ドラマティックな勝利だったのは間違いない。

61分に吉田が退場となり、直後に失点を許す。シリアとのグループリーグ第2戦でも数的不利に立たされたが、スコアは1−1だった。ロスタイムも含めて残り30分強で開催国から2点を奪うのは、間違いなくハードなミッションである。2000人をわずかに越える観衆しか集まらなかったサウジ戦と異なり、もう少しで2万人に届く観衆が詰めかけていた。青いサポーターは圧倒的な少数派でしかない。

「10人になってすぐに失点をして、正直キツかった」と長谷部は振り返り、岡崎もまた「1−2になったときは、正直厳しいと思った」と明かしている。

開催国の勝利へ突き進むシナリオに修正の余地があったとすれば、試合時間が十分に残されていたことだろう。

「下を向かずにとにかく顔を上げて、しっかりとした守備から最後までゴールへ向かっていった」と長谷部は続ける。「まだ30分以上あったから。相手もそんなにガチガチに来ていなかった。チャンスはあるなとは思っていた」と香川も語り、岡崎が「相手がちょっと緩くなっていたから、そこをつけたと思う」と背番号10に同意する。

ファビオ・セサールのゴールが80分以降であれば、カタールは迷うことなく時間稼ぎに走ったはずである。些細な接触プレーでピッチをきっかけに時計の針を進めるのは、彼らだけでなく中東のチームが得意とする戦略だ。

2−1とリードしたあとも、2−2に追いつかれても、カタールの戦いぶりはどこかはっきりとしなかった。逆境のなかの小さな、しかし勝敗に影響を及ぼした幸運がそこにある。メツ監督は「選手たちは肉体的に疲弊してしまった」と振り返っているが、数的優位を利用してボールをまわすようなゲーム戦略に切り変えていたら、日本の足が先に止まっていたかもしれない。

そもそも、苦戦の原因は自分たちにもあった。センターバックの今野は、「バランスが悪いな」と感じていたという。「前半は取られたときのリスクマネジメントがうまくいっていなくて、ボールを取られたらすごく嫌だなあという感じだった。ボールもうまくまわっていなかったし、先制されたあともバランスが良くなかった」

後半の戦いぶりについては、岡崎の指摘が正鵠を得ている。

「前半は自分たちから仕掛けていくことができていたけど、それができなくなったところで一人少なくなってしまった。もうちょっと自分たちでペースをつかまないと。受け身にならず、最後までやらなきゃいけない」

4試合目にして大会初ゴールをあげた香川も、ミックスゾーンで最初に発したのは「ゴールだけは良かったと思います」という反省の弁だった。「他は全然だと思います。ミスも多かったですし、動きの質……やっていて、重たかったですし、4試合目ということで日程的にもきついし、本当に厳しかったので、ゴールが唯一の救いかなと思います」

彼らだけではない。勝利の余韻をミックスゾーンまで持ち込む選手はいなかった。ベスト4入りで精神的な緊張を解くのは禁ずるべきだが、ギリギリの勝利はク自分たちが招いたとの認識が、選手たちの表情や言葉を厳しいものにしていたと思う。

10対11から逆転したメンタリティは称賛されていい。「これでまた、精神的に強くなったと思います」という長谷部の言葉も、確かな説得力を持っている。

ただし、である。日本がメンタリティの強さを発揮できたのは、カタールが付け入るスキを与えてくれたからでもある。同じことが準決勝でも──韓国かイランのどちらが勝ち上がってきても──できるとは言い難い。カタールにはピッチ上でリーダーとなれる選手が見当たらなかったが、韓国には朴智星が、イランにはネクナムがいる。勢いに任せてきたカタールよりも、試合運びは勝利への手順を踏む。

それだけに、ゲーム内容にはさらなる改善を求めたい。10人で戦ったカタール戦はいつも以上に肉体的な負担が大きく、連戦による疲労も覆いかぶさってくる。内田は戻ってくるが、今度は吉田が出場停止となる。準決勝はさらにタフなゲームとなるが、それでも勝利をつかむことで、カタール撃破は初めて価値を持ってくる。

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