夢枕獏が語る“サイコダイバーシリーズ”の33年(後編)

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 『新・魔獣狩り12 完結編・倭王の城 上』『新・魔獣狩り12 完結編・倭王の城 下』で完結する、夢枕獏さんの「サイコダイバー・シリーズ」。前回は夢枕さんにこのシリーズを思いついたきっかけを語ってもらいましたが、今回はその続き。夢枕さんによると『文字を覚える前から物語を創っていた』とのことですが、その真相とは?

◇ ◇ ◇

―夢枕先生の作品には密教、または空海を取り上げたものが何作かありますが、先生は密教にどのような魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。

夢枕「空海に関しての魅力というと、日本が最初に生んだ世界人だという点ですね。当時の日本というのは小さい国の寄り集まりで、基本的にはその中のことしかみんな考えていないんですよ。しかし、空海は日本の中の小さい国だけではなくて、倭全体のこと、唐のこと、天竺のこと、つまり世界地図を頭に描きながら自分という存在について考えることのできた人間だったと思うんです。
また、宇宙観というものをきちんと持っていた人だとも思います。宇宙観というのは“宇宙とはどういうものか、宇宙の中で人間というのはどういう存在か”ということ。それを当時の知識レベルのなかではきちんと認識していた人だと思いますね
空海は人間のことよりも宇宙のことを考えていた節があるんですよ。人間という哲学的存在、あるいはその生物学的存在と宇宙との関係をちゃんと頭の中に描いていたんだと思いますね。それは今の宇宙観に非常に近いと思います。それが魅力ですね」

―ご自身の作品の中に空海を登場させたというのも、先生本人が好きな人物だから、といいうことでしょうか。

夢枕「そうですね、空海は相当昔から好きだったんですよ。この本を最初に書き出したのが27歳くらいだったんですが、その時からもう空海は登場していました。空海というか空海のミイラが、ですが。空海というものが自分のなかで体積を持ち始めたのはそれより10年くらい前でしたね」

―聞くところによると10歳のころから作家になろうと思っていらしたそうですが、夢枕先生が作家になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

夢枕「きっかけはですね、僕がまだ字を覚える前の話なんですけど、うちの親父が僕が眠る前に話をしてくれていたんですよ。僕はそれを寝ないで話を聞いているわけです。でも親父は次の日も仕事があるし、いつまでも寝ないガキの相手はしていられないじゃないですか。だから“これでおしまい”って言うんですけど、僕は“その続きはどうなるの?”って聞くんです。そうすると“続きはこれこれでこうなりました”と話してくれる。でも僕はまた“その続きは?”って聞くんです。そうしたら親父がだんだん嫌になってきて“もうない”って(笑)そうなった時に“じゃあその続きは僕が喋るよ”って言って、僕は物語の続きを字で書かないで喋っていたんですね。もちろんその時は作家という職業は知らないので、作家になりたいと思うこともないんですけど、物語を創るということではその頃からやっていたんです。それから小学校5、6年くらいの時にはもう小説を書いていましたね」

―お父様が話してくれたお話というのはどういったものだったのでしょうか。

夢枕「『孫悟空』の話を少しと、あとは元気のいい男の子の冒険の話ですね。幽霊とか鬼を退治したりするような話です」

―夢枕先生にとって「面白い小説」とはどんなものでしょうか。

夢枕「自分の宇宙観が広がるような話ですよね。今まで自分が宇宙だと思っていたものがひっくり返って別の宇宙として見えてくるような話ですね。抽象的ですけどもね」

―そういったイメージというのはご自身が執筆されているときでも意識されているのでしょうか。

夢枕「わりと意識していますね。世界観を何らかの形で出したり、新しい世界観を出したいな、というのはあります。『陰陽師』なんかはそれを意識的にやっています。宇宙をどう解釈するかという時に、宇宙は“呪”でできているという言い方をするんですけど、それもそうですね。
具体的な例を挙げるなら、僕がそれを感じた小説に半村良さんの『妖星伝』があります。この作品は、僕が今まで考えていた宇宙観、これは小説観・物語観といってもいいんですけど、それを“ここまでやるか?”というような感じで広げてくれましたね。『妖星伝』のどの巻かで“それは意思を持った時間であった”という一行で終わるものがあるんですよ。これにはひっくり返りましたね。“時間が意思を持つか!?”っていうね。それは作家の持っている言葉の勢いというものだと思うんですけど、“意思を持った時間”っていう一行にひっくり返ってしまうわけです。言葉のインパクトで、読者の中でその時から何かがガラッと変わるようなものは、小技でも大技でも僕は狙っています」

―最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。

夢枕「今度のこの本は面白いので、特に最後のサイコダイビングのシーンを是非読んでください!というところですね」

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(締め切りは2010年11月20日)
あて先はこちら(インタビューの末尾にあて先があります)

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(取材・記事/山田洋介)


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