【 ヒットメーカー・金子修介監督インタビュー】金子修介監督の新境地『ばかもの』男は、女と失敗の数だけ成長する

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 金子修介監督と言えば、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(95)で怪獣映画を大人向けの本格的SF映画に一変させ、『デスノート』(06)では大場つぐみ原作の人気コミックを劇場用に思い切った脚色を加えて大ヒットさせたエンタテイメント映画の巨匠なのだ。旬の人気女優・満島ひかりを『ウルトラマンマックス』(TBS系)や『プライド』(09)などに起用し、彼女のステップアップにひと役買ったことでも知られる。宇能鴻一郎の官能小説を原作にしながら、『エースをねらえ』のパロディコメディーへと換骨奪胎してみせた日活ロマンポルノ『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(84)で監督デビューを飾ってから26年。エンタメ映画の巨匠が新しい境地を切り開いているのが、成宮寛貴&内田有紀主演の『ばかもの』だ。平凡な大学生・ヒデ(成宮)が年上の女・額子(内田)を皮切りにさまざまな女性たちと恋愛遍歴を重ね、ドロ沼に浸かりながらも自立した男に成長していく。失恋の痛手を引きずって、もがき苦しむヒデの姿は多くの男性の共感を呼ぶだろう。円熟の境地に迫りつつある金子監督に、押井守監督と過ごした大学時代の映研サークルでの逸話や恋愛体験について語ってもらった。

──99年から09年までの10年間にわたる主人公ヒデの成長を描いた『ばかもの』ですが、モーニング娘。のヒット曲「LOVEマシーン」がテレビで流れるなど、歌謡曲マニアで知られる金子監督らしいオープニング。額子とヒデの初デート先がポルノ映画館ですし、金子監督自身の青春時代を思わせるような作品ですね。

金子修介監督(以下、金子) 確かに歌番組をボクはよく見てたけど、ヒデみたいな初体験だったわけじゃないよ(笑)。でも、まぁ、男の20代っていろいろあるよね。絲山秋子さんの原作小説を読んだときに、ちょっと昔の話のように感じ、最初は85〜95年の話をイメージしたんですよ。

──金子監督が監督デビューし、『ガメラ』で大ブレイクを果たすまでの10年間に当たりますね。

金子 うん、そういうことになるね。映画としては85年の御巣鷹山墜落事故から95年の阪神大震災、地下鉄サリン事件までのニュース映像を交えながら、平凡な青年がどういう10年間を過ごしたかを描いてみようと考えたんです。でも、原作者の絲山さんと話したところは、「昔っぽく感じるのは高崎市が舞台だからじゃないか」「現代を生きる若者たちに届く作品であって欲しい」ということなので、99年から09年までの設定にし、オール高崎ロケにしました。99年の場面で『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(99)のポスターが出てくるけど、あれは自分の作品を出したかったわけじゃない。本当は『鉄道員 ぽっぽや』(99)のポスターを使いたかったけど、いろいろと権利的に難しいので。なら、自分が監督した作品を使おうかと(苦笑)。

──ゼロ年代の物語になったわけですが、心情的には金子監督の青春時代を投影している?

金子 そういう部分はあるかもしれない。原作の中から普遍的なものを読み取り、そこに自分自身を重ね合わせて物語を組み立てていくのが映画づくりだからね。20代の10年間にはいろんな女性たちと関わり合っていったことで、自分も成長できたと思っています。大学を卒業し、日活で助監督になり、監督デビューするまでの10年間はかなり濃厚な時間を過ごしたんじゃないかな。『就職戦線異状なし』(91)は、ボク自身の大学最後の1年をイメージしたものですよ。

■大学時代の上映会は苦戦。でも押井監督が誉めてくれた

──東京学芸大学時代に所属したサークル・映像芸術研究会の先輩が押井守監督だったんですよね?

金子 そうです。押井さんは大学の頃から難解な作品を撮ってました。それも8ミリフィルムじゃなくて16ミリフィルムを使っていた。押井さんがボクの作品をちょっと手伝ってくれたことはあるけど、基本的に別々に作ってました。押井さんはアルバイトでお金を稼いで、自分の作品として16ミリフィルムを撮ってましたね。ボクは友達から製作費を募って映画を撮り、上映会を開いて入場料を集めるという形でやってたんです。

──学生の頃から、押井守=アート志向、金子修介=エンタメ路線だったんですね。

金子 でもね、大学のときは全然お客が集まらなくてお金にならなかった(苦笑)。高校のときは主人公が好きな女子生徒の体操服を盗んじゃうという内容の映画で人気を集めたんだけど、大学は学生運動の後の反動で虚無感が漂っていて、上映会を開いても全然盛り上がらなかった。当時、大学内で暮らしている男女がいて、その2人をモデルにしたコメディーが、大学で最初にボクが作った映画『キャンパスホーム』。サークル長屋に男女が暮らしていて、自治会やヤクザ研究会がそのサークル長屋を取り壊して迎賓館を建てようとするというストーリー。モデルにした男女が上映中止を求めてきたり、上映会も散々だったけど、押井さんは「面白い」って誉めてくれたのを覚えてますね(笑)。

──青春ですねぇ。映画の主人公ヒデは年上で奔放な性格の額子と初体験した後、頭はいいけど精神的な弱さを抱える同級生の山根ユキ(中村ゆり)、高校教師で結婚願望の強い翔子(白石美帆)と深い仲になっていきますが、金子監督の20代はどうでした?

金子 成宮くんみたいな二枚目じゃないから、そんなにモテなかったよ(笑)。大学のときは憧れていた女性がいたけど、振り返ってもらえなかった。結局、違う子と付き合ったりしてね。恋愛って自分の思った通りに行かないもの。相手を傷つけたし、自分も傷ついたよね。日活に入ってからの20代前半は仕事が忙しくて、まったく浮いた話はなかったなぁ。女性関係は少し仕事に慣れてきた25〜26歳くらいからだね。先輩からも「監督は経験だ」と教えられていたしね。ヒデみたいな恋愛をしたわけじゃないけど、感覚としては近いものがあったと思いますよ。山根ユキとヒデみたいに、いい感じになりながらも最後の一線を越えられなかった体験って、誰もが覚えがあることじゃないかな。日活時代の先輩に那須博之監督がいたんだけど、助監督だったボクがその頃の恋愛体験の話をしたら、「その気持ちをずっと覚えていろよ」なんて言われましたね。

──額子役の内田有紀がベッドの上で、足を使って靴下を脱ぐシーンにグッときますね。

金子 前半部分の演出はいろいろ考えていたけど、最後はキラキラしたファンタジックなシーンで終わるので、作品全体を考えるとベッドシーンはあれぐらいのほうがいいと判断したんです。内田さんが靴下を脱ぐシーンにエロスを感じてもらえればね。脚本家の荒井晴彦さんも見てくれて「日活ロマンポルノの文法を継承してる」と言ってました。荒井さんは「金子は人形は撮れるけど、人間は撮れない」なんてキビシいことを言う人だけど、今回は「お前の作品で、いちばんいい」とようやく誉めてもらえましたよ。

──映画の後半、内田有紀が片腕で夕食の用意をするシーンは圧巻。胸がジーンと熱くなりました。

金子 うん、そうだよね。内田さんも、額子というキャラクターに共感する部分があったみたいだね。どうすれば片腕でスムーズに料理ができるか、ずいぶん特訓を重ねてました。若い頃の額子はヒデを棄てるようにして去っていくわけだけど、10年の歳月が経ち、額子は外見上は悪魔みたいになるけれど、人の痛みが分かるいい女になっているわけです。そういうアイロニー的な面白さがあるよね。成宮くんもアルコール依存症という難しい役だったけど、自立した大人の男に成長するまでの10年間をちゃんと演じ分けてくれたと思う。大ロマンスものというと戦争ものや時代ものというイメージがあるけど、現代の高崎市という普通の地方都市で一大ロマンスが紡がれていくところに、この映画を見た人は共感してくれるんじゃないかな。絲山さんも映画を見て満足してくれたようです。

──人間は何かに依存しなくて生きていけない弱い生き物。でも、そんな人間の弱さを温かい目線で描いているのが印象的です。失恋の痛手からヒデはアルコール依存症に陥りますが、金子監督は何かに依存した経験は?

金子 う〜ん、依存症の経験はないけど、強いて言うなら映画に依存してるのかなぁ。日活に入社できたから、20代で監督デビューすることできたけど、もし日活に入社できなくても、アルバイトなり何らかの形で映画業界には潜り込んでいたでしょう。でも、その場合はなかなか監督になれなくて、途中で諦めて映画の世界を去っていたかもしれない。大学時代に教員免許を取っていたので、教師にでもなっていたんじゃないかなぁ。

──人生は先が読めないから面白いのかも知れません。特撮もの、コミックものの映画化で鳴らしてきた金子監督にとって、『ばかもの』は新境地の作品ですね。

金子 ええ、コミックものばかりやっていると、間口が狭くなってくるしね。20代の頃の『濡れて打つ』を撮っていた自分にはこういう作品は撮れなかったでしょう(笑)。でも、コミックもの、怪獣ものは人間ドラマとは違った大変さがあるんですよ。現実ではないものを現実のものに見せるのは難しいんです。

──『ガメラ』『デスノート』シリーズを大ヒットさせた金子監督ですが、その一方ではミュージカルタッチの『恋に唄えば♪』(02)や『プライド』は興行的にはキビシイ結果に......。

金子 毎回、映画の公開前はドキドキしますよ。『デスノート』はみんなヒットすると言っていたけど、逆にプレッシャーを感じてましたしね。『ガメラ』シリーズもそう。自分では存分にやり切ったつもりだったけど、そういうときほどお客は付いてきてくれるだろうかと不安になるもんなんです。『恋に唄えば♪』や『プライド』の現場はすごく楽しかったけど、興行的なことになると違う現実が待っているからね(苦笑)。映画人生は良かったりダメだったりですよ。

──昔の彼女から「映画、見たわよ」なんて連絡が来ることは?

金子 残念ながら来ないねぇ、淋しいよ(苦笑)。憧れていた女性から「監督デビュー、おめでとう」くらいの連絡はもらったことはあるけどさ。まぁ、人生は甘かったり苦かったりの連続だよ(笑)。
(取材・文=長野辰次)

『ばかもの』
原作/絲山秋子 監督/金子修介 出演/成宮寛貴、内田有紀、白石美帆、中村ゆり、浅見れいな、岡本奈月、浅田美代子、小林隆、池内博之、古手川祐子 配給/ゴー・シネマ 12月18日(土)より有楽町スバル座、シネマート新宿ほか全国ロードショー <http://www.bakamono.jp>

●かねこ・しゅうすけ
1959年東京都生まれ。東京学芸大学卒業後、78年に日活に入社。芥川賞作家・宇能鴻一郎原作、山本奈津美主演のロマンポルノ映画『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(84)で監督デビューを飾る。弓月光原作『みんなあげちゃう』(85)で一般映画デビュー。萩尾望都の人気コミック『トーマの心臓』を深津絵里ら若手女優たちを男装させて映画化した『1999年の夏休み』(88)は今なおカルト的人気を誇っている。大島弓子原作の『毎日が夏休み』(94)では佐伯日菜子が主演デビュー。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(95)、『ガメラ2 レギオン襲来』(96)、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(99)の〈平成ガメラ3部作〉で熱狂的人気を呼ぶ。『デスノート』『デノスート the Last name』(06)も大ヒットを記録。他にも小山ゆう原作『あずみ2 Death or Love』(05)、楳図かずお原作『神の左手悪魔の右手』(06)、一条ゆかり原作『プライド』(09)などコミックものの映像化を数多く手掛けている。『失われた歌謡曲』(小学館)を上梓するなど歌謡曲についての造詣も深い。



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