「伏姫にいないはずの弟をつくったら、物語が動き出した」―桜庭一樹さんが新作『伏 贋作・里見八犬伝』を語る(2)

写真拡大

 出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。今回は、新作『伏 贋作・里見八犬伝』を上梓した桜庭一樹さんをお招きし、インタビューを行いました。桜庭さんにとって初めて舞台を江戸時代に設定した本作。桜庭さんはどのような想いを持っているのでしょうか。また、本作は12月15日に電子書籍版がリリースされたほか、アニメ映画化のプロジェクトも進んでいるそうで、そちらについてもお話をうかがいました。3回に分けてお送りするロングインタビュー、第2回目です。

■伏姫にいないはずの弟をつくったら、物語が動き出した

―『伏 贋作・里見八犬伝』の主人公である浜路は、本家『南総里見八犬伝』では信乃の許婚でした。浜路を主人公に据えた理由はなんだったのでしょうか。

「本作を書くときに“追われる伏”と“追うハンター”という構図にしようと思っていたんです。
私の好きな『ブレードランナー』という映画にはレプリカントというロボットとそれを追うハンターの関係が書かれていたり、『吸血鬼ドラキュラ』には吸血鬼とそれを追うヴァン・ヘルシング教授という構図があったりします。ヴァン・ヘルシング教授は原作では全くアクションしない人なんですが、映画だとマッチョな感じで、戦うハンターみたくなっていることがあるんです。
そういう感じで、吸血鬼的に追われる“伏”と、追う“ハンター”という構図にしようと思いました。ただ、追う方があまりに強かったり、正しかったりすると一方的過ぎるというのもあって、人間的にも未熟な少女を主人公に据えようということで、浜路を主人公にしたんです」

―江戸時代には「勧善懲悪」という思想がありましたし、馬琴の『南総里見八犬伝』もその思想を体現しているといいます。でも、本作では追う者と追われる者という構図はありますが、「勧善懲悪」の思想はあまり感じられませんでした。

「善とも悪ともいえないものって多いと思うんですよ。例えば吸血鬼モノでは、吸血鬼側の事情もしっかりと書かれますよね。追う方だけではなく、追われる方にも気持ちがある。『ブレードランナー』も追う者が正しくて、追われる方が間違っているという描かれ方ではなく、追われる方の悲しみ、生存しなくてはいけないという意思が書かれています。だから、悪役を書いていても自然とそちらの方に感情移入してしまうんです」

―本作には個性的なキャラクターが並びますが、その中でも「兄弟」が多く出てくるのがすごく印象的でした。

「元々、伏姫に弟はいないんです。でも、この作品を書くにあたって、伏姫に弟を創ったら急に話が動き出したんです。そこで急遽、姉と弟の確執が入ったりして、弟という存在が出来たことによって、光と影、正義と悪というような対比が生まれました。
そういうこともあって、ハンターも兄と妹にしたり、冥土も…本当は馬琴の息子は早くに亡くなっていて、その息子の奥さんが馬琴の目が見えなくなった後も口述筆記をしたりしているはずなんですね。そこで編集さんと、本作は兄弟がよく出てくるから、ここも兄弟で対比させたらどうかという話になって、急遽妻ではなく姉が書いていて、弟の居場所がなくなるという話にしたりしました。だから、今回は兄弟の対比というのはすごく意識をしましたね」

(第1回:「江戸時代の雰囲気が楽しめる作品にしたかった」へ)
(第3回:「桜庭一樹さんが今年読んで面白かった3冊とは?」は明日26日配信)

(新刊JP編集部:金井元貴)

■『伏 贋作・里見八犬伝』
著者:桜庭 一樹
出版社:文藝春秋
定価(税込み):1,700円

■桜庭一樹さんプロフィール
 1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市ロンリネス・ガーディアン』と改題)で第1回ファミ通エンタテインメント大賞に佳作入選。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、2004年に刊行した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価されて注目を集める。2006年に刊行した『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞を受賞。2008年『私の男』で第138回直木賞を受賞する。近著に『荒野』『ファミリーポートレイト』『製鉄天使』『道徳という名の少年』などがある。

【関連記事】  元記事はこちら
桜庭一樹さんが新作『伏 贋作・里見八犬伝』を語る(1)
有名作家に見る「小説タイトルの決め方」
会話の間が持たない人のための3つの方法
道尾秀介はどうして「子ども」を主人公に据えるのか?

【新刊JP注目コンテンツ】
ビジネスマン必読マンガを書店員さんが紹介!「ブクナビ」
個人に合わせた情報が手に入る「新しいメディア」 『スマートメディア』特集