北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)の砲撃で、韓国では政府批判が過熱している。北朝鮮170発の砲撃に応戦80発どまり。「口だけで何もしない政府」「弱腰だ」と批判がたかまる。ただ、一方で、強硬姿勢を続ける李明博(イ・ミョンバク)政権への不安を口にする人も少なくない。

「イライラするのは政府の対応。敵軍が砲弾を放って死傷者が出ているのに、国軍の統帥権者や政府の担当大臣はあまりに無策で驚きだ」

「自分たちの命や財産安心して預けられるか」

   2010年11月23日、北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃したことに関連して、韓国のネット掲示板には李政権に対する批判があふれた。韓国メディアは、金泰栄(キム・テヨン)国防相が、韓国軍が北朝鮮側の砲撃から13分後に応戦を始めたことについて、「対応は遅くなかった」と発言したことを伝えたが、ネットでは「こんな国防態勢で、自分たちの命や財産を安心して預けられるか」と対応の「遅さ」に怒りの声もあがっている。

   李大統領は08年の就任後、それまで金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権が続けてきた北朝鮮に対する「太陽政策」と呼ばれる宥和策を転換。北への一方的な支援をやめ、北朝鮮の非核・開放を目指すとした。それまでの金、盧両大統領のような「蜜月関係」を求めない李大統領に、北朝鮮側は反発している。

   北朝鮮は2009年4月には長距離ミサイルと見られる発射実験を強行。さらに10年3月には、韓国の哨戒艦が黄海上で爆発し沈没、46人の死者を出した。北側は一貫して関与を否認しているが、韓国は北朝鮮の魚雷攻撃によるものとしている。

   哨戒艦沈没事件の際、李大統領は国民に向けて「北朝鮮のいかなる挑発行為も絶対に容認しない」と強い調子で語った。ジャーナリストの野口透氏は、そのときの様子をネット媒体に寄稿。兵役を免除され軍経験のない大統領や政府関係者が、声高に北朝鮮批判を繰り返すのを見ていた韓国人ビジネスマンが「こういうのが一番怖い」「戦争でも始めるつもりか」と呟いたと書いた。

   一部の専門家によると、李大統領は哨戒艦事件を「利用」して、6月に行われた統一地方選挙を乗りきろうとしたようだ。しかし、強気すぎるようにも見える姿勢が逆に市民の不安をあおり、盧武鉉政権時代の柔軟路線を支持する声が高まって与党が敗れた一因になったとも言われている。

相手に応戦する場合は「倍返し」する規定

   李大統領は今回の砲撃事件でも、「断固とした措置を取る」と表面上は強い姿勢を押し出している。ネットには、「李明博(大統領)や金滉植(キム・ファンシク=首相)をはじめ、軍歴のない人物は政府関係に就けないようにしなければ」「政治家は延坪島に行って(軍の)訓練を受けて来い」との批判が並ぶ。軍経験が少ないがゆえに言動や行動に歯止めがかからず、過激化して戦争につながると言いたいようだ。日本に留学中の韓国人留学生は取材に対して、北朝鮮に対しては怒りをあらわにするが、戦争だけは避けたいとの思いを打ち明けた。

   その一方で、韓国で勤務する女性会社員に聞くと、同僚が「大統領は強硬姿勢を見せていたわりに、何もできなかった」と話していたという。報道によると、韓国軍は相手に応戦する場合は「倍返し」する交戦規定があるようだが、北朝鮮側から170発の砲撃があったのに対して韓国側の応戦は80発にとどまった模様だ。韓国民からは「政府の対応は手ぬるい」「弱腰だ」との怒りが拡大。砲弾が撃ち込まれてすぐ、李大統領が「戦闘を拡大してはならない」という消極的な命令を出した、出さないで政府の対応がばたついたことも批判を増幅させ、初動から非常時対応のまずさを露呈した。

   韓国の主要紙「中央日報」で北朝鮮問題と国家安全保障問題を担当する記者に取材すると、「今回の事件は、韓国はまだ休戦下なのだという現実を知らせる強烈な警告になってしまった」と話す。政府は、「戦争だけはごめんだ」と李大統領の「強気路線」を嫌がる人たちと、「そんなに弱腰でどうするんだ」と批判する人たちの、二つの勢力の板ばさみで難しい舵取りを迫られている。この記者は、「当面は、『太陽政策』支持派は肩身が狭くなるでしょう」と、対北強硬派が勢いを増すと考える一方、「ただし韓国内の北朝鮮政策に関する意見はさまざま。対話を重視する人たちも、まだ強い影響力を持っています」と話している。

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