【ロングインタビュー】車上生活で日本中を巡り「未来へ」と叫ぶアーティスト、遠藤一郎っていったい?

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 黄色い車体にネイビーの文字で「未来へ」と書かれた車に乗って全国をひた走り、道行く人たちに夢を書いてもらう「未来へ号」の運転手(兼住居)であり、自らを未来芸術家と名乗る男・遠藤一郎。この度トーキョー カルチャート by ビームスと3331 Arts Chiyodaを皮切りに都内近郊6カ所で彼の展覧会が行われる。その一大プロジェクトは「大遠藤一郎展」。遠藤一郎とはいったいどんな男なのだろうか。そして、この男の目的は? はたまたプロジェクトの全貌は......。

──なんで6カ所で展覧会をすることに? ちゃんとスケジュール帳持ってますか?

遠藤一郎(以下、遠藤) 持ってないんですよ(笑)。いただいた話は極力断らずに自分のフィールドじゃなくても「はい」って言っちゃうんですよね。最初は2カ所だったんだけど、はい、はいって言ってたらそのうち6カ所になっちゃって。6カ所同時なんてあんまりないパターンで、"一人まちプロジェクト"みたいになってきた。なので、もうはばからず「大」とつけて「大遠藤一郎展」にしちゃいました。

──各プロジェクトの概要を簡単に教えてください。

遠藤 例えばBEAMSさんの場合は、「美術手帖」(美術評論社)の連載の原画を中心に展示します。「美術手帖」の連載は「愛と平和と未来のために」というもので、毎回見開きで絵とメッセージがドーンと出ています。段ボールに殴り書きしていたり、自分のお腹にペイントしたり。幼稚な絵面だから、どストレート過ぎて安易っぽく見えるかもしれないですね。でも、ストレートにやりきっているから逆に響くかなと。そんな一見青臭いメッセージを、BEAMSさんのようなおしゃれなフィールドでドーンと見せたら、原宿にいる若い人たちにも響くんじゃないかと。「美術手帖」の連載は美術だけに向けたメッセージでもないので、もっと外に伝えていきたいと思っています。

 3331はいわゆる美術の現場なので、僕がやってきた美術作品とか写真や横断幕ですね。以前、「家族」と書かれた幕をロンドンの美術館に持っていって展示して、見に来たお客さんにどんどんその幕に好きなことを書いてもらったんですよ。とくに決まりはないのに、「家族」と書いてあることで必然的に自分の家族の話を書いたりする人が増えてきて、それを見た次の人が同じように書いたり。そんなんで多国籍な人たちがたくさん集まってきて、その幕の前で写真を撮ったりするようになる。「We are family in the world. We are alive on the earth. Let's make the big ring for our future.」と言う、いつも僕が言ってるメッセージがあるんですけど、それを目に見える形で見せたかったんです。「ほら見ろ、ここに人の輪が見えているじゃないか」ということを。3331に置く幕には「世界のみんなこんにちは」と書いてあるんです。で、Ustreamとか世界に発信できる便利なツールがあるから、会期中に僕がおもむろに登場してメッセージを発信するようなことができたらいいなと。あとはライブペインティングをオープニングイベントでやります。

■美術でも音楽でもなんでもいい。自分にできることをやる。

──遠藤さんは、もともと10代のころからパフォーマンス活動をしていたそうですが、「未来へ」と言い始めたのも同じ時期?

遠藤 昔とやっていることは変わんないですね。「明日に向かって」ということだったり、人を楽しませたいということだったり、エネルギーを与えたいと思ってやっているんです。「未来へ」というキーワードはずっと同じで、自分ができることを探しているんですよ。若い頃はバンドをやってましたね。前向きな言葉でメッセージを伝えたいと思ってるのに、実際にやってるのはノイズ音楽だから、伝えたいのに伝わらない......(笑)。それでバイトとかいろいろやって、ひょんなことから現代美術家の会田誠さんと出会ったんです。そこで、メッセージの伝え方として、アートというていうやり方もあるんだなと思ったんです。だから、美術でも音楽でもなんでもいいんだけど、「過去を学んでいまを生きて明日に向かっていく」という意志を伝えるために自分ができることをやろうと。

──それで「未来へ号」につながるんですね。

遠藤 はい。僕、車運転するの好きだし、人の目にもつくし。でも渋谷とかの街中に停めておくと、絶対にグラフィティされちゃう(笑)。そういう時は、子どもが夢を書きに来た時に、「グラフィティの上に書いてくんない?」って言ったり(笑)。子どもの夢が上の方にあればいいなと。書いてある文字ですか? あれは絶対に消さないんです。修理とかでやむを得ずにテープを剥がさなきゃいけないっていう時がきたら、伊勢神宮の古札奉納のところに持っていくんです(笑)。だって、みんなの夢が書いてあるから、集合絵馬みたいなもんでしょう。そういうの、ちゃんとやりたいんですよ。もちろん、めちゃくちゃ安全運転だし、事故とか絶対できない。

──遠藤さんの、使命感というかパワーはどこからくるんですか?

遠藤 僕らっていつ死ぬか分からないじゃないですか。大きい出来事のひとつとしては、僕の姉ちゃんが23歳くらいの若い時に亡くなっているんです。その時、僕は高校生でした。やりたいこともできなくて、だけど人は死ぬんだなっていうのが、自分の中でリアルになったんです。だからできることをやろうと。僕らは明日死ぬ心配なんてしてない。だけど同じ地球の中に明日死ぬ心配をしている人がいっぱいいる。殺されるかもしれない、食べ物がなくなるかもしれないって。じゃあ僕らがやらなきゃダメだなって心底思っているんです。明日も分からない人達がこれだけ世の中にいるのに、僕らが背負わなきゃ他に誰が背負うんだろうって。その思いがすごく強いんです。僕らがやっていかないと世界のバランスが悪くなる、本当にどんどん暗くなっていっちゃうと思うから、日本人の僕らが明るくやっていくしかないで
しょ。

──あの、ちょっと聞きにくいんですが、ご両親は遠藤さんの活動をどう思ってるんですか? なかなか理解してもらえないんじゃないかと。

遠藤 そうなんです(笑)、うち御殿場の田舎の父ちゃんと母ちゃんで。実家にはそんな遠くないから関西に行く途中とかに帰るし、個人的に富士山大好きだからその時に寄ったり。年末に久しぶりに実家に帰ったんですが、なかなかの質問攻めが待っていました(笑)。「うん、父ちゃんの言うことは分かるよ、分かる。でもね、今僕がやってることは必要なことなんだよー。だってさ、やんなきゃいけないと思わない?」とか言い返して。でも、あの車のことは「いい車だ」って言ってくれるんです(笑)。

──(笑)。じゃあご両親からの質問は交わしつつ。でも都内で6カ所もやるんだから呼んだら喜ぶと思いますよ。

遠藤 交わしつつ。ヘコみつつですよね。もちろん展覧会には呼びます。あの車でツアーしますよ。嫌がられるだろうなー。

──やっていることが究極にシンプルだから逆に伝わりやすいんでしょうね。だって、「未来へ」とか「We are family!」とかって、ちょっと気恥ずかしくて言葉には出せなかったりするでしょう。それをやってくれる遠藤さんみたいな人が、いま求められているんだと思います。

遠藤 でしょー(笑)。引かれるんですよ。宗教臭いとか、普通に気持ち悪がられるし。でも、そのカナリア役っていうのはいつの時代にも必要なんですよ。今のご時世っぽいでしょう。普通のことを言ってる僕みたいなのを、冷めた目で見てキモイとか言う。だからこそ僕はやらなきゃと思って。「うるせーよ、おまえの言ってることなんて当たり前だよ」って普通に言われるまでやらなきゃいけないと。

 僕がやっていることって、アートなのかパフォーマンスなのかとかよく言われるけど、アートっていうと、本来美術って、美しい術ってなんなんだろうって思っているんです。自分のセンスを大いに打ち出すのも美術なのかもしれない。だけど、本当に美しい術って自分一人では完結しないものだし、人がいるから自分がいる、自分がいるから人がいるっていう、よく考えてみたら普通のこと、その当たり前のことが本当に美しいことだったりするんですよね。それが真理だったりする。でも、それが失われかけていているから僕らもこうやってここにいるんだと思う。だったらやらなきゃいけない。だから僕はそのメッセージを伝えたい。自分のセンスを伝えたいのではなくて、今必要なメッセージを伝えたい。それが自分ができる一番分かりやすい方法だと思うんです。

■お金には限界がある。必要なのは絆。

──遠藤さんは今31歳とのことなんですが、30代になって自分の中で変わったことはありますか? そして、これからやりたいことを教えてください。

遠藤 なぜ「未来へ」なのか、ということをきちんと伝えなきゃと思っています。20代は突っ走っていろいろやってきて、自分が動いて車に乗っていろんなところに行って発言して、現場の人たちに直接伝えてきました。それをもっと広く深くというか、例えば本にして多くの人に伝えたり、僕が言うのも恐縮だけど、教育も必要だと思うんです。自分がやっている活動の表層のイメージというのは、ここ何年かでうれしいことについてきた。だけど、やっぱりそこで消費されてしまうところがあって。だから、今後はそれをコントロールしながら、埋め合わせるようなことをやっていかなきゃいけないと思っています。メディアに出て話をするとか、本を出すとか。

 今後やってみたいのは、演劇ですかね。演劇って、音楽や視覚的なものや美術とか芸術も全部合わさっているから。お笑いみたいなのをやって、じかに人を笑わせていくっていうのを一回やりたいです。あと、5年後くらいにはバスを持ちたいですね。人を乗せるし、中にDJブースや御輿とかすべてセットされていて、行った場所ですぐに祭りが始められるような。特攻野郎Aチームみたいな、フェスティバルAチームみたいな感じの。それで世界を巡りたいですよね。ワールドプロジェクトだ! やりたいっつーかやる! やりゃいいんだと思っています。

 今って、すごいいろんなものが細分化されてますよね。社会とか人とか、いろんな可能性がたくさんあるんだけどありすぎて盲目になっていて、本当に自分がやりたいことだったり、そういうことすら忘れてしまって通り過ぎちゃう。それで本当は自分がなにやりたいんだろうとか。じゃあ何が必要だって問われたら、昔から続いているものだったり普遍的なものが必要で。まず初心に戻る。それを意志として自分の中に取り入れる、それが必要だなと。例えばコミュニケーションだったり、絆だったり。資本っていうとお金を思い浮かべるかも知れないけど、でも金には限界がある。だったら次に何が出てくるかっていうと、絆だと思うんですよ。あとは夢とか希望。

 とにかく僕は本当にしつこくやるので、今回の展示を見て何か感じてもらえたら。
(取材・文=上條桂子/撮影=佐久間ナオヒト)

●えんどう・いちろう
静岡県生まれ。車体に大きく「未来へ」と描かれ、各地で出会った人々がそのまわりに夢を書いていく『未来へ号』で車上生活をしながら全国各地を走り、「GO FOR FUTURE」のメッセージを発信し続ける。主な活動に各地アートイベントでの展示やパフォーマンス(「別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界」わくわく混浴アパートメント、「TWIST and SHOUT Contemporary Art from Japan」BACC(バンコク)、「愛と平和と未来のために」水戸芸術館など)、デザイナー(多摩川カジュアル)、DJ。2009年より凧あげプロジェクト『未来龍大空凧』開始。2010 年より柏にてオープンスペースislandの発足に携わる。
http://www.tamakaji.com/ichiro2.htm

「大遠藤一郎展 未来へ」Go for Future
2011年1月13日(木)〜2月13日(日)
詳細は下記ウェブサイトへ
<http://www.goforfuture.com/>



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