僕は現日本サッカー協会技術委員長に訊ねたことがある。「ベンチ脇からは見えにくいんじゃないですか」と。すると案の定「スタンドからの方が、良く見える」と返ってきた。「解説者の立場で見た方が、監督より良く見える」と。「現場に復帰したとき、その解説者の上からの目線を大切にしながら、試合に臨もうとするのだけれど、ベンチ脇から長く試合を見ていると、その感覚は気がつけばどこかに消えている。再度、解説者に復帰するまで蘇らない」とも言っていた。

僕は、何人かの欧州の指導者にも同じ質問をしてみた。すると「優秀な監督とは、ベンチ脇からでも、上からの目線を携えている人」という答えだった。これは、常識としてすっかり浸透しているようだった。「スタンド目線はベンチ目線に勝る」。言い換えれば、そうなる。

解説者は監督より見える立場にいる。というわけで、スタンド目線で気が利いたことを言えない人は、ベンチ脇からの目線、采配にも期待が持てない。監督候補としての評価は下がらざるをえない。

逆に言えば、自己をアピールする絶好のチャンスだ。アジア大会の次はアジア杯。そこで活躍する解説者は誰なのか。金田サンは再び登場するのか。個人的には、エスパルスの監督を辞める長谷川健太氏に、上から目線の喋りでも頑張って欲しい。お茶の間観戦の娯楽性は、解説者の力量に委ねられている。僕はそう信じて止まないのだ。