東武鉄道と東武スカイツリーが、2012年春に開業予定の「東京スカイツリー」の高さを、当初の約610メートルから634メートルにすると発表したのが約1年前。当時は174メートルまでしか建設されていなかったスカイツリーも、今や500メートルまで伸びた。

 そして10月30日に発売された小説『634(ムサシ)』は、このスカイツリーの建設コンセプト作りやプロモーションまでを含めた舵取り役となった二大広告代理店の内幕を描いている。著者は電通の元プロデューサーで、オリンピックや万博など数々の巨大プロジェクトを仕掛け「電通のライオン」と異名を取った片岡弘氏。

 現場で培った企画力や体験が存分に発揮され、あまりにもリアルすぎるこの小説は、読んでいるとついつい現実と錯覚させられそうになる。"実話に基づいている部分がたくさんあるはず"と思われても仕方がないほどの説得力が読者を襲う。

 それぞれの代理店の下、極秘任務を請け負って活躍するマドンナ二人が、最終的には二大広告社を操り、二人が理想とする文化的で、下町と共生する夢のあるスカイツリーを完成させていくストーリー。その過程で繰り広げられる駆け引き、スケールの大きな戦略、現実と交錯する描写、時としてエロティックな人間関係などがあまりにも生々しい。まさに今、建設中だからゆえに、実際も様々な人々の思惑が絡んでいるのだろうと想像が膨らんでしまう。

 完成すると日本一の建造物、さらには世界一の電波塔という大きな話題性から、各種マスメディアで大きく取り上げられているスカイツリー。"東京の新名所"となり、休日ともなれば建設中のタワーを撮影する者や見物人ですでに混雑している。その巨大なシンボルが完成した時、もし何かが起きたとしたら――。

 先にこの小説を読んで"その時"を待ってみるのも悪くない。



『634』
 著者:片岡 弘
 出版社:新潮社
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