それほど注目されていないことだが、昨年後半からアガサ・クリスティー関連でおもしろいことが起きている。
 一つは「早川書房が、クリスティー文庫でAKB48商法を開始?」。ジャケットならぬカバーの付け替えでキャンペーンを行う手法はそれほど珍しいものではなく、キャンペーン時のみ二枚目のカバーが加わる「Wカバー」の例もある。2007年に小学館が、期間限定で福山雅治撮影写真のカバーを元のカバーの上に載せて文庫を発売した例が最も印象に残っており(本来の装画よりもセンスがいい写真も多かった)、最近では入間人間『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(電撃文庫)が、映画版のヒロイン・大政絢のポートレイトと元版とのWカバーになっている。
 クリスティー文庫のカバー戦略は、Wカバーでこそないが、ファンならば絶対に掛け替えをしたくなること間違いなしのものだ。まず、昨年新訳が出た『そして誰もいなくなった』と『五匹の子豚』では、ハヤカワ文庫版のほとんどすべてを飾った、真鍋博版の装画が復活。「クリスティーにはやはり真鍋博でしょう」とこだわるオールドファンに随喜の涙を流させた。正直な話、クリスティー文庫全巻に掛け替え用の真鍋博カバーが準備されたら、有料でも買うという読者は多いはずだ。そして第二弾の新訳、『秘密機関』と『邪悪の家』では、和田誠の装画がカバーを飾った。これも、もし全巻が和田誠版になるとしたら、買い替えたいと願う読者はいるはずである。次の新訳版では何をしてくるのか、クリスティー文庫の動向から眼が離せなくなってきた。いいぞもっとやれ。
 クリスティーがらみ、もう一つの話題は「アガサ・クリスティー賞の〆切が1月末日に」ということである。昨年、クリスティーの生誕120周年を記念して創設されたもので、早川書房と早川記念文学振興財団が主催。世界で唯一の、ミステリーの女王の名前を冠することを著作権継承者から公式に認められた新人賞だ。この賞を受賞すれば、作家の名は国内だけではなく、全世界のクリスティーファンの脳裏に刻み込まれることは必至である。ちなみに1月末日は江戸川乱歩賞の〆切日であり、日本探偵小説の父とミステリーの女王の一騎打ちというおもしろいことになっている。あなたがミステリー作家としてデビューするとしたら、どちらの賞を選びますか?

(杉江松恋)







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