作家やライターというプロの書き手にならなくても、インターネットを使えば自分の意見や情報を簡単に発信することができる時代。「編集」という作業は不要なものにも思えてきます。

 しかし、本書の編者である嶋浩一郎氏(博報堂ケトル代表 編集者・クリエイティブディレクター)は、「絶対にそんなことはありません」といい、そんな今こそ、「ある視点を持った『編集』が価値を持ってくるはずです。『ブランド』となり得るメディアは、そこから生まれるのです」と主張しています。

 本書は'09年に行われた「21世紀の編集学校」での講義をもとに、編集、加筆したもの。マガジンハウス、光文社、リクルートなどの出版社や、ヤフー、ライブドアなどのポータルサイトに携わる現役編集者11人が、自分たちの考える「編集」について語ります。

 たとえば、インターネットのニュースサイトの世界は、月間で約6千900万人、約45億PV(ページビュー)を誇るヤフー・ニュースが頂点に立ち、他媒体がヤフー・トピックスに記事を載せてもらおうとしのぎを削っている状態。その状況が各編集者の講義を聞くだけでよくわかり、各サイトの立ち位置がはっきりとしてきます。

 ヤフー・ジャパンの奥村倫弘氏は「PVは狙えないかもしれないけど、知っておくべき情報がある」と自身の媒体の存在意義を話します。一方、ライブドアニュースを立ち上げた田端信太郎氏は、ヤフーを"本妻"にたとえ、「よく社内で『うちは所詮愛人だ』って言ってる」と話し、本妻にないもの、つまりユーザーが"別宅に来る意味"のあるものを提供していると説明します。

 また、別のニュースサイト編集者・中川淳一郎氏は、「ネットニュースは、PV獲得ビジネス」だと話し、ネットニュースでPVが稼げるネタの要素として「突っ込みどころがある」「B級感がある」「エロ」「美人」などを挙げ、手の内を明かしています。

 どのニュースサイトも短い見出しに、記事や写真があるデザインで、ふだん読んでいるだけではそんなに変わりがないように思えます。しかし、本書を読むと各サイトが各人によって「編集」され、それがサイトの個性となっていることに気づきます。

 そのほか、フリーペーパーの「R25」や「メトロミニッツ」、ファッション誌「VERY」や「ブルータス」「テレビブロス」の現・元編集長。またベストセラー小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』やミリオンセラーの新書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などの編集者も登場し、それぞれの仕事のやり方、考え方を披露しています。

 こうやって読んでいくと、各メディアの特徴がおのずと見えてきます。雑誌や書籍、ネットにはそれぞれ得意なことがあり、それが魅力となって、そのブランドに価値をもたらす。これが編集のなせるわざなのだということがわかってくるのです。だから、紙媒体の将来について悲観的な意見がありますが、紙媒体的な手法、編集がなくなることはないといえるでしょう。たとえそれが、電子書籍という形で読者に届くようになっても、ということです。

 嶋氏は今後の編集者について、「『越境する』編集能力が要求されるようになる」と指摘します。情報の発信者が情報の種類によって、「書籍のかたちにするのか、ツイッターでつぶやくのか、モバイルコンテンツにするのか、自由に選べる時代」になったといい、そのことを「ポジティブに考えていい」とアドバイスします。普通の発信者とプロの発信者との違いがますます鮮明になり、優秀な編集者となるには、これらの資質の有無が重要になってくるといえそうです。



『ブランド「メディア」のつくり方』
 著者:嶋 浩一郎
 出版社:誠文堂新光社
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