「未だに僕もかみさんとディベートしてる」―藤田宜永インタビュー(2)

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 前回よりこのたび、新刊『還暦探偵』(新潮社/刊)を上梓した、作家の藤田宜永さんにお話を聞いています。
 第2回の今回は作品の内容について。作中のある登場人物についてお聞きすると会話が広がり、話題は藤田さんの“いい女”観に。
 果たしてどんな女性観をお持ちなのでしょうか。

◇ ◇ ◇

■「未だに僕もかみさんとディベートしてる」
―本作に収められた6作の短編を読んで、個人的には『喧嘩の履歴』『通夜の情事』『難しい年頃』が特に好きです。この他にもいい短編がそろっていますが、本のタイトルに『還暦探偵』を選んだのはなぜですか?

藤田「これは出版社の意図もありまして(笑) 編集者は本を売りたい。僕も内容には自信がある。じゃあどうやって人の手に取らせるか。これは俺の問題だけじゃなくて出版社の問題でもあるから。
代弁すると多分、本のタイトルを『喧嘩の履歴』とするよりも『還暦探偵』の方が引きがあるということじゃないかな。実際は私立探偵ものではないから誤解される可能性もあるわけだけど。内容だけでいうと『喧嘩の履歴』の方がそぐうんだけど、でもそこに『還暦探偵』という短編が入っていて“これなんだろう?”と思ってもらうのも選択肢としてはありだと思ったね」

担当編集者・佐藤氏「児玉清さんがうちのPR誌の『波』でお書きになったことの中に『還暦探偵』というタイトルをつけた意味について推測している箇所があるんですよ。ここはいいこと言ってくれたなと思いました」

藤田「“人生の謎を解くがごとく、予想のできない未来に向かって探偵になって生きるようなものだ”
というところだね。決して探偵小説ではないけれど、人生の探偵のようなことをやっているんだよね。
それと、『還暦探偵』について言うと、僕は私立探偵ものでデビューしてるんだよ。そんなくらいだから昔から『ハワイアン・アイ』とか夢中で観ていたんだよね(笑)今でもそれから離れられないくらい大好きなの。その好きさを作中の人物達の会話に登場させることで出したりもしたね。本当はツーシーターの車に乗ったかっこいい探偵がいいのに、“俺達がオープンカーに乗ったらもっと頭が禿げちゃうぞ”と話しながら走るとかさ(笑)
今も流行っているみたいだけど、我々の世代、つまり今60歳前後の世代も外国のテレビ・映画が流行ったのよ。今よりずっと数が少なかったけどさ。作中に登場人物達が昔の海外ドラマをYouTubeで観る場面があるけど、あれ僕は本当にやってるからね(笑)こんなものを観られる世の中になったんだと嬉しい反面、変な世の中になったな、という感じ。二度と観られないと思っていたものが何でも出てくる。夢中になって観ているうちに、本当にこんな世の中になっていいのかな?とも思ってしまう。観ている時は嬉しいくせにね」

―『喧嘩の履歴』で主人公の妻として登場する洋子のセリフが決まっていて、“いい女であり、いい奥さん”という印象を受けました。こういう人物が藤田さんの中でのいい女のイメージとしてあるのかな、と思ったのですが、藤田さんの考える「いい女」というのはどんな女性ですか?

藤田「簡単にいうと、僕ははっきり物申す女が好きなのよ。というのも、僕らの若い頃は割とディベートが盛んな時代だったの。つまり自己主張をしあっていた学生時代があって、その名残がまだ残っているんだよね。未だに僕もかみさんとディベートしてますよ(笑)まあお互い作家だからということもあるんだろうけどね。
こないだ『オール読物』でかみさんと対談したんだけど、僕がね“ディベートっていうのはエロチックだ”と言ったんです。二人で言葉を交わしてコミュニケーションを取るんだけど、そのなかにはただ喧嘩したり感情的になるだけじゃなく、ある種のエロティックさがあると思うんだ。
ディベートが必ずしもセックスに繋がるわけではないけど、人と人の緊密度が増すものだと思う。官能的だと言った人もいるみたいだし。それで“ディベートはエロチックだ”と言ったらかみさんは感動するわけですよ“なかなかいいこというじゃない”って(笑)うちはそんな会話を今でもやっている学生みたいなものなんだよ。そのかわり喧嘩もするけどね」

―洋子は小池さんに似たところがあるのかもしれませんね。

藤田「似てるっていうわけじゃないけど、そういう匂いは持っているかな。
『喧嘩の履歴』について言うならエピソードがあって、あるバーに一人で入ったら知り合いの女の子が付き合ってる男と喧嘩してたの、それが聞こえてくるのよ。その時の彼女のセリフに“それNG”っていうのがあったんだけど、それを聞いた時に“これは短編になるな”と思ったわけ。そのセリフは“喧嘩の履歴”でそのまま使ってる。
その喧嘩の場面に60歳くらいの夫婦を持ってきて、その喧嘩を聞くという設定を考えたんだ」

―あの場面での、還暦の夫婦と若いカップルの、それぞれの会話の重なり方が絶妙だと思いました。

藤田「作家ってもちろん話を真剣に考えるんだけど、いい加減さも大事なんだよね。バーで何をするでもなく、あの声が聞こえてきた。そういうのを利用できないと。でも大体そういう時ってその瞬間“おっ”と思うわけで、物欲しそうにネタを探していてもダメだね。偶然落ちてきたものが一番いいんだよ」

(第1回「東京に来ている時は遊んでる」 を読む)
(第3回 探偵小説ではないのですが、“人生の探偵小説”だと思って読んで欲しい。 を読む)


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