マンガの道具はどう進化する?絵を描けなくてもマンガが描けるソフト『コミPo!』作者の田中圭一先生を囲む座談会その2

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●『コミPo!』プロデューサーの田中圭一さんを囲む座談会その2

今回の『コミPo!』座談会は、漫画家の佐藤秀峰さんが主催するUSTREAM番組「月刊漫画ライブ」の中でおこなわれました。この番組に『コミPo!』プロデューサーの田中圭一さんがゲストとして出演するというニュースをききつけ、ガジェット通信の深水が便乗させていただいた形です。関係者の皆様、ありがとうございました。収録は、田中さんが実際に『コミPo!』を操作しながら話を進める、という形でおこなわれました。この記事は座談会の後半です。

※配信先によってはすべての写真や作例をご覧いただけない場合があります。すべての写真・作例をご覧になりたい場合は、このリンクからガジェット通信サーバー上の記事をご覧ください。

●座談会参加者

田中圭一さん:漫画家であり『コミPo!』の生みの親。
鍋島雅治さん:漫画原作者さん。今回、進行役。
一色登希彦さん:漫画家さん。質問と視聴者の声ピックアップ。
佐藤秀峰さん:漫画家さん。たまに発言。
湯本亘さん:佐藤漫画事務所(さとまん)ウェブスタッフ(中継カメラ)
深水英一郎:ガジェット通信

田中さんを囲む座談会

■誰のためのソフトなの?

鍋島:この『コミPo!』というソフトウェアはどういう方に向けて開発したものなんでしょうか?

田中:いちばん使ってほしかったのは、マンガが好きで好きでしかたがないけど描けない、でも描きたいっていう人。そういう人は相当数がいるだろうなと思っていたんです。「うわ、描けちゃったよ」と言わせたかった。あとは、多少描けるけどあんまり絵が自信ないって言う人。僕なんかもそうなんですけど「萌えキャラの絵はさすがに描けないよ」と思ったときに、これで「萌えキャラが自由に操れるんだ」ってなると、”自分のギャグ”と”萌えキャラ”っていう役者とのコラボができる。

鍋島:頭の中で考えている萌えストーリーを、これで実現できちゃう。自分でそういう萌えの絵を描けなくても。


田中:このソフトをいろんな漫画家さんに使ってもらったんですけど、面白いのはその漫画家さんのセンスがすごく出る、ということ。みんな絵が一緒だから、コマの割り方とか、セリフの書き方でセンスが出ちゃう。まさにこの人のマンガだな、ってなっちゃうんですよ。

鍋島:ああ、なるほど。やっぱりコマ割りで特徴がわかるんだ。

田中:そうです。コマ割りとアングル取りとセリフ。プロトタイプだったときに、 古屋兎丸さんに来てもらっていじってもらったんですけども、その時に一生懸命古谷さんが作ったのが「あ、まさにうさ丸さんのマンガ」ってマンガになってた。他にも「作例作ってね」って何人かの漫画家さんに渡したら、やっぱりその人のセンスで出てきてこれは非常に面白いなと。道具が変わっても、漫画家さんの個性って変わらないんだなーと。

鍋島:福本伸行さんに使って欲しいなあ。萌え絵のカイジ見たいなあ。書き文字で「ざわざわ」だけ書いてあるの。

一同:(笑い)

佐藤:あれ、「ざわざわ」のフォントがあるって言ってましたよ。

鍋島:フォントあるの!!

田中:林雄二さんのデイリーポータル『やぎの目』の4コマ漫画も、あの人らしいなって。このなかに使っていた小道具の消火器があったじゃないですか。あの消火器が借金の取り立てに行くっていう。そういう意味ではいろんな人がいろんなセンスで描くんで、個性が出ないかというとそういうわけではなくて、逆に個性が際立ちますね( Webやぎの目 http://yaginome.jp/2010/11/02/post_1055.html )

鍋島:なるほどね。『コミPo!』でそういう対決できそうですよね。テーマを同じにして同じキャラクターを使ってそれぞれが描く。

唐沢なをきさんの作例 http://www.comipo.com/about/karasawa.html

唐沢なをきさんの作例1
唐沢なをきさんの作例2
唐沢なをきさんの作例3

柏木ハルコさんの作例 http://www.comipo.com/about/kasiwa.html

柏木ハルコさんの作例1
柏木ハルコさんの作例2
柏木ハルコさんの作例3

■コミPo!のアイデアはどこから?

深水:これって元のアイデアは田中さんが出されたものなんですか。

田中:そうですね。おおもとのおおもとは僕がゲーム会社にいたときに「次のゲームのアイデア何か出せよ」って言われたときに、マンガが誰でも描けるツールがあるなといいなと思ったところからなんです。ただ、当時は3Dで2Dっぽい絵を生成できるという技術ができる前だったので、それを実現するには膨大な2Dの素材が必要になるから現実的に無理だなと。2000年ぐらいですね。このソフトのアイデアそのものは誰でも思いつくものだと思うんです。実際、これを発表した後で多くのゲーム会社の若い社員が「めっちゃくやしいです。俺たちも同じ企画出してたんです。何回も上から突っ返されていました」と連絡が来てですね。やっぱりゲームの会社の人たちも、若い人たちにはそういう発想もあるんだなと。ゲームじゃなくてツールの方が面白い、みたいなね。『初音ミク』もそうですしね。でも、ゲームの会社では「ゲームじゃないから」って理由で企画が通らなくて苦しんでいたみたいですね。

深水:これが漫画家さん自身の頭のなかでできたっていうのが僕は驚きなんです。普通の漫画家さんの発想を超えてる感じがするんです。

田中:ギャグそのものの本質は変わらないのに絵柄を変えたことでリフレッシュされて注目されたという経験から、自分のセンスはそのままに絵柄を自由に取り変えられれば、もっといろいろできるんじゃないかと思ってこれを発想したのは確かですね。

深水:漫画家さんは自分の絵柄を確立していくところにこだわりがあると思ってたんですけど、それ自体を取っ払っちゃうというところが凄いなと思うんですよね。

田中:もし自分があだち充さんになれたらと思うとすごくわくわくするじゃないですか。例えば「あだち充セット」がこれにあったら、誰でもあだち充さんのタッチで自分のいろんな世界が展開できる、ということになると、それはそれでひとつの楽しみ方なんじゃないかなと思います。

一色:独自の絵柄を追求することにわりと情熱を傾ける、こだわる漫画家さんであったなら、田中さんの『コミPo!』は生まれてなかったかもしれないですね。

田中:生まれてないし、僕が手塚タッチに切り替えた最大の原因は、秩父山からちょうど10年くらい経ってて、「もうそろそろ、君は一発屋として業界から出て行ってね」みたいなことを編集さんに言われて「もう、この絵柄は絶対受けないよ」って言われて、じゃあ絵柄を変えようという発想に至ったわけです。絵柄って絶対飽きられちゃうんですよ。ギャグセンスっていうのは沈むけど、10年サイクルくらいでまた再評価があったりとかしますよね。漫才なんかでも、ボケ・ツッコミのはっきりした漫才からそうじゃない時代が来て、また元に戻ったり。ただ、絵柄だけは古びたら最後もうなかなかひとまわりってしてくれないんですね。だから、絵柄自体は常に変えて行かなければいけない。そうなったときに、ソフトで変えられるとすごい楽じゃないですか。習得する時間がいらないし。

鍋島:手塚タッチを習得するのに2年かかったって言ってましたね。

田中:そうそう。これが例えば「手塚キャラセット」があれば、誰でもその日から手塚タッチになれるんです。

鍋島:ダーティ松本先生なんて、昔は劇画調で書いておられましたが、今はコミケで萌え絵を書いておられますもんね。

田中:萌え絵って見よう見まねで描いたものと、本当に好きな人が描いたものって絶対わかる、ってぐらい違うんですね。萌え絵が受けているからこれをマネしてやれっていうのでは絶対通用しないんです。このモデル作るときも、そのクオリティをなんとか出したいなあと。偽物じゃなくてまあまあ許せるレベルの萌えキャラにしたいと。まだ到達していないなって気はしていますけれども。

鍋島雅治さん

■コミPo!は今後どう進化していくのか?

深水:これでバージョン1でしょう? これから次はどうなっていくんだろう?

田中:バージョン1がヒットしてくれれば、バージョン2にはもうちょっと……

深水:僕はヒットの予感がすごくしますよ。

田中:いやあ。まだわかんないですけど。とりあえず、今日から『Amazon』で予約開始ですのでどうぞよろしくお願いします(この収録は発売1ヶ月前の2010年11月16日におこなわれた)。ぜひぜひ『Amazon』でポチっとやってください。12月15日発売で、ソフトはDL版6700円、パッケージ版9700円ですね。1万円切ってますから、うまくすれば中学生でもお小遣いで買えるかなと。

鍋島:驚異的でしょう? これだけできるソフトが1万円以下なんですよ? 『Photoshop』なんて昔いくらしたんだって話ですよね。『コミスタ』だって高いしね。

田中:あくまでライトユーザーがお遊びで使うものだから、どうしても値段はお手頃にしておかないと 6700円だったら、もしも1か月使って飽きちゃってもそんなに痛い出費じゃないじゃないですか。

深水:正直、手ごたえはすごく感じてらっしゃいますか?

田中:はい。たしかにすごく場はあったまってますね。ですけど、それ以上にこれを発売してからユーザーのいろんな要望にどれだけ応えられるかが重要で、やっぱり言われるのは、まず3Dモデルデータを何でも取り込めるようにしてくれっていうことで。ここは最初にやらないと広がらない。

深水:そこで、ユーザーの遊びもかなり広がりますね。

田中:正直言うと、「エロいのを作りたい」っていう人もけっこうな数いるんですが、送り手側がそれをできないので。でも、そこさえ口を開けてあげればあとは好きにしてねって言える。モデルデータの取り込み自体は技術的に可能なので、フォーマットなどの条件が合えば、ちゃんと取り込んで3Dキャラクターとしてくるくる回すことは可能です。

深水:モデルデータをどんどん出してビジネスにするっていうのは考えてないんですか?

田中:あ、それは考えています。アニメーターで有名な方2人にキャラデザインをしてもらっていまして。

深水:先へ先へと進んでますね、動きが。

田中:堀井久美さんって萌えキャラっぽい方には、もう少し等身の低い寸詰まりな男の子・女の子を、佐光幸恵さんって『コードギアス』の 作画監督もやった方には、もっと魅力的な美男子を作ってもらって、女の子ファンも増やしたいと思っています。それ以降は、ユーザーの要望に応えて、たとえば劇画タッチとか、もう少しまんまるっこい動物キャラとか、出していきたいと思います。

深水:背景やシチュエーションも増えるんですよね? 学校以外にも。

田中:ええ、増えます。まずは、キャラクターはいま学校しかないので自宅が必要だろうし、喫茶店とかお店も必要でしょうし、あとはオフィスも必要かなあと思っていまして。実は、このあたりは知り合いのゲームメーカーさんを訪ねると「うちのハードディスクにモデルデータがいっぱいホコリかぶって寝てますよ」って言うので、「じゃあ、それをちょっと改造して出しませんか?」って話をしているところです。

深水:そこらへんがゲームメーカーさんとのつながりを活かせるところですね。

田中:そうですね。ゲームメーカーさんからしても、これが売れてくれれば自分たちのキャラクターをモデル化してプロモーションにも使える。一社ですね、来年春出るゲームのキャラクターを、『コミPo!』用に作ろうっていう話が進んでいまして、プロモーションでキャラに親しんでもらうために、勝手にマンガを作って好きに遊んでくださいみたいな。

深水:発売前からいろんな話がてんこもりですね。

田中:そうですね。発表以降はいろいろコラボの話がいっぱい来てますね。逆に今は人手が足りなくて、交通整理ができていない状態です。

一色:Mac版はどうなんでしょうという質問が視聴者から。

田中:ですよねえ。みなさんMac版でも『ブートキャンプ』でWindows環境がある人はちゃんと動くのを確認しています。ただ、動作保証はしていませんけど。「『ブートキャンプ』上でちゃんと動きましたよ」という声はいくつか聴こえていますし、Macユーザーの方にどうにかして使っていただきたいので、来年2月にウェブアプリ版というのが用意されています。これは、Flashをベースにしたウェブアプリで4コマしか作れませんし、機能もある程度制限されていますけども、ひととおり今みたいな萌えキャラがポーズ作って、表情付けてマンプも吹き出しも一通り遊べるものが無料で出てきます。

深水:すごい。

田中:これがお試し版やプロモーション版の役割もするんですけども、これであればMacユーザーの方も問題なく遊べます。Mac版を本格的に作るかどうかは売れ行き次第です。

田中さん

■広がる、コミPo! の可能性

鍋島:ふつうに一般売りで、スーパーの人とか喫茶店の人も、 メニューやポップを作るのに6700円だったら普通に買って不思議じゃないから、一般売りのすそ野が広がったら全然違うよね。

田中:「今日のおススメはこれだ、うまいぞ。食え」みたいな。

鍋島:そうそう。料理マンガみたいにして、実際に自分が作ったものを盛り込んで。「今日のメイン商品のあさりはこういう風にするとおいしいですよ」とかね。スーパーのポップでポンと作っちゃえば。

田中:これは商用利用全部オッケイですので、商店街のチラシにしてもいいですし、このマンガを印刷して同人誌として売ってもいいですし、このマンガで持ち込んでもいいわけですね。たしか、発表会の後に『モーニング』の編集長の方が『Twitter』で、「どなたかがこれで作った作品を持ちこんでもいいですか?」と質問したのに対して「いいですよ。何でもありですよ」と答えていましたから。出版社さんのキャパシティは、それなりに広いかなと思います。もちろん、このままでできない場合は、原作者として認めてもらって誰かが作画するってこともあるかもしれないですから。

鍋島:つまり、ネーム原作の代わりに使えるかもしれないってわけですね。

深水:漫画雑誌の編集部に持ち込めるってことは……このまま商業誌に載るっていう可能性は?

田中:いや、あるんじゃないですか。

鍋島:遊びでどっかやるんじゃないの?

田中:今もういくつかのウェブサイトで、自社商品の案内でもう使おうっていう人が使っていますし、あといろんな「お悩み相談」を持っているサイトが、『コミPo!』の4コマでお悩み相談やっちゃってますし。いろいろ出てきてますね。

深水:うちはニュースサイトなんですけど、記事画像の作成に『コミPo!』を使っている記者がいますよ。

田中:そういうのはぜひぜひ使ってもらえればと思います。

鍋島:マンガでマニュアルとか”会社の歴史”とかの原作を作る仕事をやったことがあるんですけどね、見てると、ただ俺が書いたシナリオをだーっとマンガにしてキャラクターと背景があるだけじゃん? ぐらいのものなんですよ。それぐらいのものでもマンガにすると訴求力が違うっていって喜ばれましたもんね。

田中:そうですね。キャラクターがいて吹き出しがあって、そのなかに文字が書いてあるだけでも、ベタうちのテキストよりは読みやすいっていいますよね。そういう裾野的な使い方から本格的なストーリー漫画描く方まで、広く使ってもらってどういうユーザーの方からどういう要望が来るかで、ツールが進化して行くっていう風に今考えているんです。我々がこういうツールと決めつけてこう使えという形を考えているわけではない。

鍋島:一色さんがネーム解説でよくやってた、視線誘導であるとか構図の取り方であるとか、ああいう説明も誰がやっても同じツールを使って説明するから効果が違うでしょ? って説明しやすいかもしれないですよね。

田中:ショートストーリーのシナリオを、いろんな人が『コミPo!』でコミカライズしたときに、どういうコマ割りをしてどういうアングル撮りをするかで、演出力の違いや味付けの違いができるので、そういう競い方も面白いかもしれないですね。

一色登希彦さん

■プロ漫画家からみた『コミPo!』

深水:一色さんは今日初めてこのツールをご覧になったんですよね?

一色:そうですね。いろんなニュースなどでは見ていましたが、サイトなどでだいたいのところは把握していたんですけど、どうしても活版中心、モノクロ中心のマンガ雑誌にマンガを描くっていうことが長いし、それにどっぷりだから、そっちに寄せて考えてしまうんですよね。

深水:それに使えるのかどうか、と。

一色:そうそう。それに使えるのかどうかとか、そう考えちゃうと揚げ足とりやいちゃもんみたいなことも含めて言いたくなっちゃうこともすごくあるんですけども。お伺いしたかったことのひとつは、田中さんがどういう動機でどういう方に向けて作られたのかなということですけども、それはもううかがって。

深水:これで絵を描けない人がどんどんマンガを描きだしてそれが面白くなっちゃうと、たとえばプロの漫画家やべえぞって考えたりはしませんか?

田中:少なくとも僕のジャンルはすごくあるんですよね。不条理ギャグとかは、センスのいい人がこの道具使ったらすごく笑えるものが作れるので、これはまずいかなと。あと、出てきて欲しいと思うのは『コミPo!』芸人ですね。スケッチブックでやっている人たちが、これを使って4コマ作ったほうがよっぽど面白くなるんじゃないかなと。ショートギャグは有象無象これを使ったものがたくさん出てくると思うんですが、中にたとえばセンスがいい人が絶対出てくるんじゃないかなと。その人は『コミPo!』に出会わなかったら絶対マンガを描かなかっただろうしっていう人が出てくるのは、業界にとってはいいことですよね。

鍋島:一色さん、佐藤さんみたいな感じのジャンルを脅かすマンガはなかなか出ないだろうけども、田中さんご自身のジャンルがいちばん脅かされやすいという。

田中:知り合いでですね、鉄工所の社長がいたんですけど、「これを使ってなんか描いてよ」って言ったらすごく面白いものが出てきたんですよ。その人はマンガを描いたことはなかったし、トークも面白いしセンスもいい人だったんだけども、4コマですごいのが出てきちゃったんです。しかも、「インストールして2時間で作りました」って2本くらい4コマが送られてきて。鉄工所の社長が2時間で漫画家になるっていうのは怖いなと思いましたね。

深水:まあ、それをずっと継続できるのがプロだと思いますけども。みんな2、3個は面白いネタを持っていると思いますし。

佐藤:職場とかで話していても、これが出てきたことによって自分たちは脅かされるのかっていう興味があるんですよ。見て「ああ、ないない」って安心するって感じなんですけども。

田中:そうですね。それはまだまださっき言ったサウンドの打ち込みと楽器を演奏する人との関係に近くて、これからまあ進化を遂げていくことで作り方のひとつにはなるだろうなって思いますね。あくまで。

一色:でも、コミックシーケンサーっていう言い方は田中さんが作ったものなんですよね?

田中:そうですね。

一色:シーケンサーって言葉は音楽の打ち込みのシーケンサーっていうのが一番知っているところなんだけども、そう考えるともっときちんと技術が盛り込まれて技術が発達すれば、プロが使うべき、あるいはプロが手放せないってものになるんじゃないでしょうか。それはこの先数年後なのか10数年後なのかわからないけれども、音楽の現場で既にそうなっているように漫画でもそうなる可能性なくはないっていう気がするんですよね。そうなると、脅かされるのかというより、使えるのかってレベルの話になってくる。いわゆる活版の商業マンガのプロっていうレベルに入り込んでくきて、たとえば『コミックスタジオ』がむしろこれを手放せないものになってきたのと同じように、使いたいものになってくる。

田中:こういったツールには過渡期ってあると思うんです。例えばワープロを最初に覚えた頃。絶対手で書く方が早いのに、ぱちぱちぱちぱちとあえてワープロで入力していた。でもどっかのタイミングでワープロのほうが早くなっていく。そこを乗り切る期間をベテランの方はがまんできない、ってところはあると思います。

鍋島:さっき僕が「ワープロが出てきて、構成の上手い作家さんが増えた」って言いましたけど、それ以前は原稿用紙に字を書かない人は作家じゃないと言われてたんですよ。機械をぱちぱち打って書くようなのは作家じゃないと。表現ひとつひとつやセリフのひとつひとつに手書きで魂を込めろ、って言われたことがあります。

佐藤秀峰さん

■マンガの道具はどう変わる?

田中:いまだに専門学校でマンガを教えている人たちには、「マンガっていうのは、原稿用紙にGペンで描くものだ!」って言ってる人もいるわけで、そのへん難しい部分もありますよね。

鍋島:「こんなのはおもちゃだ!」って『コミPo!』を否定する人は、ベテランの作家さんやいろんな作家さんにいると思うけどね。今は。でも、そのおもちゃがあなたの足元を脅かすことはあるかもしれませんよ、と。

田中:サウンドのシーケンサーの一番最初の頃の打ち込みとか、カシオの『カシオトーン』とか初期のリズムボックスって明らかにおもちゃだったじゃないですか。まだそのレベルなんですよ、これは。まだこれからだと思うんです。

佐藤:でも、足元を脅かされるってことはないんですよ。『コミスタ』とか、僕もやっと最近使い始めてるんですけど、でも絵を描けない人って結局描けないからソフトを使えてないわけで。ソフトの性能が上がって一番得するのは漫画家だよなあって思います。

鍋島:そうそう。いろんな道具が開発されて、それがおもちゃだろうがなんだろうが、自分の音楽に取り入れることができることっていうのは、決して忌避すべきことではないよね。自分の表現の幅が広がるわけだからね。

佐藤:そうですね。『コミスタ』を使ったうえでこちらを組み合わせていけば、違うことができて面白そうですね。

田中:ツールを作るメーカーっていうのは、作り手側からの一方的な押しつけは絶対にあり得なくて、使う人が何を求めているかによって機能は追加されていきますから、これは時間とともにより使い勝手のいいもの、作業効率のあがるものになっていくのは確かですね。

このソフトに関しては何よりも竹熊健太郎さんが、2年くらい前にプロトタイプを見せに行ったときに、こっちも自信なかったしどう言われるかわかんなかったんですけど、開口一番で「これは絶対当たる!これは絶対に応援するから」って言ってくれたのんが非常に心強かったですね。それから何年にもわたって「どうなりましたか?」って気にしてくれて。竹熊さんがいなければ、ここまでこれなかったなというのがあります。あの方は非常に新しいことに敏感で、頭が柔らかいですね。

深水:そうですね。そしてこのソフトのこれからのバージョンアップがすごく楽しみです。漫画家さん目の前にしていろいろ言いにくいこともあって、かなり丸い質問してましたけれども。漫画家さんといえば、これまでは絵が上手い人っていう常識がありましたけど、これからそれがまるっきりなくなっちゃう可能性もあるなと感じました。

田中:そうですね。強いて言えば、マンガの原作者っていうのは絵の上手い人ではないけど、よき作家だったりするので、そういう意味ではまたひとつのスタイルが出るのかなという感じですね。

深水:今、いちばん注目のソフトについてお話がうかがえてうれしかったです。


田中:ありがとうございます。

(座談会おわり)

(編集サポート:kyoko)

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