出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。今回は、新作『伏 贋作・里見八犬伝』を上梓した桜庭一樹さんをお招きし、インタビューを行いました。桜庭さんにとって初めて舞台を江戸時代に設定した本作。桜庭さんはどのような想いを持っているのでしょうか。また、本作は12月15日に電子書籍版がリリースされたほか、アニメ映画化のプロジェクトも進んでいるそうで、そちらについてもお話をうかがいました。3回に分けてお送りするロングインタビュー、最終回です。

■桜庭一樹さんが今年読んで面白かった3冊とは?

―本作『伏 贋作・里見八犬伝』はすでに、アニメ映画化のプロジェクトがスタートとしていると帯に書かれていましたが、こちらはどのくらいまで進んでいるのでしょうか。

編集・斉藤さん「まだ何年何月公開という具体的なところまでは決まっていませんが、今はプロジェクトをスタートさせて、公開に向けて進んでいるというところですね」

―桜庭さんご自身は、このアニメ映画化のプロジェクトの方に携わっていらっしゃるのでしょうか。

「私自身は直接的には携わっていません。前に映像関係の作家の方とお話をしていて、(桜庭さんの作品は)どれも(映像化)しづらい、『少女には向かない職業』だけはやりやすいと言われたことがあるのですが、おそらくこの『伏 贋作・里見八犬伝』も、映像のプロの方から見たら、かなりやりづらいんじゃないかと思います。だから、完全に自由に作って頂いたほうが良い作品になると思いますね」

―また、12月15日には本作の電子書籍版がリリースされます。今年は電子書籍元年と言われて、文芸分野の作家さんたちの作品の電子書籍化も徐々に増えていますが、桜庭さんは電子書籍についてどうお考えですか?

「私は映画が好きなんですが、例えば『映画はスクリーンで見なければいけない!』という世代の方もいらっしゃいますよね。でも、私が若い頃はお金がなかったので、映画館にあまり通えなくて、14インチのテレビデオってあったじゃないですか、あれで映画作品を観ていたんですね。すごい字幕が小さくて…。上の世代の映画ファンの中には、『こんなテレビデオで観ても映画は分からない!』という方もいらっしゃると思います。でも、私にとってはあの頃観た映画はどれもすばらしいものです。
そう考えると、自分はやはり紙で読んできた世代ですから、iPadで見せて頂いてもとても読みづらいかもしれないと思います。でも、次の世代になると電子書籍で読むのが当たり前になるかもしれません。そのとき、紙で読んでいないからといって本を分かっていないかというと、そういうことでもなくて、私にとっての“テレビデオで観る映画”のようになるのかなとも思いますね。
そういえば、伊藤計劃さんの『ハーモニー』の中に出てくる図書データベース、携帯端末電子図書館みたいなものに「ボルヘス」というルビがふってあるのですが、ボルヘスの作品の中に、時空図書館のような、去から未来の全ての本がある螺旋状の図書館が出てくるものがあるんです。そういった、図書データベースにボルヘスと名づけるような愛情が電子書籍の業界の中から感じられたら、もっと身近になるかもしれません」

―この「ベストセラーズインタビュー」では毎回テーマに沿って3冊の本を選定して頂いています。今年を振り返って、桜庭さんが今年読んで面白かった本を3冊選んで頂けますでしょうか。

「3冊ですか。何をあげようかな…。まずはニコライ・ゴーゴリの『外套』です。ゴーゴリはロシアの作家なのですが、私、実はロシアの作品ってすごく苦手だったんです。それが『外套』を読んだら大変面白くて、今まではイギリスやアイルランドの方の小説を多く読んでいたのですが、今度はちゃんとロシアの作家の作品も読んでみようと思いましたね。
それから、古井由吉さんの『人生の色気』という、これは小説ではなく、聞き書きですね。古井さんがお話されたものをライターさんがまとめていらっしゃる作品なのですが、内容が素晴らしいんです。もともと古井さんの文体を楽しもうと買ったのですが、古井さんが実際に書かれているのは前書きだけでした(笑)。でも、この本がきっかけで古井さんの小説をもっと読むようになりました。
3冊目は、アティーク・ラヒーミーというアフガニスタン出身の小説家の本です。実は(ラヒーミーは)いろいろあってフランスに亡命されているのですが、彼が初めてフランス語で執筆したのが『悲しみを聴く石』というもので、それを読んだらすごく面白かったんですね。そうしていたら、そのラヒーミーがアフガニスタンにいるときにダリー語(アフガニスタンの公用語の1つ)で書いた『灰と土』という作品も面白いと聞きまして、そちらを読んだところ、これも素晴らしい小説だったんです。どちらか選ぶとしたら『灰と土』でしょうか。ダリー語からフランス語になって、フランス語からさらに日本語に翻訳されているんですが、それでも元の文体が伝わってくるようでした。聴き慣れない音楽を聴いている感じで、未知の体験ですね」

―ありがとうございます。では、最後に『伏 贋作・里見八犬伝』の読者の皆様にメッセージをお願いできればと思います。

「時代小説といっても全然難しくなく、読み慣れない方でも読める活劇風に書いていますので、気軽に手にとって読んで頂けたらと思っております」

(第1回:「江戸時代の雰囲気が楽しめる作品にしたかった」へ)
(第2回:「伏姫にいないはずの弟をつくったら、物語が動き出した」へ)

(新刊JP編集部:金井元貴)

■取材後記
たくさんの本を読まれていることで知られる桜庭さんですが、インタビュー中にも様々な小説家の名前や作品名が登場し、お話を聞いているだけで勉強になりました。
また、電子書籍の話で出てきた「ボルヘス」のエピソード、確かに電子書籍の世界ではそういったセンスってあまり見受けられません。紙であれ電子であれ、書籍には違いありません。過去の大家たちに敬意を評し、名前を拝借するなどのセンスがあれば、「新しさ」によって生まれる溝も埋まるのかも知れませんね。
キャラクターたちが活き活きと江戸の町を駆け巡る『伏 贋作・里見八犬伝』。書籍版だけではなく、電子書籍版も12月15日にリリースされています。自分の読書スタイルにあった形で是非お楽しみ下さい。

■『伏 贋作・里見八犬伝』
著者:桜庭 一樹
出版社:文藝春秋
定価(税込み):1,700円
江戸で犬の子孫「伏」を狩る兄の元へとやってきた猟師の少女・浜路は、兄とともに伏狩りを行う中で、怪しい動きをする滝沢馬琴の息子・冥土と出会う。「伏」たちの血に流れる悲しい運命とは―。江戸を舞台にしたエンターテインメント小説。
*12月15日に電子書籍版がリリース。iPhone及びiPadに対応しており、AppStoreで発売されています。

■プロフィール
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市ロンリネス・ガーディアン』と改題)で第1回ファミ通エンタテインメント大賞に佳作入選。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、2004年に刊行した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価されて注目を集める。2006年に刊行した『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞を受賞。2008年『私の男』で第138回直木賞を受賞する。近著に『荒野』『ファミリーポートレイト』『製鉄天使』『道徳という名の少年』などがある。

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