北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)では、最高権力者である金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男である金正恩氏が“後継者”になることが、ほぼ確実とみられる。実現すれば、祖父の金日成(キム・イルソン)主席から数え、3代続いた世襲制の“社会主義国家”ということになる。

■北朝鮮を「見捨てることができない」中国

 中国は北朝鮮を切り捨てることができない。「イデオロギー」の問題ではない。国益の確保だ。仮に北朝鮮が崩壊して韓国主導のもとに朝鮮半島が統一されれば、在韓米軍が中朝国境にまで進出すると考えられる。中国にとっては、「世界最強の米軍」により、喉元に刀を突きつけられるに等しい事態、悪夢のシナリオだ。北朝鮮の存在は、中国にとって「是非とも必要」ということになる。

 北朝鮮も「中国の立場と思惑」を知りぬいており、だからこそ「瀬戸際外交」を続けることができる。経済面でも、中国の「好意」をあてにすることができる。北朝鮮に「世襲も、中国は簡単に拒絶できない」との読みがあることは、間違いない。

■「オレたちも自粛してるのに」…北朝鮮の世襲で面子つぶされる

 中国でも「太子党」と呼ばれる二世政治家がいる。政界に進出しなくとも、実業界で大会社の社長を務める「二世」もいる。人により程度の差こそあれ、親の威光を利用しているわけだ。しかし、「二世」を国家のトップにすることなどは自粛し続けてきた。共産主義者としての面子(メンツ)が許さなかったと評してもよい。ちなみに、故毛沢東主席は長男の毛岸英を朝鮮戦争の最前線に送った。毛岸英氏は米軍の爆撃で戦死。毛沢東主席は、「やむをえないことだ」とつぶやいたという。

 台湾で1978年、蒋介石総統の跡をついで息子の蒋経国氏が1978年に総統に就任した際に、中国は「権力の私物化」などと非難した。一方、北朝鮮では1990年代前半、金正日氏が父の金日成主席の跡を継ぐ形で、最高権力者になった。中国首脳部は、強い不快感を示したとされる。台湾を非難した経緯があったのでなおさら、「社会主義国で世襲」という事態に「面子をつぶされた」と感じたことは、想像にかたくない。

■中国では一般庶民も北朝鮮の「世襲」に批判的

 そして、北朝鮮ではまた、「世襲」が繰り返されようとしている。世界の多くの人が「やはり、異様な国」との思いを新たにするに違いない。中国にとって、「そんな国を支援する国」とみられることはマイナスだ。中国共産党・政府の上層部の多くの人が内心で“舌打ち”しながらも、「しかし、あの国をつぶすことはできない」と考えているに違いない。

 中国では、庶民の間でも北朝鮮の「世襲」に対する批判的な見方が強い。サーチナ総合研究所(上海サーチナ)が実施したアンケートで、「北朝鮮が急速に発展するための前提条件は何だと思いますか」との問いに対する回答では、回答率が最も高かった「海外との貿易の活性化」(21.67%)に次いで、「世襲体制の変革」(20.83%)が挙げられた。(編集担当:如月隼人)



■最新記事
金総書記「私は中国を信用していない」…ウィキリークスが公開
北の公式サイトに「金正日は狂った野郎」…中傷の詩で非常事態に
世襲反対派の仕業か、金正恩氏の「誕生日プレゼント」積んだ列車が脱線
北朝鮮で「人糞」が人気商品に…2010年意外な“大ヒット”
北朝鮮の発展には「世襲制廃止が必要」の声上位に=中国人