ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論

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今回は大元隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。

ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論
ソーシャルメディアが作り出す"新社会幸福論"について、私が考える“地域活性化”を紹介させていただきたいと思います。

・日本の現在
2010年現在GDP世界2位、女性の平均寿命が86歳、経済的にも長寿の面でも日本は世界でトップクラスの“恵まれた”国といえます。しかし、日本にはこんな側面もあります。年間自殺者数が約3万2000人。そして、社会から忘れ去られたように亡くなっていく“孤独死”と呼ばれる状態となる人々も、同じく約3万1000人にのぼると言われています。

日本という国の“今”は、物質的にはとても豊かな国です。しかし、その一方で“心”という一面に光をあてると、胸を張って“幸せ”だと言える国でしょうか?

・では、こんな国はいかがですか?
世界の片隅にこんな国があります。GDPは世界で162位、日本とはとても比べることはできないほど経済的には貧しい国です。そのGDPの順位からも想像できる通り、この国の人たちの平均収入は月1万円〜6万円程、月収2万円前後の人が最も多いと言われています。月収2万円ということは年収は約20万円前後。更に平均寿命も日本に比べれば20歳も低い66.1歳。お金もない、平均寿命も短い、皆さんはこんな国をどう思いますか? 日本の生活に慣れた皆さんなら、恐らく(私もそうですが)住んでみたいと思う人は少ないのではないでしょうか。

しかし、この国はある指標でとても注目を集めている国でもあります。それは“国民総幸福度(Gross National Happiness)”と呼ばれる指標です。「国家にとって経済成長とは目的でなく"幸福達成"の一手段に過ぎない。よって、国策とは経済成長による物質的な豊かさだけを求めるのではなく、そこで暮らす国民が幸福になるための舵(かじ)取りを行うべきである」と。どれだけ幸福か? を示す指標がこのGNHです。

九州と同じくらいの大きさで、人口わずか60万人ほどのほんの小さなこの国が、GDP中心の世界に向かって提言しました。そしてこの国の国民はこのGNHが97%という驚異的な結果となったことで世界各国から注目を集めています。物質的にはとても恵まれている国とはいえない、この国のほとんどの国民が“自分は幸せ”だと感じている。

日本人の皆さんへ質問です。「あなたは幸せですか?」

・幸福大国ブータン
この小さな国はヒマラヤのシャングリラ(桃源郷)として知られる仏教王国ブータンです。中国とインドというアジアの二大大国に挟まれる位置に属するこの国は、20世紀後半まで鎖国に近い政策だったこともあり、美しい自然と自給自足に基盤を置いた伝統的な生活文化が残っています。

ブータン王国の4代目国王のジグメ・センゲ・ワンチュック国王が、1976年にコロンボの会議で“GNH”を世界に向けて提言しました。このGNHは下記の4本の柱から成り立っています。
 1.公平で持続可能な社会経済開発
 2.自然環境の保護
 3.有形、無形の文化財の保護
 4.国民から尊敬される良い政治
ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論
日本などの政治思想と大きく異なるのは、経済発展のために自然を破壊し自分たちの文化を犠牲にすることをよしとせず、自然と文化を保護しながら経済発展と伝統の調和を大切にする部分ではないでしょうか。実際、ブータンの法律には国土の最低60%以上を永久に森林で保全するという条項が盛り込まれています。

ブータンは国民の就業者の大半が農民であり食料自給率が100%。医療と教育は無料で受けることができるため“自給自足”の文化が根づいており、多くを望まない“足るを知る”を尊ぶ質素な文化が根付いています。“足るを知る”人々の生活は、物質的な豊かさより家族と接する時間や、近所の人々との何気ない会話をする時間を重視し、“心の充足感”を重視しています。

・漁師とMBAエリートの話
ここで、少し余談になるんですが、こんな話を紹介します。
*   *   *   *   *
あるところに、透き通るような海と、温かい気候と、満天の星空につつまれた小さな島がありました。そこには小さな村があり、人々はそこで捕れる魚を時折売って生計を立てていました。気が向けば魚を取り、夜になれば満天の星空を見ながら、村の仲間と酒を飲んで歌う。決して豊かな暮らしとは言えないけれど、その村には仲間と語らう時間があり、いつも笑顔がありました。

そんな村にある時、一隻の豪華な旅船が到着します。その旅船から、この島には似合わないスーツ姿の男性が降りてきました。その男性が船から降りると、目の前に今まで見たことのない大きくて美しい魚を売っている貧しい身なりの漁師を発見しました。

スーツ姿の男性は、その漁師にかけより、こう言います。
男性: 「この魚は一日に何匹釣れるんだ?」
漁師: 「毎日なんて釣らんよ。腹が減った時に釣って、余ったらこうやって売るだけじゃよ」
男性: 「なんて、もったいない!いいかい、これからはこれを毎日釣って売るんだ。これは売れる。間違いなく、ボロ儲けできるよ。MBAエリートのぼくが言うんだから間違いない」
漁師: 「そんなことしたら、魚がいなくなっちまう。腹減った時だけ、釣れば良いんじゃ」
男性: 「何を言ってるんだ!毎日魚を釣って、それを売って、そのお金で今度は魚を養殖するんだ。そして、その養殖が成功したら、君はニューヨークへ行って大手水産企業と提携するんだ。うん、売れるぞ、このプランは絶対良い!」
漁師: 「何年位かかるんじゃ?」
男性: 「恐らくそこまで行くのに、10年、いや20年位かな? でも、この話はこれで終わりじゃない。そこで作った資本を元手に、今度は世界へ打って出るんだ! そしてやがて君は水産の世界でトップになるんだ!」
漁師: 「それで、最後はどうなるんだい?」
男性: 「そこまでいけば後は、南国の島にでも行って悠々自適な生活を送るんだよ。満天の星空を眺めながら、毎日仲間たちと遅くまで酒を飲んで語り合うんだ。時間も気にすることなくね。そんな生活最高じゃないか!」
漁師: 「今のワシの生活とどう違うんじゃ?」
*   *   *   *   *

・イースターリン・パラドックス
世界の幸福論について米経済学者リチャード・イースターリン氏の有名な研究があります。イースターリン氏は1946年、30か国あまりの国々を対象に国民の幸福度についての研究を行いました。その結果、すべての国において所得水準と個人の幸福感とは一定時期までは比例関係が成立することが明らかになりました。ある一定のレベルに達するまでは収入が増えることで人々の幸福感も比例して上昇するということです。

しかし、所得が一定のレベルに到達すると、それ以上所得が上がっても幸福の度合いはそれ以上は上がらないという現象になるということが、研究成果として発表されました。これは“イースターリン・パラドックス”として、しばしば幸福論を語る時に引用されます。その原因として、ある一定以上の収入を得ようとするために、自分や家族生活を犠牲にする必要が出てくること、責任が大きくなりストレスが以前より大きくなることがあるのではないかと推定されています。

・二つの豊かさ
リーマンショック以降、世界的なレベルで経済発展のみを追求する“社会の在り方”について、再考をうながす議論が声高に叫ばれるようになってきました。日本でも若者を中心に社会起業家を目指す人が増えてきたのも、そんな世相を反映しているのではないでしょうか。

私自身も、これからの世の中には経済成長(GDP)と心の充足感の成長(GHN)、この両方が大切なのではないかと考えています。大切なことは、どちらが良いという議論をすることではなく、どちらか一方にかたよりすぎることなく、双方の調和を取りながら成長していくことを考えることが大切だと思います。

・GHNの上昇に貢献するソーシャルメディア
私は日々『Twitter』や『Facebook』等を通して多くの人々と交流することが、GHNを上昇させることにつながるのではないかと考えています。

ブータンではGHNを数値化するための指標として、以下の9つを挙げています。
 1.心理的幸福感(psychological well-being)
 2.時間の活用(time-use)
 3.地域活力(community vitality)
 4.文化(culture)
 5.健康(health)
 6.教育(education)
 7.環境的多様性(environmental diversity)
 8.生活水準(living standard)
 9.統治(governance)

この“心理的幸福感(psychological well-being)”については、何も大げさなことを考えなくても、日々の暮らしのほんの些細(ささい)なことでも感じることはできるんじゃないかと思うんですね。たとえば、こんなことです。“自分の喜びを、他者と共有”したり、反対に“他者の喜びを、自分の喜びとして共有する”。その喜びは大きくなくてもいい。些細(ささい)なことでもいいんです。日々感じた“感動”を“共有”することで、心が少しずつ満たされていく。
ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論
その、だれかと“感動”を“共有”するという点において、ソーシャルメディアは非常に有効な技術なのではないかと考えています。

・感動を共有するということ
『Facebook』や『Twitter』を、巡回していると、時折こんなシーンに出会うことがあります。
ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論
「今日、9月20日はぼくらにとって記念日です。つきあい始めたのが二年前の9月20日。丁度、二年たった、本日入籍します。」

幸せそうな結婚の報告です。こういったシーンを見つけると、思わず心が“ほっこり”します。そしてその“ほっこり”は「いいね!」というボタンを押すことで表現することができます。そして、みんなからの「いいね!」をもらった本人たちは、それを見て更に“ほっこり”するんじゃないかなって、考えています。

・家族の軌跡をつづるソーシャルメディア
やがて月日が経ち、きっと新しい生命が生まれることでしょう。そして、もし本当にそうなったなら。だれだって自分の新しい家族を“みんなに紹介したい”と思うでしょう。『Facebook』にアップロードして、自分の喜びを仲間と共有することでしょう。

その子は大きくなり、幼稚園に入って、小学校に行って、運動会で1番になって。もしかするとお兄ちゃんになるかもしれません。その成長の一つ一つのシーンを“家族”と、その“仲間”が喜びを共有するようになるんじゃないかな。
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そして、更に月日は流れて、その子が大きくなった時。いつか、その子がこんなことを言う時が来るかもしれません。
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「Facebook始めました!」

その言葉を聞いて、きっと、その家族や両親の友人たちが、優しく「イイね!」という言葉で迎え入れてくれるでしょう。そして、その子が『Facebook』にログインした時に、両親がどのようにして出会ったか、どれだけ自分が望まれてこの世に誕生したか、どれだけ愛されてきたか、どれだけ大勢の人たちに祝福され、見守られて育ってきたのかを、知ることができるのではないでしょうか。

夢のような話だと思われるかもしれません。単なる妄想だと片付ける人もいるかもしれません。でも私は、どれだけ忙しそうにしているお父さんたちでも、いつだって子供のことは考えている。ただちょっと照れくさくて、その愛情を表現できずにいる。でも子供の写真をみんなに見せたくて、言葉を添えることはできないけれど、写真だけをアップロードしている。そんな光景を観るたびに、そんな時代はもうすぐそこまで来ているんじゃないかなって、思います。

そして、そうやって両親の愛を知った時に“孤独”を感じて自殺するような子供たちはいなくなるんじゃないかな。

・これからの幸福論と地域活性化
これからの幸福論は、経済面の豊かさを追求するだけでは破綻(はたん)することになるでしょう。特に日本は少子高齢化と、国際競争力の低下と、医療福祉税の負担増により、経済面だけを幸福とするなら若い世代が希望を見いだせない社会です。そんな社会において、経済面以外の“豊かさ”を社会として許容していくことは、きっと重要なテーマになってくることでしょう。

これからの幸福とは下記の3点を考慮することにあると私は考えます。
 1.経済面、心の充足面、両方の充実を考える
 2.双方のバランスをどのように取ることは、主観の問題であり、他者と比較しない。個人、家族といった小さな単位で“幸せ“のバランスを話し合うことが大切(他者と比較して「私は幸せだ」と感じることは、ねたみや、更なる欲求につながる)
 3.子どもに残す資産として、経済的財産だけでなくコミュニティも相続していく

そして、地域活性化を論じるにも、きっとこれらの考えは有効だと考えています。地域でお金の流れをどう考えるかを議論することはもちろん大切です。しかし、経済成長一辺倒だった今までの価値観をほんの少し見直すことで、家族が仲良く暮らし、お金はなくても笑顔の絶えることのない家庭が作れるなら、日本が失ってしまった家族の絆(きずな)を取り戻すことができるのではないでしょうか。

地域活性化を農業に例えるなら、作物は人であり、家族の絆(きずな)は土、経済政策は肥料ではないかと私は思います。どれだけ大量の肥料を作物に与えたとしても、肝心の土が枯れてしまっていては作物は生きていけません。土がしっかりして入れば多少肥料が少なくなっても、きっと作物は豊かな実をつけるのではないでしょうか。

失ってしまった家族の絆(きずな)を取り戻すことで、故郷への愛着心や文化への愛着心を増し、自分の地域の特産品や出身地の企業を応援したりといったところにつながり、時間はかかるけれど経済面へも良い効果をもたらすのではないかと思います。

とても時間のかかる話かもしれません。結果が見えるまでに何年、何十年とかかる話かもしれません。でもこれはきっと自分たちの世代のために考えることじゃないんです。これから生まれてくる、小さな生命が“笑顔”で暮らせる社会にするために、私たちが下地を作ってあげないといけないんじゃないかなって、心から思います。
ソーシャルメディアが作り出す新社会幸福論

執筆: この記事は大元隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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