでしょう。
(新刊JP編集部/金井元貴)

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