■ゾーンディフェンスは日本人に合っている
――これだけ組織的、有機的に動けるチームをどうやって作られているんでしょうか。
「源流はイタリアのアリゴ・サッキなんです。ただし、昔からゾーンディフェンスはピッチを等分して、そこから離れてはいけない、といったサッカーに思われがちだった。横のゾーンは横の人というようにね。以前読んだ本ですけど、その昔、ブラジルがゾーンディフェンスをやっていて、ここにFWが対抗するにはDFとDFの隙間で受けることが大事だと。だけど、このDFの個人の能力が大きくなると隙間がなくなって交わるから、DF2人対FW1人で対応されてしまうと。そういう理論でした。何となくわかるんだけど、最終的に意味がわからなかった。

私が本当のゾーンディフェンスと出会ったのは、広島のときのバクスターが最初なんです。そのとき、私はコーチから選手に復帰して、選手としても経験できたから、これは素晴らしいし、私たちにもできると思った。日本人に合っていると思ったんです。もう、目から鱗ですよ。それまでマンツーマンしか知らなかったものですから」

――今でも、Jリーグのチームはほとんどがマンツーマンです。
「マークの受け渡しを、ゾーンディフェンスと言っているような感じだと思うんですよ。そのとき、私は衝撃を受けたんです。マンツーマンは敵によってポジションが決まる。ところが、ゾーンディフェンスは味方の位置によって自分のポジションが決まると。ピッチ上に隙間をつくらないということなんです。隙間は、逆サイドのスペースと、オフサイドの裏のスペース、ここだけは空いてしまう。だから、ここは放棄する。ボールに対してどう守備の体系を構築するか。だから、ボールを中心に、選手をどう配置するかなんです。これはバスケットではかなり前から言われていることで、整備も進んでいると思います」

――その放棄したスペースはどうなるのですか。
「ファーストディフェンダーがしっかりアプローチすれば、この放棄したスペースには蹴られないわけです。相手は近くにしか蹴れない。だから、ここは捨てていいんです。常にボールに対して数的優位をつくるのがゾーンディフェンス。それが原則です。たとえば、DF4人とMF4人の間に、相手の2トップ1シャドー、さらにウィングバックが上がって5人が入ってくるときもあります。最終ラインが4人対4人くらいの状況はいくらでもあります。昔は4人対4人だと『ひとりも余らない』と慌てていたんです。でも、そんなことは一切関係ない。相手が5人いても、6人いても関係ないんです。なぜか。ボールは一個だからです。敵が何人いようが、この一個のボールに対しては、こちらが2人に対して相手が1人。ワイドミットフィルダーがプレスバックすれば3人対1人、ボランチが入れば4人対1人。そういう数的優位の状況をすぐ作り出せるのがゾーンディフェンスなんです」

■大久保嘉人にマンツーマン的な守備を要求したってやるはずが無い
――そのために常に適切なポジションをとっておくことが肝要ですね。3ラインの間隔を10mに保っていれば、たとえ相手が5人入ってきても怖くない。こっちは8人いると。
「その適切な感覚を保つために、僕らは最初、バーを持ってお互いに繋がって練習するんです。ひとりの選手が動けば、となりの選手もバーに引っ張られて動くことになるから、常に周囲との距離は一定になります。『味方のポジションで自分のポジションが決まる』というのはそういうことです。一方、相手のサイドバックが攻撃的に来たとき、うちのサイドハーフを下げて守備的にさせるという戦い方をするチームがありますが、これはまさしくマンツーマンなんですよ。

私が神戸にいたとき、大久保嘉人をサイドハーフで使っていたんです。でも、そんな守備を要求したらアタッカーである彼はやらないし、私もやらせたくないですよ。そんなことまでしていたら点なんて獲れない。相手のセンターバックがボールを持っていて、サイドバックが上がっていっても『ついていかないくていい』と。『そのパスコースのライン上に立てばいい』『ゴロで通させなければいい』と。浮球できたなら、ラインをコンパクトに保っているから、味方のサイドバックがすぐに対応できます。下がらないで、高い位置でボールが奪えれば、すぐに攻撃に移れます。そうすれば、サードストライカーとしての役割が果たせます」

――もし、相手がパーフェクトなボールを出してきたとすれば?
「そうなれば、今度はそこが新たなボールの位置に変わるんです。そこを中心にポジションを取らなければいけない。すぐに挟まないといけない。でもそこにパスが出ないのならば、付いていく必要もないんです。だから、大久保嘉人もそれだったらやりますよ。しかも彼は賢いから、相手を後ろに置いて、前のポジション取りがホントに上手だった。守備に帰りたくないから、あとは要領の良さですよ。パスコースを空けておいて、パスを出させてボールをとる、とかね。彼は要領がよかった。サッカーインテリジェンスの高い選手はやりますよ。ボランチの選手は特にその能力が必要なんです。昔は、鹿島の本田がうまかったです」

(第3回へ続く)

■著者プロフィール
鈴木康浩

1978年生まれ、栃木県宇都宮市出身。Jリーグ登録フリーランス。作家事務所を経て独立。現在はJ2栃木SCを中心に様々なカテゴリーのサッカーを取材。「週刊サッカーマガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。

関連リンク
スポーツライター鈴木康浩の奮闘日記


携帯版閲覧方法
『サッカーを読む! Jマガ』公式携帯サイト

QRコードでのアクセス

docomo_qr



携帯各キャリア・メニューからのアクセス
  • docomo:iMenu → メニューリスト → スポーツ → サッカー→【サッカーを読む!Jマガ】
  • au:au oneトップメニュー → スポーツ・レジャー → サッカー →【サッカーを読む!Jマガ】
  • SoftBank:Yahoo!ケータイ → メニューリスト → スポーツ → サッカー →【サッカーを読む!Jマガ】


  • 【関連記事】
    マリノスに降りかかる嵐は再生の神話か【清義明】(2010.12.21)
    クラブワールドカップ・雑感【加部究】(2010.12.21)
    スポーツライター鈴木康浩の奮闘日記




    【関連記事】
    栃木SC・松田浩監督インタビュー 第1回【鈴木康浩】(2010.12.20)
    清水エスパルス・長谷川健太監督インタビュー 第3回【森雅史】(2010.12.18)
    清水エスパルス・長谷川健太監督インタビュー 第2回【森雅史】(2010.12.17)
    清水エスパルス・長谷川健太監督インタビュー 第1回【森雅史】(2010.12.16)