【残念な地方自治】10分1000円ヘアカット店に未使用の洗髪台があるのは規制のせいだった!(2/2)

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10分1000円ヘアカットにまつわる規制のお話、2回目です。前回はこちら。

――”10分1000円ヘアカット”を狙い撃ちする条例が全国の都道府県で作られている。これまでの連載をご覧になった方は既に何回も見てきた「利益団体が、お代官様的な権力者に泣きついて新規参入者を排除する為の規制を生み出す」という悪循環の図がここにも浮かび上がってくる。今、地方自治はとっても残念なことになりつつある。

登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信)

●県民や有識者への調査では「不要」という結論だったのに、知らない間に逆の条例改正がなされる怖さ

ふかみん:組合が団結して自分たちの利益を守るために活動するというのはまぁ自然なことだと思うんですが、それを受けて自治体がそういう条例を作るというところがよく分からないんですけれども、なんでそうなっちゃうんでしょうか。

原:これはたとえば群馬県のケースで、SAPIOの記事の中でもちょっ触れているんですけれども、最初理容組合から請願があったんですね。その請願を受けて、県庁で、県民へのアンケート調査をしたり、本当に衛生上に問題があるのか調査したり、有識者を集めて意見を聞くなど、本当にこんな義務付けが必要なのか検討したわけです。で、その検討会でいろんな調査をやった結果、“義務付けをする合理的な理由は見出せない。現在のところ条例で義務化する必要はない”という意見が大半でした――と、報告書に書いてあるんですね。この群馬県のケースだと、2009年の4月にそういう報告書が出るんですが、なぜかその年の10月に、条例改正されるんです。そのときの県の説明は、“報告書の内容を踏まえましたが、やはり総合的な判断で条例改正することにしました”。

ふかみん:出た〜“総合的判断”! ”偉い人達”が煙にまくときの常套句ですね。

原:普通の人が見たら、県としてやる必要は全然ないと思ったんだけども、結局それらの意見は無視して条例改正がされたということは、何かの圧力がかかったとしか思えない。端的に言えば、そういうナントカ組合には政治力があるわけですよ。大勢人が集まって票になるから。

ふかみん:そんなに票になりますかね?

原:数は相当あると思いますよ。県議会の議員だったら、それくらいの組合をいくつかおさえておけば、大いに票として有用です。

ふかみん:新興勢力の『1000円カットのお店』よりは力があると。

原:まあ、個人店主ですからね。みんな1票から何票を持っているわけです。前に学校の審議会の話をやったときに、『水戸黄門』などで、同業者組合みたいな人たちが、お代官のところに駆け込んで、“変な新規参入してくる邪魔者が出てきたから、あいつ何とかしてください”と。で、お代官が“分かった分かった”って言って新参者を牢屋に閉じ込めちゃう――そういうのと同じことですよって話をしたけれども、これも全く同じ。日本ってまだそういう世界がそこらじゅうに残っているんですよ。


●残念な地方分権

ふかみん:どこかの自治体が1つだけやった、というんなら分かりますけれど、半分近くの自治体がやっているっていうのが解せないんですよね。

原:地方自治の暴走みたいなものですね。

ふかみん:暴走?

原:今、地域主権だとか地方分権だとか盛んに言われて、国が中央集権的にいろんな規制を決めているからいけないのであって、地方に任せて地方の現場に近いところで規制を決めてもらえるようにすれば世の中良くなりますよ、という議論がよくあるんですけれど、このケースでは全く逆です。地方で都道府県が条例決めたらこんなことになっちゃいました、と。

ふかみん:洗髪台条例なんて、まさにそうですね。

原:なんでそんなことになるのかっていうと、結局今の地方自治体って自分たちが儲からないようになっても何も困らないから。というのは……普通こういう条例を作って新規ビジネスを阻害したりすると、その後投資はなされなくなります。こういう規制をやったら、利用者、つまりそこの住民にとっては損失ですよね。

ふかみん:そうですね。

原:もっとほかのところに行ったほうがいいやと思う人もいるかもしれないですよね。一部の利益団体の人たちにおもねって、広く利用者であるとか、あるいは新しい投資をしてくれるはずの人たちを排除するような規制を作る。こんなことをやったら税収が下がるんです、そこの自治体は。だけど、今の地方自治システムっていうのは、税収が下がっても全然困らない。

ふかみん:困らないんですか?

原:だって国が全部補填(ほてん)してくれるもの。基本的にお金の面では国におんぶにだっこという仕組みになっているわけです。財源はいずれどうせどこかで国が面倒見てくれるんでしょ、という前提のもとで権限だけ与えられると、こういう暴走をしちゃう。

ふかみん:地元で新しいビジネスの芽を平気でつんでしまう。

原:県議会の議員の人たちの中には、自分たちの票のためにと、考える人たちが少なくとも何人かいて、その人たちが“こうやるべきだ、ああやるべきだ”って騒いだ時に、それを押しとどめる勢力が少数派という状況になっちゃうと、こういうことが起きてしまう。

ふかみん:なるほど。残念だけど、まだそういう状況ってことですね、日本は。

原:だから、もし本当に地方分権というんだったら、そういったお金の面も含めて完全に自立させて、良い政策をやらなかったら自分たちがとんでもないことになっちゃう、という環境を作ってあげないといけないわけですね。

ふかみん:今回の話では、たとえば洗髪台を入れさせるっていう嫌がらせをしましたけれども、それをかいくぐって使わない洗髪台を入れる店が出てきたってことは、次の手を組合は考えているんじゃ
ないですか。

原:それなりにこの洗髪台の条例は効いていると思いますよ。というのも、ある程度資金力のあるところしかダミーを入れるなどの対応はできないですから。これまでみたいにどんどんそういうのができてしまったり、増えていってしまうという状況は、これで解決できる、効果があるっていうのがみんな分かったからこそ、こうしてあちこちの県に広がっているんですよ。

ふかみん:じゃあ、うまくいったんじゃないですか。

原:さらに広がる可能性が高いと思います

ふかみん:怖いな。どこか勘違いしているおかしな自治体がやっているだけだと思っていたんですが、全国的にそれが増殖していっているわけですね。まさに「残念な地方分権」です。

原:まあ、勘違いといえば勘違いなんですけれども、そういう一部の人たちと仲良くやることが自分たちにとっての利益という人たちが主導して物事を進めていく時に、“これマズイだろ”といって止める人があんまりいない。だから誰も気づいていないっていうことですよね。こういうのをちゃんとみんなが知らないといけないです。こんな条例作ったらとんでもないぞ、っていうことを。

ふかみん:しかしこれ、一度条例ができてしまうと、ひっくり返すのって難しくないですか。

原:条例を改正すれば良いですよね。それから、もっと言えば、とりあえず地方分権というのはやめて、法律で禁止したら良いと思いますよ。こういう変な規制をやっちゃいけないと。無意味に洗髪台を義務付けるとか、無意味な施設設置を義務付けちゃいけないと法律で決める。そうすれば条例を変えざるをえなくなります。

ふかみん:利害関係を持つことのない人が冷静な判断をして、全国的に決められれば。よいかもですね。

原:でも国ができるかっていったら、国会議員もまた選挙でいろんな団体のお世話になっている議員がたくさんいますから、できるかどうかは非常に難しいです。悲観的ですね。

ふかみん:ということは国レベルで同じ決定を下す可能性も……。

原:なくはない(笑)。

ふかみん:そうなったらもうお手上げですね。使われもしない洗髪台を作るのが正しいことだなんて思えないんだけどな。ほんとに残念です。

(次回につづく)

原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。

(書き起こし:ニコラシカ)

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