【規制バスター】タクシー初乗り運賃が高くなるのは規制のせい? 政策工房の原英史さんにきく タクシー規制たち

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毎回さまざまな業界の不思議な規制をご紹介する『規制バスター』シリーズ。今回は「タクシー業界」です。

●登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信)

原さんプロフィール:
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。

●タクシー業界は今、再規制強化の真っ最中

ふかみん:今回はタクシーまわりの規制の話、ということでよろしくお願いします。

原:タクシーの話って、“いきすぎた規制緩和”といって最近問題になったのが記憶に新しいと思うんですけども、タクシー業界はもともとガチガチに規制されてた世界なんですね。そもそも新規参入するのも厳しい規制があったし、車の台数を増やすのも規制、運賃もすべて認可で決まっていたんです。例えば、東京はこないだまで初乗り660円で統一されていて、あれもすべて決まっていたんですね。法律上は、“運賃の認可”という仕組みになっていて、タクシー会社が国土交通省、実際には地方の運輸局に権限があるんですが、そこに申請して認可してもらう仕組みなんです。ただその認可制度だけなら、料金にバリエーションが出ておかしくないんですが、実は運用上通達があって、同一地域は必ず同一の運賃ににしなければ認可してはならないと書いてあった。

ふかみん:それはなぜですか?

原:競争になって困るから。昔の小学校でよく言われた徒競走みたいにみんなで手をつないでゴールしましょうね、って感覚でしょう。みんな横並びにいきましょうと国が規制し、それ以外は認可しません、という仕組みだったんです。

●タクシー運転手さんが寝不足になってしまうから料金値上げ? 料金設定にまで口を出す不思議な仕組み

ふかみん:そんなにまでして競争させたくないんですね。

原:ごく最近までそういうガチガチの規制だったんですが、90年代から徐々に運賃の自由化がおこなわれ、小泉内閣の頃にさらに新規参入が自由化され、されに台数も増やせるようになりました。ところがこれがまたひっくり返った。そのいきすぎた規制緩和のせいで大変な事になった、ということで2008年に再度規制強化ということになった。その再規制強化で何が起きているかというと、例えば今だったら初乗りが安いタクシー会社があるでしょう? 東京でもときどき見かけます。大阪だともっとその勢力が盛んで、”ワンコインタクシー”がたくさんでてきている。しかし再規制強化の流れの中で500円という運賃は認可できないので、値上げしなければなりません、と近畿運輸局が指示をしています。ワンコインタクシーはだめだと。550円とか660円が妥当という指示をしているんです。

ふかみん:なんで料金設定にまで口出ししてくるんだろう……

原:それは再規制強化の理由そのものなんですが。規制緩和をした結果、タクシーの台数がうんと増えて、値下げ競争になり過当競争になってしまった。競争が激化し経営状況が悪化、タクシー運転手が法令にふれるような長時間労働を強いられた。過酷な労働環境の中で無理矢理働かせられるようになった、ということです。結果として、寝不足で運転して事故を起こしたり、安全面の問題が生じた。そういった“労働環境の悪化”や“安全面の問題”がおきている。これが”いきすぎた規制緩和”の結果、ということになったんです。なので、また規制を強化しなければいけないという議論が盛り上がった。2006〜7年です。そして2008年に法律が国会で通ったわけです。ただ、問題が“労働条件の悪化”とか“安全性の問題”というなら、必ずしも運賃を上げなきゃいけないって話ではないんじゃないか。労働条件の問題なら、会社と運転手さんとの関係を規律すればいいわけですし。

ふかみん:労働基準監督署という、そのためのお役所ってありませんでしたっけ。

原:しっかり法令守って、過重な労働をさせないように厳しく監督するとか、安全性の問題であれば、安全点検をしっかりやるようにとか、そういう話が本筋ですよね。

ふかみん:本来は労働環境の整備と安全の確保をしっかりやったうえで、会社が勝手に運賃を決めればいいだけの話ですよね。

原:この再規制強化は、2008年に国会でさんざん審議して決めた話なので、全く間違っているとか言うつもりはありませんが、ただ、「運賃を上げましょう」とか、「新規参入をなくそう」「台数も過剰になってるから減らしましょう」という方向にばかり話がいっていることは、どうも解せない。それって端的にいえば、お客さんにとってはよくない話かもしれないですね。。昔は乗車拒否とか、近い距離だと夜は乗せてくれないとか、そういうことが問題だったんですが、最近ではなくなってきてたじゃないですか。あれは台数が増えたから競争が起き、サービスが良くなったということで、お客さんにとってはよい方向に動いていた。しかしそれも、元に戻っていく可能性が高い。たぶんこれからどんどん値段が上がっていきます。台数が余っているとされている東京や大阪等主要な都市圏では新規参入はできない。そしてさらに減車の話が進んでいる。

●規制で得しているのは誰?

ふかみん:利用者のメリットが見えないし、そもそも国がタクシーの台数や料金のパラメーターをいじることによって、誰に”うまみ”があるんですか?

原:明白なのは、”国の権限”を握る役人にとって“うまみ”があることです。もっと言えば、タクシー業界への天下りも。

ふかみん:ここでも、つながってるんですね。

原:例えば、規制について地域でまとまって協議するために地域協議会をつくったりするんですが、そこで役所と業界との”つなぎ役”が必要になってきます。規制が強まれば強まるほどこの役割は重要になってくるんです。国のやろうとしてることを伝達したり、逆に「ここまで規制されるのは困る」といったことを国に伝えたりする。そのつなぎ役が天下りなんです。そういう仕事するためにこれまで、いろんな業界団体に役所の人が天下っていた。

ふかみん:運輸局とか国土交通省とかから?

原:そういう人達が、地域のタクシー協会などに天下りをしている。

ふかみん:形式的にききますけども……「それって、本当ですか!?」

原:してます。そして規制が強まればそういう人の役回りは増えて、国の仕事も拡大し、役所としては喜ばしいこと、ということですね。役所にとっては権限が強まり、仕事が増えるのは良い事ですから。もし仕事がなくなったら組織の縮小などありますし。こういう権限が増えるのは良いことなんです。

ふかみん:なるほど、そういう力が働いてるんですね。


(つづく)
※原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。


(編集サポート:モカ)

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