角川書店が新たに創設した「山田風太郎賞」は、直木賞未満の作家のエンターテインメント小説作品(長編、短編集、連作短編集)を対象とする文学賞。ポジション的には、講談社の吉川英治文学新人賞、新潮社の山本周五郎賞などに相当する。選考委員は、赤川次郎、京極夏彦、桐野夏生、重松清、筒井康隆(五十音順)。第1回受賞作には、貴志祐介『悪の教典』(文藝春秋)が選ばれた。
 この山風賞創設にともない、昨年まで個別に行われていた日本ホラー小説大賞、横溝正史ミステリ大賞の贈賞式を山田風太郎賞贈賞式とひとつにまとめることになり、11月24日午後5時から、東京・丸の内の東京會舘にて、"角川三賞"合同の贈賞式が開催された。

 第1回山田風太郎賞に輝く貴志祐介氏いわく、
「この賞を自分が受賞したことがいまだに信じられない。デビュー直後から、エンターテインメント小説の極北として、山田風太郎、筒井康隆両先生の名前を挙げてきた。ともに、アマチュア時代から愛読してきた作家。つい先日も、〈メンズ・ノンノ〉でインタビューを受けたとき、読者に2冊推薦してほしいと言われて挙げたのが『甲賀忍法帖』と『俗物図鑑』だった。とくに『甲賀忍法帖』は、子供の頃、最初に読んだときのことを鮮明に覚えている。なぜか押し入れの奥に、カバーを掛けたこの本が隠すように置いてあって、きっと淫靡な本に違いないと思って貪るように読んだ(笑)。風太郎先生の衣鉢を継ぐとか、そういうだいそれたことはとても考えられないが、風太郎スピリットを忘れずに、常識に縛られず、悪の限りを尽くすように精進したい」

 第30回横溝正史ミステリ大賞は、伊与原新『お台場アイランドベイビー』が大賞、蓮見恭子『女騎手』が優秀賞、佐倉淳一『ボクら星屑のダンス』(未刊)がテレビ東京賞を受賞した。受賞の挨拶に立った優秀賞の蓮見さんは、競馬界を舞台にした受賞作にからめ、
「新人騎手は、デビューから3年間、重量面で優遇されるため、騎乗依頼が殺到する。その3年で結果を出せなければ淘汰される厳しい世界。小説の世界もそれと同じだと聞いた。気を引き締めてがんばりたい」と語った。

 第17回日本ホラー小説大賞は、一路晃司『お初の繭』が大賞、法条遙『バイロケーション』が長編賞、伴名練『少女禁区』が短編賞をそれぞれ受賞した。
「このたびは、日本ホラー小説大賞という、身をよじりたくなるほどラブリーな賞をいただきありがとうございました」と、のっけから会場を笑わせた大賞の一路さんは、世話になった人々に感謝を捧げたあと、「今回の受賞の陰の立て役者を紹介します」と前置きしてからだるまをとりだし、
「私は願掛けをしない主義ですが、友人が妙法寺のだるま市で買ったからとオーストラリアまでこのだるまを送ってくれたので、せっかくだからと飾ってみたところ、あら不思議、執筆や取材がたちまち順調に。霊験はあらたかで、とうとうホラー大賞までいただくことになりました。受賞作は、"悪趣味な官能ホラー版『あゝ野麦峠』"などと呼れる作品ですが、調べてみたところ、ダルマは養蚕農家ではお守りとして大事にされているとか。不思議な符合に驚きました。だるまさんに感謝するとともに、いずれ作法に則って奉納し、新たなだるまを購入して、また守っていただきたいと思います」

(大森望)







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