TPP参加 無関税化は何をもたらすか/NAFTA発効17年 メキシコにみる/農業壊れ“国の主権失う”/輸入農産物依存45%・離農4割

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 メキシコが米国、カナダと結んだ北米自由貿易協定(NAFTA)が発効してから来年1月で17年が経過します。この協定はメキシコの農業分野に深刻な影響を及ぼしました。環太平洋連携協定(TPP)とも共通する、各国の事情を無視した農産物貿易の無関税化が何をもたらすかを明白に示しています。(メキシコ市=菅原啓、写真も)

 「NAFTAは、メキシコの農業と農民にとって損害をもたらすだけのものでした」

 メキシコの穀物生産に携わる中小農民らを組織する全国農業生産取引業連合(ANEC)のビクトル・スアレス執行理事は開口一番こう切り出しました。

 米国とメキシコでは農業の生産規模や生産性などに大きな違いがあり、メキシコの農民や農業関係者は、NAFTA交渉が始まった当初から、農業分野の貿易自由化はメキシコの農業に壊滅的損害をもたらすと主張して、反対運動を展開してきました。

主食も除外せず

 スアレスさんは、NAFTAの前に米国とカナダが結んだ自由貿易協定の交渉過程で、カナダが牛乳、卵など農産物の一部を協定の枠外に置いた実例をあげ、「ところが、メキシコ政府は、こうした先例にも関わらず、国民の主食であるトウモロコシなどを除外する提案もせずに、協定を受け入れてしまった」と嘆きます。

 メキシコ政府は、関税の完全撤廃(2008年)まで15年間の猶予期間に、農業への投資を増やし、米国からの輸入増に備えると約束しました。しかし約束は果たされませんでした。1994年、メキシコは極めて厳しい経済危機に見舞われ、資金がないから農業への投資はできないと政府は表明。以後も財政難を理由に農業支援はあまりやってきませんでした。

 NAFTAでは米国からのトウモロコシ輸入には無関税の割当上限が定められ、これを超過する輸入については、15年間にわたって高い関税(1994年の場合206・4%)を掛けることになっていました。「しかし、メキシコ政府は一度もこれを適用せず、中小の生産者の保護を怠った」とスアレスさん。

米のダンピング

 有力農業団体「全国農民連盟(CNC)」は今年9月、NAFTAの発効後、米国からの農産物輸入が急増し、現在ではトウモロコシ、大豆の輸入量が国内需要のそれぞれ33%、90%にまで達していると報告しています。

 輸入急増は、メキシコに生産能力がないからではありません。メトロポリタン自治大学のアルベルト・アロヨ教授は、米国側のダンピング輸出が直接の原因だと告発します。

 「NAFTAも世界貿易機関(WTO)も、補助金によって生産費を下回る価格で輸出するダンピング輸出を認めてはいない。それができるのは、米国が非常に複雑で、巧妙に隠された、間接的なメカニズムで補助をしているからだ」

 たとえば遺伝子組み換えなど農産物開発を研究する大学には補助金が出され、その成果は農業関連企業が利用。しかし、これはあくまで研究予算として計上され、農業生産者への援助金としては表面化しません。米国では生産者への直接の援助金だけでなく、こうした仕組みで莫大(ばくだい)な援助が行われ、輸出用農産物の価格が不当に引き下げられているというのです。

 農産物全体で、国内消費にたいする米国からの輸入依存率は、協定前の5〜10%から、40〜45%に高まりました。この傾向が続けば、30年には依存率は80%に達すると推計されています。

消費者も不利益

 米国からの輸入増はメキシコの農民の生産を圧迫。農民の4割にあたる250万人が離農し、その多くが職を求めて米国へ渡っていきました。スアレス執行理事は「NAFTAの効果で、移民は減少すると宣伝されていたが、実際には移民は年間20万人から60万人へと急増したのだ」と指摘しました。

 メキシコ政府は、輸入の増加は、消費者価格を下げると宣伝しました。しかし、かつてはトン当たり100ドル以下で安定していたトウモロコシの国際価格は、石油価格の高騰、穀物投機、気候変動による農業への影響などによって、大きく変動しながら上昇傾向にあります。「結局、輸入増は、中小の生産者にも消費者にとっても利益をもたらさなかった」のです。

 NAFTAによってメキシコは「食料を他国に大きく依存した従属国、食料主権だけでなく、国の主権も失った国になってしまった」と言うスアレスさん。

 「私たちは、NAFTAの再交渉、その中で農業を除外し、食料主権を回復することをめざしています。日本のみなさんが、農業を破壊する米国との自由貿易協定を阻止する運動を大きく発展させることを心から期待しています」

 北米自由貿易協定(NAFTA) 1994年1月1日に発効したカナダ、米国、メキシコの3カ国間の自由貿易協定。貿易と投資の自由化だけでなく、貿易紛争処理など広範な内容を持ちます。2003年までにほとんどの品目で関税を撤廃。最後まで残ったトウモロコシなど農産物の関税も、08年1月にすべて撤廃されました。