“手を焼く”選手たちを掌握した野村克也のマネジメント術

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 野球評論家であり、東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督の野村克也氏のマネジメント術、人心掌握術は野球界以外からも注目されているのは周知の通り。産業能率大学が2010年度の新卒社員を対象に実施したアンケートでも「理想の上司」(男性)として第8位にランクインしています。

 『野村ボヤキ語録―人を変える言葉、人を動かす言葉』(角川書店/刊)もそんな野村氏が長年にわたる選手・監督としての経験から培ったマネジメントの極意を読み取ることができる一冊ですが、野村氏をもってして「手を焼いた」と言わしめた選手が江本孟紀氏、江夏豊氏、門田博光氏の3人だったそうです。
 野球選手としての能力はすばらしいものがあるものの、それだけに個性が強く自己中心的でわがままだったというこの3選手を野村氏は親しみを込めて「三悪人」と呼んでいますが、同氏はいかにして彼らをチームの一員として機能させたのでしょうか。

■江本孟紀
 江本氏は投手としての潜在能力はあるもののプライドが高く、野村氏にことごとく反発していたそうです。
 そんな江本氏に対して、当時南海ホークスのプレーイング・マネージャー(選手兼監督)だった野村氏は「おれが(おまえのボールを)受けたら、おまえは10勝できるよ」といっておだて、「10勝すればウチのエースだ。どうせエースになるんだから、先に渡しておく」といって、当時プロで1勝もしていない江本氏にエース級の背番号である「16」がついたユニフォームを手渡したといいます。
 その年の江本氏は16勝をあげ、翌年も12勝と、まさしく南海のエースとなりました。

■江夏豊
 江夏氏も江本氏と同様プライドが高く、典型的な“扱いにくい選手”だったと野村氏は語っています。
 野村氏は彼にも江本氏のケースと似た対処をします。
 全盛期を過ぎ、かつ血行障害により長いイニングを投げられないのにもかかわらず、先発投手としてのこだわりを捨てない江夏氏に「リリーフの分野で革命を起こそう」と語って、同氏にリリーフ転向を承諾させたのは有名な話。
 当時の野球界には先発・リリーフという分業制が定着しておらず、江夏氏のリリーフ転向はまさしく“革命”でした。

■門田博光
 本塁打王3回、打点王2回と、すばらしい実績を持つ門田氏も前述の二人に劣らず“扱いにくい選手”でした。
 野村氏いわく、「江本の場合は照れ屋が嵩じてあえて逆らっているのだとすぐわかったし、江夏の態度は甘えん坊という資質が多分に影響している。それゆえ、慣れれば操縦はそれほど難しくなかったが、門田の場合はもっと複雑だった」

 小柄な体格を努力と負けん気で克服してきた門田氏は、信じられるのは自分だけ、という気持ちが強く、へそまがりでもあったといいます。
 野村氏は“いつもホームランを狙う”と公言してはばからない門田氏に、コンパクトな打撃の重要性を説きますが門田氏はいっこうに聞き入れません。
 そんな門田氏の打撃を変えるために、野村氏は彼のへそまがりな性格を利用しました。
 「もう勝手にしろ!」「もっと振り回さんかい」などと、敢えて逆の指導をしたのです。
 その結果、門田氏は打撃スタイルを変え、同時に野村氏は何とか門田氏を操縦できるようになったそうです。

 自分の才能だけが頼りのプロ野球界。そんな世界に飛び込んでくる選手たちは当然ながら技術的にも性格的にも“ひとクセ”持った人間ばかりです。そんな彼らを束ねてきた野村氏のマネジメント術から学べるものは多いに違いありません。
(新刊JP編集部/山田洋介)

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