どういう法的根拠でGoogleは尖閣ビデオ流出記録を開示するのだろうか

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今回はfinelventさんのブログ『極東ブログ』から許可を得て転載させていただきました。

どういう法的根拠でGoogleは尖閣ビデオ流出記録を開示するのだろうか
政府が非公開とした尖閣ビデオが『YouTube』に流出した問題で、検察が同サイトを運営するGoogleに対して投稿者の通信記録の開示を要請した。これに対してGoogleは「法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」と回答。さて、いったいどういう法的根拠だとGoogleは尖閣ビデオ流出投稿者記録を開示するだろうか。愚問かもしれないがわからない。存外に深い問題を秘めているかもしれないのでブログで愚考してみたい。

尖閣ビデオ流出から三日以上も経ち、NHKの7時のニュースでも毎日報道され、それなりに流出の真相解明が進んでいるのかと思いきや、実際に流出映像が投稿された『YouTube』側での解明は進んでいない。
この件について今日のNHK「グーグル“捜査には協力”」*1 はこう報道している。

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この問題で検察当局は、衝突事件の映像が流された動画投稿サイトの『YouTube』を運営するアメリカの大手ネット企業のGoogleに対し、投稿した人物に関する通信記録の提供を要請しました。Googleの日本法人では、当局から要請があったかどうかについては、「個別の映像に関することはコメントできない」としたうえで「当局から法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」としています。
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*1:「グーグル“捜査には協力”」2010/11/8『NHKニュース』
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20101108/k10015095871000.html

現状の報道によれば検察からの投稿者情報の開示要請はあったらしい。だが『YouTube』を運営するGoogleはその要請の有無すら回答していない。Googleとしての運営上の一般論としては「当局から法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」とのことで、この報道からうかがい知る事実はこれだけのようだ。表題「Google“捜査には協力”」はクオーテーションマークが難しい意味を持っている。

単純に疑問なのは、どのような法的根拠で検察はGoogleに開示を求めたのだろうかということだ。NHK情報だけからすると、もしかすると検察側の要請に対して法的根拠があるか判断がつきかねているという可能性もある。また同報道では海上保安庁側の削除要請も伝えている。

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8日午前中の段階では、サイトに投稿された衝突事件の映像は、数百件から1000件以上にのぼるとみられ、この中には200万回以上閲覧された映像もあります。海上保安庁では、Googleに対して、すべての映像の削除を要請しており、Googleでは「サイトの規定に従って、映像に法令の違反などが確認されればすみやかに削除する」としています。
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ここでも法令違反があるかどうかが問われているものの判断がつきかねているのだろう。報道には含まれていないがコピー映像の拡散以外にも現在、これらを元にした二次情報も流布しており、その対応も気になるところだ。例えば、次のようなお笑い映像もあるがどのような対応になるのだろうか。

『テキサス親父 中国漁船の巡視船への衝突ビデオが流出(字幕付き)』
http://www.youtube.com/watch?v=ncjObXGgJaw&feature=player_embedded

これらも削除対象となるのであれば、この数日NHKの7時のニュースで『YouTube』がソースであろうと思われる流出映像の報道についてNHK映像も削除対象になる。ほかにも、この映像を流用した報道メディアはなんらかの対応を取ることになる。例えば、毎日新聞では動画をスチルに分解にして二次的に公開していた。*2 これがユーチューブと違うのはスチルの連写だからというのでは詭弁(きべん)だろう。

*2:「尖閣ビデオ:内部流出か…海保撮影、ユーチューブに」2010/11/5『毎日jp(毎日新聞)』
http://mainichi.jp/select/jiken/graph/20101105video/

さらに疑問なのは、これらの流出映像が国家機密なりといったものであれば、二次的に公開してよいものなのだろうか。NHKなどマスメディアはこの流出映像の内容をどのような理由で公益性の高い電波を使って流布させたのだろうか。映像に収められた人びとの権利はどのように守られていたのだろうか。

そのあたりの議論がなぜかマスメディアから出てこないように思われる。なんとも奇っ怪な風景だ。私の記憶によるのだが、IT関連の著述者でもある梅田望夫氏がもう5年以上も前だったと思うが自身のブログで『YouTube』のリンクを貼ったおり、そのリンクにためらいも述べていた。当時はマスメディアが『YouTube』映像を参照することはいわば御法度(ごはっと)といった空気があった。

話を流出映像投稿者の情報開示がどのような法的根拠によるのかという疑問に戻そう。報道を見ていくとこの要請の遅れにはそれなりの段階が存在したようだ。今日付けの毎日新聞「尖閣映像流出:海保が告発 サイト記録差し押さえへ」*3 より。

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一方、検察当局はコンピューターシステムに詳しい東京地検の事務官数人を那覇地検に派遣。映像データを保存していたサーバーのアクセス記録や公用パソコンの使用状況を解析したが、内部からの流出の形跡は確認できなかった。
このため、捜査に切り替えて、『YouTube』を運営するGoogleの日本法人への照会などを行う必要があると判断した。那覇地検からの流出が完全には否定できないため、上級庁である福岡高検が捜査を指揮する見通し。
検察関係者によると、福岡高検は既にサイトを運営するGoogle側に投稿者に関する記録を照会した。Google側が記録の任意提出は困難との立場を示したため、裁判所の令状を取って記録を差し押さえるとみられる。
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*3:「尖閣映像流出:海保が告発 サイト記録差し押さえへ」2010/11/8『毎日jp(毎日新聞)』
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20101108k0000e040046000c.html

どうやら当初Googleへの捜査は想定されておらず、その行きづまりから、一旦は検察からGoogleへの開示要請したが、拒絶されていたようだ。そうしてみると先のNHK報道の文脈もより明確に見えてくる。つまり、この時点での検察による開示要請はなんら法的根拠のないものだったのだろう。ことが日本のウェブ運営者であれば、検察が法的根拠なしでも開示要請すれば、ほいほいと従うという暗黙の慣例もあったのではないか。

多少奇妙なのは、毎日新聞報道ではNHK報道とは異なり、すでに開示要請は終わり、裁判所令状による差し押さえ段階に入ったようなのだが、この毎日新聞報道の報道時刻は“2010年11月8日 11時41分(最終更新 11月8日 12時26分)”であるのに対して、NHKはその後の“11月8日 13時7分”である。後続のNHKの報道になぜ“差し押さえ”が含まれていないのだろうか。

気になって関連NHK報道を見ると、11月8日4時10分に「動画投稿サイトに記録提供を要請」*4 があり、この時点では開示要請を報道している。

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検察当局は、内部調査では、調査の範囲が限定されることから、流出した経緯を解明するため、検察が8日から刑事事件として捜査に乗り出す方針です。那覇地検を管轄する福岡高等検察庁が捜査を指揮することになります。これに先立ち検察当局は、映像が流された動画投稿サイトの『YouTube』を運営するアメリカの大手ネット企業のGoogleに対し、投稿した人物に関する記録の提供を要請しました。
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*4:「動画投稿サイトに記録提供を要請」2010/11/8『NHKニュース』
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20101108/k10015089961000.html

まとめると、検察は当初Googleに任意開示を求めていたが、8日時点で尖閣ビデオ流出は刑事事件となり、このエントリーを書いている現在、毎日新聞報道では差し押さえに向かっているところだが、NHKとしては“差し押さえ”の報道はしていない。
ここで素朴な疑問が浮かぶ。差し押さえ対象の『YouTube』のサーバーはどこにあるのだろうか。簡単に思いつくのは米国ではないかという推定だが、まず日本にはないだろう。仮に米国だったとしてそのサーバー情報を日本の検察がどのように“差し押さえ”するのだろうか。なにか構図がシュールな印象を受ける。

それ以前にどのような刑事事件なのだろうか。11月8日13時7分のNHK「“映像流出”検察が捜査開始」ではこう説明していた。

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この問題で最高検察庁の勝丸充啓公安部長は8日、記者会見し、「映像のデータが流出したという事案の性質上、できるだけ早く捜査に着手することが望ましい。最高検はきょう、福岡高等検察庁に対して直ちに捜査を着手するよう指示した」と述べ、国家公務員法の守秘義務違反の疑いなどで捜査を開始したことを明らかにしました。
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“など”ってなんだと思うが朝日新聞記事「尖閣映像流出 海保が刑事告発 内部研修用に編集の跡」*5 を見ると不正アクセス禁止法違反も挙げられているが、ここでも「不正アクセス禁止法違反など」となっている。“など”に終わりがない。印象としては、とにかく投稿者をとっ捕まえて後から罪状をくっつけてしまえ、どうせ投稿者はイカタコウイルスの作者みたいなもんだろ、罪状なんかどうでもいいよ、というような感じだ。

さらに素朴な疑問が浮かぶ。投稿者は国家公務員なのか。それがわかっていない時点で、可能性からこんな捜査をしてよいのだろうか。いや海保と検察庁からの流出が疑われるのだから仮に捜査をそこから開始するのはよいとしよう。では、その捜査のために、『YouTube』サーバーを差し押さえることは可能なのだろうか。

*5:「尖閣映像流出 海保が刑事告発 内部研修用に編集の跡」2010/11/8『asahi.com(朝日新聞)』
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY201011080173.html

論理的に考えれば、この刑事事件の枠組みでは流出映像の投稿者が公務員でなければならないのだが、そんな前提で刑事事件を組み立ててよいのだろうか。だらしない国家公務員のだらしなさにつけ込んだイカタコウイルスの作者みたいなもんだったら、この枠組みが成立するのだろうか。

というところで、うっすら見えてくるのだが、もしこの流出先が『YouTube』ではなく、朝日新聞で公開されたらどうだっただろうか。米国の有名なリーク事件などは、ワシントン・ポストやニューヨークタイムズで公開されてきた。そしてその場合、報道の自由の問題が関わり、情報源の秘匿は前提とされた。

現状のNHK報道などからうかがい知る印象では、『YouTube』つまりその親会社Googleは報道機関ではないからというのが前提になっているし、暗黙のうちに投稿者はジャーナリストではないことになっている。

しかし、そんな前提を暗黙に立てちゃっていいものだろうか。なるほど『YouTube』では報道に対する編集はしていない(広告はつけているけど)。だが、独自の判断で掲載の認可を行っている。つまり、ある情報が世界に報道されることについての責任の一端をGoogleは明確に担っているのはたしかだ。これは広義に報道であり、投稿者は広義にジャーナリストだろう。特定の個人の名誉毀損を狙った情報拡散ではなく、国家機密とされる情報の是非を国民に問うことにもなったのだから。

あまり話を大げさにしたいわけでわけではないが、これは日本のジャーナリズムの危機なのではないか。であれば、民主主義の危機ではないのか。今回の流出に関連して、国家の情報管理の厳格化が求められているのだが、例えばこのニュースはどうなのだろうか。NHK11月8日12時13分「秘密保全法制のあり方検討へ」*6 で、“仙谷”政権はこういう方向性を出している。

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仙谷官房長官は衆議院予算委員会で、尖閣諸島沖での衝突事件の映像が流出した問題に関連して、「現在の秘密保全に関する法令の罰則では抑止力が必ずしも十分ではない」と述べたうえで、今後、守秘義務違反の罰則強化も含め、秘密保全に関する法制のあり方について検討を進める考えを示しました。
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*6:「秘密保全法制のあり方検討へ」2010/11/8『NHKニュース』
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20101108/k10015095571000.html

もちろん、その必要はあるだろ。しかし今回の事例で言うなら、もしかするとこの情報は国民が知るべきものだったのかもしれない。ディープスロートからイランコントラ事件まで米国の現代史を見ていると、民主主義とリーク情報にはそうした微妙な関係がある。

なのにこの“仙谷”政権は、脊髄(せきずい)反射的に、あるいはご主人様のご機嫌を損ねまいとする小姓(こしょう)のように、目先の取りつくろいで厳罰化に走ろうとしている。この強権志向の姿勢はどうなんだろうか。これが自民党政権に変わって登場した民主党政権の姿なのか、あと何歩でスターリニズムに到達するだろうか、そんな懸念まで浮かぶ。

私の考えでは、現段階では、Googleは投稿者の情報開示に応じるべきではないと思う。この国は報道の自由を弾圧する中華人民共和国ではない。自由な情報を持ちうる日本国である。中国の情報弾圧に屈しなかったGoogleなのだから、中華風味の日本政府による情報弾圧があればはねのけてほしい。

執筆: この記事はfinelventさんのブログ『極東ブログ』から許可を得て転載させていただきました。

文責: ガジェット通信

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