中村光が『モーニング・ツー』で連載中のコメディ漫画『聖☆おにいさん』第6巻が、12月24日に発売された。目覚めた人・ブッダ(釈迦)と神の子=イエス・キリストがバカンスで下界(現代日本)に降りてきて、東京都立川の安アパートで共同生活を送るという設定である。

 聖人をコメディの対象とする斬新な設定と、あまりに人間臭く描かれた聖人の下界生活が大きな話題となった。その後、連載の長期化につれ、宗教や神話に由来するネタが深くなっていった。第6巻ではロンギヌスの槍やユダの聖書など、あまり日本では知られていない宗教的なネタが満載である。

 その結果として、作品を楽しむ前提知識のハードルが高くなったことは否めない。この点で好き嫌いが分かれるところであるが、設定の物珍しさだけでは作品は長続きしない。世間ズレしていない若者の日常生活を描く単なるギャグ漫画ではなく、聖人を主人公とした漫画にとって必然的な展開である。

 信仰の対象である聖人をコメディの登場人物にする『聖☆おにいさん』は、宗教家から不敬と非難される可能性がある。デンマークの日刊紙に掲載されたムハンマドの風刺漫画は大きな国際問題になった。世界に例を見ないほど宗教性の薄い日本社会だから、成立する作品である。

 一方で『聖☆おにいさん』はムハンマド風刺漫画とは異なり、特定の宗教をこき下ろす作品ではない。逆に宗教への理解を深めている面もある。『聖☆おにいさん』のファンの集まるコミュニティサイトなどでは、作品に登場する宗教的なネタの由来について活発に意見交換されている。『聖☆おにいさん』が宗教的な知識を身につける入口になっている。

 宗教の名において現代でも多くの血が流され続けていることを考えれば、現代日本が無宗教的な社会であることには積極的に評価できる面もある。しかし、それは宗教に対して無知や無関心であることを是とするものではない。

 古今東西の人間社会の大半は、宗教が文化のバックボーンとなっており、宗教の理解なくして異文化は理解できない。現代日本は無宗教的であるために、海外では常識化している宗教知識さえ身につけられないまま成長してしまう。それを本来なら不敬な作品である『聖☆おにいさん』によって補うという皮肉な状況が生まれている。

 『聖☆おにいさん』は思い切った作品であるが、作者は漫画家としてもタブーを恐れていない。第6巻では過去の『週刊少年ジャンプ』を「豪華なアイテム」と表現している。『ドラゴンボール』や『スラムダンク』、『幽々白書』などジャンプ黄金時代の人気漫画が掲載されているためである。『聖☆おにいさん』の出版元は講談社であり、大人の事情を優先させるならば『週刊少年マガジン』が来るところである。今後も期待できる作品である。
(林田力)

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