光の道 その誤謬(ごびゅう)と必死なのはなぜの話

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今回はブログ『無線にゃん』からご寄稿いただきました。

光の道 その誤謬(ごびゅう)と必死なのはなぜの話
以下の記事は、あくまで個人的な見解です。

ソフトバンクが光の道はA案かB案か、なんていう広告を大量にだしています。ウェブ広告くらいかと思ったら、テレビコマーシャルまでだしています。ここまで必死にやるには、裏には相当困っていることが起きているんだろうなぁ、というところで、いろいろな情報もでてきたので、簡単にまとめ。

まず、ソフトバンクの言っている“A案” “B案”について。A案は光が5000円で、地方切捨て・整備も遅い、といい、B案は光が1000円ちょいで地方も全部整備・整備も早い、と広告しています。まずどう考えてもこの二つが比較になっていない、ということに気づきます。

だって、この情報だけでは、B案以外に選択肢がないじゃないですか。それ以外に全く差がなく、この条件だけしかないのであれば、だれが考えてもB案になります。しかし国はA案を選択し、ソフトバンク以外のすべての事業者がA案に同意している。これはおかしなことです。

その根本的な理由は、B案は実現不可能な案であるから、というところです。ソフトバンクの投票サイトでも、なぜかA案に10%あまりの票が入っているんです。これは本来ありえないことで、それでも10%の人は、「何かおかしいぞ」と気づいているということです。

なぜB案が実現不可能なのか。それは、ソフトバンクが提出した“B案の提案書”と、NTTの提出した“光網の維持費に関する資料”を見れば分かることなのですが、簡単にまとめると、次のようになっています。

整備投資額 NTT 3.8兆円 ソフトバンク 3.1兆円 (7000億円過小見積もり)
設備保全費 NTT 3400億円/年 ソフトバンク 840億円/年 (2500億円過小見積もり)
減価償却費 NTT 3670億円/年 ソフトバンク 2370億円/年 (1300億円過小見積もり)
管理コスト NTT 2850億円/年 ソフトバンク 990億円/年 (1860億円過小見積もり)
その他省略

その他、おかしな点はさまざまあるわけですが、とりあえず一つずつ解説します。

設備投資額、その主な部分である工事費ですが、ソフトバンクは、「エリアごとに一斉工事を行うことで大幅な工事費削減か可能」と言います。しかし、これは非現実的であることは明らかです。

工事というものが、事業者の都合で一方的にできるものであればそれも可能ですが、実際には、施工業者、納入業者、地権者、そして加入者のすべての都合があわなければなりません。そして、ソフトバンクが以前だしていた試算では、3件/日の工事ペースであれば日本の通信施工業者の全能力で間にあうとしていながら、工事費の見積もり試算シートでは5件/日でやるので工事費は削減できる、などと完全に自己矛盾した仮定を立てていたりします。

もちろん、何より大きいのが、加入者、地権者の都合の調整で、あるエリア内のすべての加入者・地権者の都合が一斉に都合が付けられるということは絶対にありえません。

例えば、私の近所でわずか4軒のガス管工事の日程調整に6か月かかりました。ソフトバンクの“一斉工事”の前提は5件/日、これができるのは移動や足場などの準備・撤去にかかる時間が徹底的に削減できた場合、つまり実質隣接した区画の個宅と地権者が同時にそれぞれ5軒都合があうことが必要で、さらにこれを365日休まずに続けなければなりません。これが実現できるのは天文学的低確率です。NTTは「仮にそれが出来たとしてもまだ7000億円過小だ」としています。

次に大きな問題が、設備保全費です。この場合、架線や電柱や基礎、そして加入者宅内配線などが事故や経年劣化などで損なわれたときにそれを修繕する費用。NTTは3400億円近くかかると言っているのにソフトバンクは840億で済むと主張し、またその主張の根拠は全くゼロです。単に「弊社ならこれが出来る」と言っているだけ。

今まで何十年も架空線と電柱を維持してきたNTTと、その経験が全く“ゼロ”のソフトバンク、どちらのほうが正しい試算を出せるかは、言うまでもないでしょう。勘違いしないで欲しいのは、ソフトバンクがやっている直収電話やADSL、あの架空線も、修繕して費用を出しているのはNTTです。ソフトバンクは1円も出していませんし、修繕のためにどんな工事をするのかさえほとんど知らないというレベルのはずなんです。

そしてこの設備保全費、個人的には、NTTの試算も甘いのではないかと思っています。何しろ、光ファイバが本格的に普及し始めてまだ数年。いわゆる“バスタブ曲線” * の底がまだ見えていない状態です。実際に空中に架線した光ファイバの故障率がどのような曲線を描くのか、実はNTTでさえ知らない可能性があります。

* :バスタブ曲線 『フリー百科事典ウィキペディア』より。
故障率曲線(こしょうりつきょくせん)とは、機械や装置の時間経過tに伴う故障率y(t)の変化を表示した曲線のこと。その形からバスタブ曲線と呼ばれて、時間の経過により初期故障期、偶発故障期、摩耗故障期の3つに分けられる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/故障率曲線

となると、仕様どおりに“20年の平均故障期間”で見積もっている可能性もあります。しかし、空中架線は光ファイバにとっては過酷な条件です。特に地震や台風の多い日本はシビアな環境です。実は故障率は大きく上ぶれするのではないかと私は思っています。

減価償却費もほぼ同じ話で、ソフトバンクは機器の耐用年数を過大に見積もっています。一般的には6年、特に陳腐化や故障の少ない機器で9年といわれる通信機器の世界で、強引に13年に引き伸ばして試算しているため、非常に甘い数字になっています。実際には、交換局内はともかく、過酷な環境の個宅装置は耐用年数はかなり短くなると考えられます。自宅に13年も同じ光ルータが鎮座しているという状況のほうが想像が難しいですよね。

最後に管理コスト。これには、回線の管理、特に、固定ナンバーポータビリティや局間引越しなどに関わる加入者番号管理などが大きなコストがかかっているわけですが、ソフトバンクは「弊社実績です」と回線あたりのコストを過小に見積もっています。

ソフトバンクは、今までに一度たりとも、NTTのような管理をやったことがありません。すべてNTTまかせです。日本の固定電話番号は原則すべてNTTが管理し、事業者間移管や局間移管や収容変更などすべて NTTがやっています。NTTにこういったもろもろの面倒な作業をすべて押しつけ、その上でかかっていた費用がソフトバンクのいう“弊社実績”になります。全く試算の根拠が間違っているわけです。

このようにして、何千億円もの費用を無視して築き上げた“B案”ですから、もしこれを現実にしてしまったら、当然、毎年何千億円もの赤字が出てしまいます。これを補てんするのは、当然“国”、そして“納税者”です。そして一番得をするのは、ただ同然で光回線を借り放題の事業者です。

しかし、それにしてもなぜソフトバンクが、ウェブ広告どころかテレビコマーシャルまで打ってソフトバンクの“架空の案”を推し進めようとするのか。これには私なりの推論があります。

ソフトバンクの案の一番の肝は、光の整備期限でも貸し出し価格でもありません。一番の肝は、“メタル線の全廃”です。現状の電話サービスとADSLサービスを提供している線をすべて廃止することに一番こだわっています。ここに特にこだわっているところから、ソフトバンクの目的が透けて見えます。

ソフトバンクは、今、ADSLの加入者を大量に抱えています。そのため、日本中のNTT局舎にADSL収容装置を設置しています。もし、メタル線が全廃と決まれば、ADSLもすべて廃止です。廃止費用・移行費用は新しいアクセス会社が負担することになっています(ソフトバンク案では)。

となるとどうなるか。ソフトバンクは1円も出さずに、ADSLサービスをやめることができます。つまり、ソフトバンクの最大の目的は、「だれにも文句を言われず1円も出さずにADSLをやめたい」ということなのではないか、と言うのが私の考えです。

実は、『Yahoo! BB』に入っている知り合いから、おかしな話を聞き始めました。それは、「11月ごろから突然、『Yahoo! BB』の光への乗りかえ勧誘が増えた」と言うのです。一社や二社ではなく、十社近くの『Yahoo! BB』代理店から電話があり、「工事費も無料にするし料金などの条件はすべて引き継ぐので光に乗りかえて欲しい」と営業されたというのです。

光に乗りかえても料金もほぼ引き継ぐという条件から考えれば、増収のための営業ではありません。ではなぜこういう営業を行っているのか。それはもう、ADSLを止めたいということしか考えられません。この話を聞いたときにいろいろなものが一気につながったわけです。

そう、ソフトバンクのADSLの局舎装置、そろそろ耐用期限になるんです。ソフトバンクの言う“13年”だとしても、ここ3〜4年の間に耐用期限がきてしまう。これが、とにかく初期の獲得攻勢のために日本中の局舎にばらまいた装置すべてに到来してしまう。ADSLの初期の過大投資に伴う累積損失は大変なもので、会計操作で消えてはいますが実質は赤字のまんまだったと聞きますが、要するにそれと同じものが“もう一巡”きてしまうわけです。

ADSLのサービスを継続する限り、どんなに利用者の少ない地域であっても設備の更改をしないわけにはいきません。よほどの事情がない限り、事業者側から一方的に回線を切断するということはできないためです。おそらくこれに大いに頭を痛めた結果、いっそメタル全廃とほえまくってみるか、と言うのが今回の“光の道”の一件だと思っています。

ちょうどソフトバンク社長室長の嶋氏と、新進党同期当選である原口氏が総務大臣になったタイミングで一気にしかけた、ということでしょう。で、原口氏の事実上更迭で一気に逆転され、今度は意見広告作戦に出た、ということだと思います(そうでなければ、こういった意見広告は議論の始まった今年前半から出てしかるべき)。

その後原口氏は部外者であるにも関わらず、たびたび議場に出てきては未練たらしくソフトバンク案をおす発言をしている模様ですが。ソフトバンクのプレゼンでは“NTTへの天下り一覧”などと個人名のリストまであげてウェブで公開するといういやらしいことをしていますが、政治的便宜を一番活用しようとしていたのはソフトバンク自身じゃないの? と言うのが私の所感です。

私はこの件に関しては、どんな事情があってもソフトバンク案を認めない立場です。というのは、内容がうそだらけと言うこともありますし、にもかかわらず大臣に直接接触して強引に押しこもうとしていたという手続き論的な不誠実さも際立つからです。

今回タスクフォースがまともな結論を出してくれたことに一応ほっとはしていますが、万一、今後ソフトバンクの意見広告にだまされた人たちが議論を蒸し返すようなことになったら大変です。それでもしソフトバンク案が採用されたら、将来的に毎年何千億円の赤字を税金で補てんし続ける会社が日本の通信の毛細血管を支える、と言う通信業界の閉塞時代の到来を意味します。光、同軸、無線など多様なアクセスシステムが多様な価値観で競争し続ける社会こそが私の理想で、その多様性を潰しなおかつ自身も潰れるというソフトバンク案は全く考慮に値しません。

NTT以外の光や同軸や無線が1400円で提供できるか? ……できません。しかし、NTT光だけは税金による補てんで1400円で提供可能となれば、他の光や同軸や(固定目的の)無線は全滅です。光は1400円で使えるようになる代わり、“本当の光の価格”との差額を税金として負担することになります。ソフトバンクは“税金を使わない”としつこく言いますが、ソフトバンクがしつこく繰り返す部分こそ一番疑わなければなりません。赤字が出てきたら、なんだかだと議論した上で「政府が出資してるんだから」と言う理由で税金で補てんと言う話になるしかないんじゃないかと思います。これは、JR民営化や郵政民営化やJAL再建のごたごたを見てればまずそうなるよなぁ、と。

そんなわけで、こんな駄文ごときでソフトバンクの意見広告に対抗できるとは思いませんが、こういう意見もありますよー、と言うことで掲載させていただくことにしました。ではー。

執筆: この記事はブログ『無線にゃん』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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