サウジ戦は香川のポテンシャルを引き出すには至らなかった。(Photo By Tsutomu KISHIMOTO)

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日本対サウジアラビア戦を取材するのは、1月17日のアジアカップ第3戦がちょうど10試合目になる。見逃したのは初顔合わせとなった90年のアジア大会だけで、92年のアジアカップ決勝以降はすべて取材をしてきた。アジアカップ決勝で2度、同準決勝で一度対戦してきたこのカードは、プライドと意地が正面からぶつかり合ってきた。

06年9月のアジアカップ予選で16年ぶりに日本を下したサウジは、まるでタイトルを獲得したかのように歓喜したものだった。翌07年のアジアカップ準決勝で3−2の勝利をつかんだときも、サウジの選手たちは喜びを爆発させた。イラクとの決勝戦で敗れたのは、日本戦で緊張の糸が解けてしまったからだと僕は考えている。ジャパンブルーのユニフォームは、サウジにとってモチベーションを高める最高のスイッチだった。

「日本対サウジアラビア戦は、これまでいつもファイナルかそれに似たゲームだった。今回は異なるシチュエーションとなるわけだが、選手たちはベストを尽くすだろう。グループリーグ突破は叶わないが、日本に勝つことは我々の評価を回復する唯一の方法だからだ」

試合前日の公式記者会見に臨んだアル・ジョハル監督は、消化試合にするつもりはないことを重ねて強調していた。このまま何のインパクトも記せずに帰ることはできないという、彼自身のプライドも垣間見えた。

日本の選手も油断なくゲームを迎えていた。「グループリーグ突破の可能性がなくなったサウジのような国は、力を発揮してくることが多い」と話す西川は引き締まった表情を浮かべ、「個々の能力は高いチームなので、球際とかで相手以上の気持ちを持ってやらないといけない」と話す香川も緊張感と警戒心を言葉に挟んでいた。

ところが、結果は5−0である。

2000年のアジアカップでも4−1と大勝しているが、大差の理由は日本のパフォーマンスがサウジを圧倒したからである。名波浩が牽引する当時のチームは、大げさでなく手がつけられないほどの強さを誇った。フィリップ・トルシエ率いる同大会の日本が、アジアカップ史上最強とうたわれるのは広く知られているところだ。日本が強かったから大差がついたゲームである。

今回は違う。サウジはモチベーションが空っぽだった。日本の攻撃陣にあっさりと自由を与え、立て続けにゴールを奪われてもまるで反発してこない。失点シーンで言い争うことすらないのである。戦う姿勢を置き忘れてきたサウジは、ピッチにいるだけの抜け殻だった。3分、13分、19分と早い時間帯にスコアを動かした日本の姿勢は評価できるものの、成果や課題をあげたところで意味を成さないゲームだった。

グループBを首位で通過した日本は、21日の準々決勝でグループAの2位と対戦する。開催国のカタールだ。チームの完成度では同グループ首位のウズベキスタンに譲るが、中国とクウェートを撃破して8強に名乗りをあげてきたチームは、短期決戦を乗り切るための勢いをつかんでいる。前日にグループリーグを終えたカタールは休養が一日多く、ホームアドバンテージに支えられることも見落とせない。受け身に立ってしまうと、試合の流れを一気に持っていかれる。試合の入り方は重要だ。

「試合ごとに良くなってきているので、3試合目より4試合目も良くなると思う」とザックが話しているように、松井に代わる岡崎が好調を維持し、前田がサウジ戦で2ゴールをあげるなどのプラス材料はある。その一方で、香川のポテンシャルを引き出すに至らず、内田が累積警告で出場停止となる。サウジ戦を欠場した本田圭のコンディションも気がかりだ。ピッチ上での進歩は、攻守ともにまだまだ限定的である。

重要なのはメンタル面だろう。ヨルダンとの初戦で中東特有の激しさに目覚めた選手は、練習後も試合後も「気持ちで負けないようにしたい」と繰り返している。

発展途上の若いチームに、そもそも完成度の高いサッカーは望めない。それでも、タイトル奪還への飢餓感や責任感、チームの成長を追い求める向上心といったものが、試合を重ねるごとに表面化してきたのは頼もしい。

負ければ終わりのノックアウトステージでは、監督のベンチワークも勝敗に大きな影響を及ぼす。基本コンセプトを変える必要はないとしても、試合の流れやスコアに応じたゲーム戦術をおろそかにすることはできない。選手はもちろんザックにとっても、現時点での評価がはっきりとする一戦になる。(了)