高齢者を中心に食料品などの日常の買い物が困難な「買い物難民」が深刻な問題になっている。外出が不自由な高齢者が増えているほか、商店の相次ぐ閉店による「シャッター商店街」化や、バスなど公共交通機関の廃止が主な原因だ。

   経産省は関連業者支援策を始めるなど取り組みを始めているが、ごく限定的なものに止まっている。地域経済の疲弊、地域社会の崩壊とも絡んで放置できない問題だけに、政府や自治体も本格的な対策を迫られそうだ。

NPOのボランティアがお年寄りに買い物代行サービス

   経産省は、全国の買い物難民は約600万人に上ると見ている。同省の「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」(座長・上原征彦明治大大学院教授)が、内閣府の調査(全国60歳以上の3000人対象)で「買い物に困っている」と答えた割合をベースに推計したもので、研究会の報告書は「買い物弱者はもともと高齢者の多い過疎地だけでなく、都市郊外の団地などでも問題化している」と問題の広がりを指摘。「医療や介護に比べ、生命に直結する深刻な問題ととらえにくく、公的な支援制度も整備されていない」と社会的な対応の遅れに危機感を示す。

   こうした中で、地域の取り組みも徐々にではあるが、広がっている。住民の33%が65歳以上と高齢化が著しい愛知県春日井市東山町の団地「桃花園」では、近所のスーパーや商店が軒並み撤退し、買い物のための交通手段にも乏しいため、地域の社会福祉協議会が岐阜県の農業生産法人と交渉し、トラックによる出張販売の誘致に成功した。

   大都会の一角でも、高齢化が進んだ団地などは深刻だ。横浜市栄区の公田町団地では、自治会を中心に組織したNPOが、2年前から「青空市」を週1回開く。千葉市美浜区の海浜ニュータウンでは住民たちのNPOのボランティアがお年寄りの単身者世帯などの買い物代行サービスに取り組む。三重県四日市市の「生活バスよっかいち」も住民が設立したNPOが、路線バス廃止に伴い、地元駅とスーパーを結び自主運行している。ただ、不況で企業などの協賛金が減り、市の補助金だけでは費用が賄えない状況という。

   スーパーなど民間業者の活動も活発だ。全国の中小スーパー1800の加盟店に商品を供給する「全日本食品」(東京)は、加盟社と協力し、半径1キロ以内に店がない地域などに小型店「シティーマーケット」の出店を始めた。併せて、お年寄りらの家を訪問して注文を取る「御用聞き」もスタート、全国に広げていく考えだ。ファミリーマートは毎日新聞と組んで、ファミマの店舗で商品の注文を受け、配達業務などを毎日新聞の販売店が担当する実験を、大阪、堺両市内の直営8店舗で開始。近隣オフィスへの昼食の配達から始め、お年寄りなど個人宅への宅配に広げる計画だ。

「民間事業者や住民だけの対応では限界がある」

   このほか、コープさっぽろ(札幌市)をはじめ多くの生協や、有機野菜宅配の「らでぃっしゅぼーや」(東京)などは、近くにスーパーがない地域向けにトラックなどの移動店舗が回る。北海道に約1000店の店舗網を持つセイコーマートは奥尻島などの離島にコンビニを出店している。

   大手スーパーなどは電話やインターネットで注文を受けた生鮮食品などの宅配も展開している。ただ、高齢者はネットを利用できない人も多く、経産省研究会の報告書も、「民間事業者や住民だけの対応では限界がある」として、自治体が補助金を出すなど官民連携の必要性を強調している。

   経産省は2010年12月に、新たな出店、家までの商品配送、買い物バス運行など全国20の先進事例とその工夫のポイントを7つにまとめた「買い物弱者応援マニュアル」(第1版)を公表した。

   ただ、こうした事例は一部にとどまる。経済産業省は11月、「買い物難民」対策に取り組む事業者に車両購入費など初期費用の3分2を補助するなどの制度を創設。2010年度補正予算に盛り込んだ施策で、2010年12月15日まで事業計画を募集した。ただし、補助額は下限100万円、上限1億円で、予算は約3億円とわずかで、モデル事業の域を出ず、また2011年度予算案には類似の施策は盛り込まれなかった。景気低迷で国・自治体の財政が厳しい現状で、「買い物難民」対策のハードルは高い。

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