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旅に求めるものとは何だろうか。日常からの逃避、観光、そして癒し。近頃は、多様化する目的に合わせて、旅のスタイル、宿の種類も実にさまざまだ。だが、いつの時代も変わることなく、日本人が旅の目的として親しんできたのが温泉。温泉宿に泊まるということが、日本文化そのものであるとも言えるだろう。温泉宿に求めるものは、良質の泉質、居心地の良い部屋、美味しいお料理、そしてきめの細かいもてなしの心。シンプルなようだが、それこそが温泉宿を求めて旅する理由の原点だ。温泉宿としての本質に揺るぎがない限り、そこに華美すぎる演出はいらない。

加賀の伝統を感じる有形文化財登録の宿

石川県にある白銀屋はまさにそんな温泉宿だ。開湯は約1300年前、奈良時代に遡るという金沢の奥座敷・山代温泉において、寛永元年より380年の歴史を誇るこの宿は、加賀藩主前田家との縁も深く、江戸時代には同家の久姫も逗留したという。名湯を誇る山代温泉でも最も良質の低張性・弱アルカリ性高温泉を源泉でかけ流している二つの浴場は、古代檜と坪庭が特徴の「吉祥の湯」と露天風呂つきの「尚武の湯」。肌にのせると、するりとすべるような感触の優しく柔らかい湯は、神経痛や関節痛、冷え性や動脈硬化に効果があるとされている。


吉祥の湯

由緒正しい木造二階建て瓦葺屋根の本館と茶室「思惟庵」、そしてその間を結ぶ渡り廊下は、1818年から1830年の文政年間に建てられた歴史的建築物。平成11年に国の有形文化財にも登録されている。本館の正面には、加賀ならではの伝統が息づく「紅柄(殻)格子」。屋根の両袖には古い町家に良く見られる「うだつ」、玄関横には加賀藩の家紋「梅鉢紋」を使った明かりとりが。そのほかにも、菊が彫られた「脇息」や、玄関に置かれた「木魚」、庭にある魔よけのための「鬼瓦」、二つの浴室に施された古い文様の「九谷焼」など、随所に純和風建築ならではの簡素な中にも優美さと機能美が共存。かつて茶の間だったフロントの吹き抜けには、縦横に柱が組まれた「枠の内」工法も見ることができる。


茶室「思惟庵」でのプチ茶道レッスン

「思惟庵」や樹齢200年を超す大木の佇む中庭に面した1階の客間を含む本館の8室は魯山人クラシックと呼ばれ、山代温泉とこの宿ゆかりの人物、魯山人が逗留した「福の間」も漆塗りで仕上げられた天井板や竿縁をはじめ、当時の佇まいを残している。一方、新館にある15室は加賀モダンと称されていて、紅殻や群青という加賀建築の伝統色を使っているかと思うと、イタリア製のFUTONを用いるという、和と洋の融合を心地よく感じさせる空間。いずれも、違ったスタイルで加賀百万石の歴史と文化が薫る内観となっている。


左:魯山人も好んで逗留した「福の間」 右:加賀モダンの客室

> vol.2 魯山人の哲学が息づく設えと料理 につづく

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