都の青少年健全育成条例改正案が招く表現萎縮とはどんなものか

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今回はアキミさんのブログ『ボーイズラブを読む! 〜萌えを求めて三千里〜』からご寄稿いただきました。

都の青少年健全育成条例改正案が招く表現萎縮とはどんなものか
都の青少年健全育成条例改正案の内容についてはどこまでいっても都と反対派の主張が平行線上を走っている印象です。

大多数の都議は「表現規制ではない、ゾーニング(※)だ」と言い張っています。(※編集部・注:ゾーニング=区分すること、区分制度)
今朝方、副知事に至っては、

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出版倫理協会や映倫などの人が審査するのです。せいぜい月に数冊が区分棚へ移される程度。「非実在青少年」という役人言葉が消えたことにむしろ感謝していただきたい。
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猪瀬直樹氏のツイート
http://twitter.com/inosenaoki/status/14407732161421314/

と言い放ちました。感謝って!
一連のツイートを見てあまりの上から目線に呆然としました。

ゾーニングするだけ。
表現規制ではない。
あなたたちは好きなものを描いて発表すればいいのです。

……でも“月に数冊が区分棚へ移される”。
役人にとっては何万冊、何十万冊の中の“せいぜい月に数冊”かもしれませんが、その中に入る1冊を執筆した作家にとっては唯一の1冊なのです。

本屋さんの面積は無限ではありません。
特にBLをはじめとする女性向けのエ口作品の場合、そもそも分けるべき棚が一般の本屋さんには存在しません。

自分の店に並べる場所のない本を、本屋さんが仕入れて売ってくれるでしょうか?
たぶん、仕入れてもらえません。

本屋さんに並ばない本が、どうやって読者の手元に届くのでしょう?
大多数の読者は、その本の発売にすら気づけないでしょう。

存在を認知されない本が売れるでしょうか?
売れるわけがありません。選択肢にすら入らないのですから。

売れない本を、出版社は出版してくれるでしょうか?
してくれません、と言うかできません。そんなことしてたら会社が潰れます。

出版社が出せない本を、作家さんは描けるでしょうか?
漫画も小説も、生み出すには多大なる労力と時間がかかります。
描いたわ出版して貰えないわでは収入になりません。
収入がなくては生活が成り立ちません。
つまり、描けません。

収入の心配なく好きなものを描けるような作家さんがこの世に何人存在するでしょうか。
恐らく、99.9%以上の作家さんは、作品からの収入なしでは困るはずです。

この流れを容易に想像できるがために、声を揃えて都の条例改正案は表現規制になると反対しています。

また、都条例が原因の萎縮はすでに出版の現場で起き始めています。
BL作家の水戸泉さんは、表現規制反対集会でおっしゃいました。

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水戸泉氏「すでに表現の萎縮が始まっている。BLで、子供が脇役で出てきて警官を撃ち殺すシーンを「自粛してくれ」という要望が編集者から。すでに現場では混乱が起こっている。大阪ではBL雑誌が規制を受けた」
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谷分章優氏のツイート
http://twitter.com/himagine_no9/status/14157680354

この話は、今回対象外とされる小説でです。
直接関係がないと都が主張する小説の制作にまで影響が出ています。

また、BL漫画家の高久尚子さんも、編集者に

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脇から失礼します。私は先日「都条例の件がありますので、高校生はやめてください」とはっきり駄目出しされました(漫画)。レーベルによってはもう学生服が描けないですね…。
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高久尚子氏のツイート
http://twitter.com/shoko_takaku/status/13827585075052544

はっきりと都条例の件があるから高校生を漫画に出すのをやめてくれと言われています。

編集者はもちろん、出版社の人間です。
本を出してくれる会社の人間に、この設定は規制対象になる可能性があるから自粛してくれと言われたら、その意見を押しのけて作品を描けるでしょうか。
描いてもボツになって、その原稿制作にかかった時間が無駄になってしまいます。
もちろん、ボツになった原稿に出版社はお金を払ってくれません。

描いても出せないよ、と言われたら、どんなに描きたくても作家さんは躊躇うでしょう。
特に新人作家さんなどは設定自体を変えざるを得なくなる可能性が高いです。

これが萎縮です。

都議の山口拓氏は、水戸泉さんとの電話で、萎縮は誤解だ、とおっしゃったそうです。

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現場の人間がすでに萎縮が始まっていると言っても「それは誤解」の一点張り。「不健全指定を受けたら店頭から撤去されてしまう、発売一ヵ月以内に売れなかったら現状その本は売れないんです、つまり出せなくなる」と言っても「指定されなきゃいいんでしょ」って、それはないでしょう…
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水戸泉氏のツイート
http://twitter.com/mittochi/status/14572566119186432

誤解とは何でしょう。
現場で、最前線で筆をとって小説を書いている、漫画を描いている、それによって収入を得ている作家が、実際に書きたいことが書けない状況になっていると現状を訴えて、なぜそれを誤解と断じられるのか。
実際に萎縮してしまったという実体験を訴えて、誤解はひどいのではないでしょうか。

しかしこれが現実です。

出版社が自粛を求め、それによって作家さんが萎縮してしまったら、産まれるはずだった作品がこの世に出てきません。
作家さんの中で産まれかけた物語は、条例によって、産声すら許されずに殺されていきます。

私はただの読者です。
この世に出てこられなかった作品を愛でることも守ることもできません。
本当に悔しい。
守りたいものを守れない厳然たる事実が許し難く悔しいです。

出版社だって、この出版不況の中、本棚に並べてもらえないかもしれない本を出すのは非常にリスキーです。
戦う余裕のある出版社の方が少ないはずです。
そんな版元さんに向かって、絶対に読みたいから何が何でも作家さんの描きたいものを描かせて出版してくれなんて言えません。
もちろん、なんとか戦えるのならば戦ってほしい。
でも共倒れになったら本末転倒です。

表現規制じゃない、好きなものを描けばいい、もし規制対象に該当したら棚分けされるだけ。
こんな放言は、現場を知らないからこそ言える内容です。
前も書いたけど、首に緩く縄をかけて、首は絞まらないから死なないでしょう、それなら問題ないじゃない。
って言ってるのと一緒です。

ふざけるなと言いたい。
棚分けするだけと簡単に言わずに、具体的にどうすればいいのか、何が最善なのかを議論してほしい。
実際に書店に来て、望ましい道を探ってもらいたい。
机上の空論にしかならない、本を絶版に追い込みかねないゾーニング論なんか、もう聞き飽きました。

本当に表現は自由だというなら、その自由を出版の現場に具体例を伴って証明して欲しいのです。

以下、漫画家さんが体験した萎縮の構造をまとめてくださったものです。
出版界で何が起き始めているのか、一端が垣間見えると思います。

「萎縮の構造」2010/12/14『天翔けるマントヴァ人改』
http://d.hatena.ne.jp/mantovajin/20101214


編集者側からの意見を見つけたのでリンク張ります。
編集さんだって、望んで作家さんに自粛を求めたりなんかしない……。

「都条例改正案の可決を受けて、編集の立場からツイート」『Togetter』
http://togetter.com/li/79843
ジャパン・ブランドとしてのアニメや漫画のコンテンツ産業は、このままでは萎んでしまうでしょう。


もちろん、規制をかいくぐって様々な表現が模索されてはいくでしょう。
日本の表現者は昔から逞しかった。
しかし、それでも死んでいく、産まれずに消えていく作品が現実にあります。
そこから、目をそらさないで欲しいのです。

(このエントリは、萎縮がこんな構図で起こるんだよという記事です。これで推進派を説得できるとは思わないけど、萎縮は誤解だとか表現規制にならないという主張を何度も見て、そんなことないよって思って書いたもの。どっちかというと反対主張と言うより、可決されたらたぶんこうなるよ凹 という内容です。

都条例の内容や問題点に関する私の考えはこちら* に書いてあります)

*:「都の青少年健全育成条例改正案が発表」2010/11/22『ボーイズラブを読む!』
http://blove.livedoor.biz/archives/51153380.html

執筆: この記事はアキミさんのブログ『ボーイズラブを読む! 〜萌えを求めて三千里〜』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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