「この状態を、日本代表を目指す子供や若者たちにそのまま引き継がせるわけにはいきません」。「日本サッカー協会が動かないようなら、僕ら選手ができる最後の手段はそれしかない」と言うのは中澤佑二。彼は、報酬など待遇面の改善がなければ、代表招集拒否も辞さない構えだという。

日本代表選手が手にするギャラはおよそ1万円の日当と、試合の勝利ボーナスだ。後者の相場は、相手の強い弱いにもよるがマックスで20万円。韓国と戦い引き分けた先日の日韓戦は5万円だったという。

このような話を、一般のファンはあまり知らない。先日打ち合わせしたある出版社の編集者、つまり業界人でさえ、僕の説明に「へー」と驚いた様子で耳を傾けていたほどだ。もちろん金額の安さに驚いたわけだが、それと対照的なのが代表監督の年俸。こちらは岡田サンでさえ1億円以上。彼には3億円以上の金額が懐に転がり込んだことになる。

代表選手と代表監督。両者は代表チームの枠内において対等な関係にはない。まさにプロっぽい待遇を受けている監督に対し、選手はアマチュアの域を脱し得ない立場に身を置く。所属クラブからの報酬でプロとしての立場を保っている。

代表チームへの参加は、奉仕に近い。招集を断っても非難を浴びる筋合いはない。しかし、この本来像についてファンはあまりよく知らない。代表監督の招集に素直に従うのが代表選手の姿だと思っている。そのあたりについて考えたことがない人が大半を占めるだろう。欧州のクラブに所属する選手が、親善試合のために帰国するのは当然。例えば松井大輔が、それで、数分しか起用されなくても問題性はないと思っている。

もし招集を拒めば、陰で非国民呼ばわりされることは明白だ。悪役のイメージを背負うハメになる。にもかかわらず選手は、文句一つ言わずに代表チームに参加する。「代表選手」の肩書きが、日本ではひときわ重いからだ。日本代表を中心に回っている日本サッカー界にあっては、より高いブランド価値がある。これがあるかないか、高いか低いかで、引退後の身分に大きな差が生じる。「目標はワールドカップ出場です」と多くの選手が言う理由のひとつでもあるはずだ。

冒頭の台詞を吐いた中澤選手には、引退後も安泰な立場にある。すでに高いステイタスを備わっている。言える立場にある選手が、言えない立場にある選手の分まで口にしたという感じだ。ファンにとっては、いささかショッキングな発言だったに違いない。ネットで高いヒット数を獲得した理由だと思う。

中澤選手は、悪役を買って出た格好だ。メディアも彼の発言を後押ししている様子は見られないので、その姿はともすると、問題意識の高すぎる理屈っぽい存在に映りがちだ。協会のやり方はおかしいと、その姿勢に異を唱える声は聞かれない。テレビからも新聞からも、雑誌からも。狡さを感じずにはいられない。

僕が、代表選手を叩く気になれない一番の理由だ。叩かれるべきはまず監督。その費用対効果に、なにより目を凝らす必要がある。協会に嫌われたくないから。代表監督に嫌われたくないから。だとすれば、あまりにも情けない。

「悪いのは監督だけじゃない」
「実際に試合をするのは選手。サッカーは監督がするものではない」
「ひとたび試合が始まれば、監督は無力」

こうした台詞を僕が使いたくない理由でもある。それらは言い換えればヨイショ。ファンがあまり知らないことをいいことに、待遇に大きな差があることを知らんぷりするような言い回し、立場の弱い人間に責任をなすりつけようとする姿勢には、怒りさえ覚える。

代表選手は、いわば日本サッカー産業を支える根幹。重要な商品だ。そこにキチンとお金が支払われていないことを、選手自身の口から吐かせるのは狡い。この時代に日当がたったの1万円というのは、やっぱりどうかしている。まさに手弁当の世界だ。

代表戦のスタンドはほぼ満員。視聴率もそれなりに高い。代表戦は日本で1、2を誇るキラーコンテンツだというのにこの有様だ。ストライキというのは、僕は好きではないけれど、このあまりにも歪んだ世界は、そのぐらいのことをしなければ、改善されないのかもしれない。少なくともこれまで、見て見ぬ振りを続けてきたメディアに、それはけしからんという資格はないと思う。

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