「いってしまいますぅ。むらまささまぁ」

 「まだだめだ」

 男子高校生とちょいポチャ人妻が、昼下がりにアニメキャラの衣装とローターでのコスプレプレイ......というドギツイ冒頭から始まる本作。しかも、プレイの中で交わされる会話は、全部自作の台本通りという倒錯ぶり。一読すると欲求不満の有閑マダムに弄ばれるヤリたい盛りの男子高校生......という構図が浮かび上がりますが、この作品はそんなありきたりなストーリーではありません。

 主人公は、人妻のことが好きなのか、それともただの性欲なのか、いまいちよくわからないまま、週に1〜2回人妻の元へ通ってしまう男子高校生。相手の人妻は、小太りでアニメオタクで友達も子どももいない、いわば「イケテない」女性。頼まれてもいないのに、行為の後に折りたたんだ一万円札を手渡しながら、「ごめんね」とつぶやいてしまうような女性です。
 
 だらだらとした関係を続けていた2人ですが、高校生にかわいい彼女が出来たことで事態は一変します。アニメオタクの人妻よりも、肌もピチピチ、髪もツヤツヤ、唇もウルウルの同世代の女子高生と付き合おう方が健全と考えた主人公は、人妻に別れを告げるのですが......。性欲と愛情。このふたつの間で揺れ動く男子高校生が下した決断とは......?

  『ふがいない僕は空を見た』は連作短編集で、一作ごとに主人公が変わります。最初は高校生の視点、その次は不倫人妻の視点、そして高校生の彼女や友達の視点から......と、ストーリーがパラレルに進行しながら、一冊を通して物語の全体像を描き出していきます。その中で、どのストーリーにも共通するのが「生と性」。欲望から生まれる性行為も、人類最大の営みである生殖も、どんなキレイな言葉を使っても、結局やることは同じ。冒頭の男子高校生が生まれたばかりの男児の性器をみて、「おまえ、やっかいなものをくっつけて生まれてきたね」と呟きます。

 「生きることと交わること」は、誰にとっても最大の悩みどころ。だからこそ、そんな生と性に戸惑う登場人物たちの姿は、その不器用さに苛立ちながらも、どこか親近感や愛おしさがこみあげてくるはず。

 ちなみに、著者の窪美澄さんは「女による女のためのR−18文学賞」大賞を受賞した女性作家。世にエッチな小説は数あれど、そのほとんどが男性による男性向けのもので、女性は「女は絶対そんな風には感じない!」「そんなアホな!」と読んで怒りさえ覚えてしまうことも多いのだとか。ゆえに、女性の手によって書かれた本作は、女性が読んでもナチュラルに感じられる作品のようです。そういう意味では、世の男性こそ必読の一冊といえるのかもしれません。



『ふがいない僕は空を見た』
 著者:窪 美澄
 出版社:新潮社
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