大盛堂書店 吉田哉人さんに聞く『思わず表紙買いしてしまうかも? 装丁が素晴らしい3冊』
 世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。「感動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは?
 そんなときにあなたの味方になるのが書店員さんたちだ。本のソムリエ、コンシェルジュとしてあなたを本の世界に誘ってくれる書店員さんたち。
 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい本を3冊答えてもらうのが毎週水曜日に配信する、この「わたしの3冊」だ。【「わたしの3冊」バックナンバーはこちらから】


 さて、2011年1月のテーマは『思わず表紙買いしてしまうかも? 装丁が素晴らしい3冊』! 今回は渋谷駅近く、スクランブル交差点の隣にある大盛堂書店から吉田哉人さんが登場。果たしてどのような本を選んだのだろうか?

◆『夜よりも大きい』

著者:小野正嗣
出版社:リトル・モア
定価(税込み):1575円

 この書籍の装丁の良さは、実際手に取って頂かなければ味わえない。なにしろ、幾重にも仕掛けがほどこされているのだ。
 まず「まよなかのこどもたち」と題された話をモチーフにしたと思わしき、不気味で幻想的な装画に目を奪われる。手になじむ触り心地のいい紙質のジャケット、通常の四六判より縦に少し小振りな上製、それから、表紙を外すと表紙裏と本体には、フランス文学者である著者によって仏語訳された「大きな音」の話で覆われている。10の話があるのだが、いずれも注意深く読み進まなければ怪我をしかねない散文詩のような具合だ。いずれの話も、描写される生々しさとは裏腹に時間や場所や人物の説明が曖昧なままなせいか、目を見開いたまま夢の世界を漂っている感覚に何度も襲われる。はたまた、この本のギミックは紙質が途中で変わる。それはこの物語をくぐり抜けるように集中している読者をハッとさせるのだ。
 紙の本の醍醐味を存分に味わえる1冊。


◆『HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン』

著者:都築響一
出版社:青幻舎
定価(税込み):2625円

 当店ではアートコーナーで扱っている。それは都築響一氏が木村伊兵衛賞の写真家であることと、昨年広島市現代美術館で開催された同タイトルの展覧会の公式図録であることによるのだが、実際ご本人が意図しているところは所謂「アート」ではないようなのだ。
 序文において都築氏は「ジャーナリスト」宣言をしている。
 「ジャーナリストの仕事とは、最前線にいつづけることだ。・・・(中略)・・・アートの最前線は美術館や美術大学にあるのではなく、天才とクズと、真実とハッタリがからみあうストリートにある」と。
 この本に収録されているものは、一般的にはサブカルチャーとして見過ごされがちな「よくわからない国」日本に転がる現実を記録したものである。秘宝館、カラオケスナック、ラブホテル、イメクラ、デコトラ、コスプレ少女、珍景など。装丁に関して言えば、いわゆる「ジャケット」がない。「クロコ GA 黒」という一見皮のような紙に、「HEAVEN」と金で箔押しされたものと楷書で白く印字された副題・著者名・出版社名のみ。そして、帯には発色のいいピンク地に、本書のテーマが整然と円くポップに収められている。ひとたびこの帯を外せば、まるでキリスト教の聖歌の装丁のようで上品なのだ。思わず、この本に対する著者の愛を感じる魂の1冊。都筑響一入門書としてもおすすめ。
 (トリビア。この本のP91には、後に木村伊兵衛賞を獲る梅佳代氏が被写体となって収められています(但し顔にモザイクありw。))


◆『ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学』

著者:ジョン・リーランド/著、篠儀直子・松井領明/訳
出版社:ブルースインターアクションズ
定価(税込み):2940円

 アメリカの文化と聞いて、現在日本で暮らす人々は何と応えるだろうか。
 1945年の敗戦以来、圧倒的に受容し続けている彼の国の文化。ジャズ、コカコーラ、ハードボイルド小説、ロックンロール、ファッション、パソコン、ビジネスのノウハウ.....。モノもカネも精神も十分に入って来た。ただ、漠然と享受していては気づきにくいその出自。通俗的な見解でよく、アメリカは歴史が浅いといって片付けることがある。だがどうだろう、このソフトカバー仕様で全604頁の大著に記されている歴史たるや深すぎやしないだろうか。ジャケットに描かれたヒップスターたち。ボブ・ディラン、マイルス・デイヴィス、キム・ゴードンなど6名。彼らの共通項とは「ヒップ」である。さてヒップとはなにか?それは「アメリカの物語」であるとある。本文によると、「ヒップの語源はウォロフ語[西アフリカの言語]の動詞『ヘピ(hepi)』(見る)ないし『ヒピ(hipi)』(目を開く)」とあり、17世紀アメリカに奴隷として連れてこられた黒人たちが持ち込んだこの言葉の持つ光と影。様々な表情を浮かべながら変遷を経て現在に至る単語。それは、知識であり、ダンスであり、音楽であり、消費であり、生き様である。奴隷、移民、アウトローなどアンダーグランドから生まれた、様々なレイヤーを持つその時の新しい価値。イケていること。粋なこと。流行り廃りもあるから、ヒップにはマニュアルなんて存在しない。詳細はぜひ本書を繙かれたいのだが、それはブルジョワ趣味を指すものでもない。本書の著者のジョン・リーランド氏曰く、「ヒップとは競い合いのゲームなのだ」と。
 いま本書を読みながら思いついくのは、現在世界でもっともヒップな有名人をひとり挙げるとすれば、ジュリアン・アサンジ氏なのではないか?明日は明日の風が吹くだから分かりませんが...。アメリカの文化を俯瞰的にディグする(わかる)のに恰好の1冊。
 (注意。この本を読むこと自体がヒップかどうかのご判断は、皆様のヒップネスに委ねます。)


◇   ◇   ◇

【今回の書店】
■大盛堂書店

渋谷駅ハチ公口、スクランブル交差点を渡ってすぐのところにある書店です。いつも多くのお客さんで賑わっています。

住所:東京都渋谷区宇田川町22-1
TEL:03-5784-4900
FAX:03-5784-6480

■アクセス
各線渋谷駅から徒歩1分。スクランブル交差点そば。

■営業時間
10:30〜21:00

■ウェブサイト
http://taiseido.co.jp/


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