「2011年、いよいよネットが表(おもて)メディアと認知される」ジャーナリスト井上トシユキ氏が語る「今年ネットで起きること」

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ネットや政治に詳しいジャーナリストの井上トシユキ氏に、今年ネットでどのような変化が起きそうかお話をきいてみました。これから毎年1月に井上さんのお話をきいていく予定です(ききて:深水英一郎)

●井上トシユキ(いのえもん)さんプロフィール
ジャーナリスト。IT、ネットから時事問題まで各種メディアへの寄稿および論評を手がける。企業および学術トップへのインタビュー、書評も多い。『カネと野望のインターネット10年史』(扶桑社新書)ほか著書、共著多数。東海テレビ『ぴーかんテレビ』レギュラーコメンテーター。TBSバトルトークレディオにて、4年間パーソナリティを勤めた。

2011年のネットはどうなる?

――井上さん、2011年、ネットではどんな変化が起きるでしょうか

今年は、いよいよネットが「表(おもて)メディア」であると、広く認知される年になると思います。これまでネットは、あくまで既存メディアの「裏回線」、既存メディアを補完するサブメディアと見なされていた。既存メディアには載ってないような裏情報、やや怪しい情報も多分にありますが、そういったものが掲示板に掲載されていたりした。ブログでも、既存メディアでは言えないようなことが「実はこうだった」「こういう情報もある」というかたちで書かれ、そういった怪しげな情報を評価するための議論も含めて、そこにネットの面白さがあった。知る人ぞ知る情報がある非公式メディア、というイメージですね。でも、もはや「ネットは表メディアのひとつだ」と認知されてきていると思うのです。
もちろん、「いま、ここで、すぐに」ネットに繋がる端末、スマホ(スマートフォン)やガラケー(ガラパゴス化していると揶揄される日本の携帯電話)の普及、通信インフラの整備や増強が、強力にネットの表メディア化を後押ししていることは論を待ちません。

昨年から今年にかけて、現象として顕著なのは「現実社会からネットへ漏れてきているよ」ということです。WikiLeaks、尖閣ビデオ流出、警視庁のテロ資料漏洩などは、文字どおり漏れたという意味でもわかりやすい例ですよね。これらの「公式のウラ情報」は、既存メディアを通さずにダイレクトにネットへ漏れてきている。これはつまり、「ネットが公式に表メディアとして認知された」ということなんだと思います。

――それはもう、言い切っちゃってもいいぐらいなんですか?

オーストラリアの新聞やテレビは、「ウィキリークスはメディアの一部だ」と擁護する書簡をオーストラリア政府に対して送っています。日本での象徴的な事例は、お正月に現職の総理がビデオニュースドットコムの番組に単独で出演した、という出来事です。わが国の行政トップである総理大臣が、出演して差し支えない「表メディアである」と考えているということになりますし、総理の周辺もネットに対する認識を新たにしたことでしょう。現職総理がネットのみの番組に単独出演して話をするのは初めてだったと思いますが、さかのぼれば民主党の小沢一郎さんもネットメディアにちょくちょく顔を出して土壌はできつつあったと言えます。「既存メディアから政治家もネットに漏れ出してきた」ということですね。

――なぜそういう事ができるようになったんでしょうか。

ひとつは、ネットに対して「安心して使えるようになった」というイメージができてきたのだと思います。現実にはいろんな問題がまだあるとは思いますが、ひとまず、政治家が利用する分においては問題ないというレベルになってきた、と認識された。コメントによる「荒らし」への対策や、ノイズによる解釈の掛け違いなどが起きないようにシステム的に対応が可能になったことなど、その代表例なのではないでしょうか。また、総理の出演については、番組のインタビュアーに対する信頼や安心感もあったと思います。社会学者の宮台真司さんと、ジャーナリストの神保哲生さんといった表でも活躍する人たちが、ネットで長らく番組を配信していたことが安心感に繋がった。「なんだ、ちゃんとした人もいるし、大丈夫じゃないか」と。

――お正月っていうのも象徴的でしたね。

それは偶然だったのかもしれませんが、いよいよ2011年はネットが表メディアとなる年なんだという雰囲気が、結果的には醸成されたと思います。ある時期まで、ネット利用者というのは一部のマニアックな人達だという捉え方がありましたが、もはや「ネットは誰もが使う当たり前の社会インフラ」です。

――いくら有用な媒体でも、見る人の数が多くないと、政治家にとってメリットはないってことなんですね。

「ネットなら新しいファン層や票田を掘り起こせるのではないか」という思惑はあったと思います。さらに、「ネットならコントロールしやすい」というイメージを政治家に持たれている可能性はあります。政治家が「漏れ出してくる」までの前段階で、芸能人やジャーナリストといったカテゴリの人たちが「表メディア化」への実績をつくっていった。既存メディアでは十分にパフォーマンスできないと考えた芸能人らが、既存メディアでの出演を補完するものとしてネットでブログをはじめ、そこで人気を集めるという現象が起こった。ブログが本になり、ベストセラーになって、単なるグラビアアイドルのイメージから脱皮した人もいましたよね。結婚後に「ママブログ」を始め、そこで注目が集まって人気復活という例もあった。そういう事例が積み重なることで、芸能人にとってネット(ブログ)は当たり前の「表メディア=活動場所」となりました。そして今や会見をせずにブログやツイッターで発表する、それを芸能マスコミが後追いするのが普通になっています。

ほほえむ井上トシユキさん

――お正月は浜崎あゆみさんがネットで結婚の発表をされてました

そうですね、あの一件もこういった流れをくんだものでしょう。まずは芸能人がネットに漏れ出し、次には名のあるライターやジャーナリストといった人達が紙や電波から漏れ出してきた。そしていま政治家という流れで、晴れてネットが公認表メディアになった、と。芸能人やジャーナリストは、既存メディアが縮小する中で新たなパフォーマンスの場所を求めてネットへ出てきた。「え? あのブログって、何万人もの人が読んでるの? 何十万、何百万ものアクセスがあるの?」などと、一時はよく言われたものです。ケータイ小説が何百万人ものユーザーに読まれた、なんて話もあったじゃないですか。デジタルで数字がハッキリ出てくるから、インパクトも大きかったんですね。そういう人達が背水の陣をしいてネットに進出をして成功し、地ならしをしてきたおかげで、政治家が安心してネット進出してきた。とどのつまりの結果が総理の進出というわけです。

――政治家のネット利用がますます広がりそうですね

そうですね、すでに政党チャンネルは当たり前になっていますし、ブログやツイッターにハマっている政治家もいるようですが、ネットは時間にも制限がありませんから、好
きなことを好きなようにしゃべることができるというイメージがあるのでしょう。日本のインターネット人口は9000万人を超えたと言われていますし、60代の5割超、70代でも3割強が利用している。有権者の過半が自前の情報受信装置を、日常的に持ち歩いている状態と言えます。そこで、ネットを駆使することで政治家サイドが主導権を握りつつ、有権者に対して言いたいことを言いたいように言う、と。これは政治家にとっては大変なメリットに思えるのでしょう。止まらないポピュリズムの流れのなかで、政治家も一種の人気商売となっていますから。

――そういう場所ということであれば、確かにやりやすいでしょうね。

ただ若い媒体ですから、単なるPRの場だと政治家にナメられて、「好きにしゃべらせろ」で押し切られてしまってはつまらない。また、ネット上では、コンテンツをユーザーが選択的に見ますよね。自分の見たくないものはそもそも見ないし、コンテンツを探す場合も、「いま、ここで、欲しいもの」を検索等を駆使して絞り込むでしょう? でもこれってつまり、敵と味方がかなりはっきりしているということなんですよね。

現実でもそうですしネット上でも同じですが、ファンはファンで、アンチはアンチで集まった方が楽しい。すると、とりわけネット上では、自然とそれぞれが別々のところに集まって島宇宙をつくってしまうんです。アンチがファンの本拠地までわざわざでかけていって、楽しい交流の邪魔をするようなことは、最近ではもうあまりないです。出かけていって悪口を書いても袋だたきにされるだけだし、集団で押しかけても泥沼の揚げ足取りになるだけで、ぜんぜん楽しくないし、疲れてしまう。

SNSの「コミュ(コミュニティ)」に代表されるような、ファンやアンチが島宇宙をつくってタコツボ化しやすいというネット上の行動特性は、政治家や人気商売の人にとっては諸刃の剣ですよね。ファンしか見えなくなる可能性がありますから。たとえばネットのライブ番組に出演したとして、政治家側から見えるのは選択的にそこへ到達したファンの人達だけになってしまうことがありえる。集まったユーザーの多くがポジティブな評価しかしない人だとすれば、これは政治家にとっては実にやりやすい。でも、本当の評価はどうなのかという問題意識を持っていないと、とんでもない勘違いをしてしまい、フタを開けたら思っていたのとは違う結果が出たということにもなりかねません。

――ネットには劇薬の部分もあるだけに注意も必要だと。

危機管理の要諦が、患部をいかに早くみつけて治療するかという点にあるならば、ポジティブな評価しかしない人の話だけをきいていてはいけないわけです。ダメな部分を指摘してくれる人の話も聞こえてくるような、ネットの双方性を活かした向き合い方と、そのバランスの取り方は不可欠になってくると思いますね。

――なるほど、ありがとうございました。また来年もお話うかがいに参ります。
また来年

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