恋愛小説ではない? 気鋭の脚本家が小説デビュー『彼女との上手な別れ方』

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 近年、若い演劇人の小説分野での活躍が目ざましい。それぞれ自分の劇団を持つ前田司郎(三島由紀夫賞、芥川賞候補)、本谷有希子(芥川賞候補)、岡田利規(大江健三郎賞)らはジャンルを横断して文名を上げ、ファンの裾野を広げている。

 岡本貴也もその一人となるだろうか。1999年、劇団「タコあし電源」を旗揚げし、00年、糸井重里賞受賞作でドラマ脚本家デビュー。その後は『舞台 阪神淡路大震災』、『斜塔〜シャトウ』、『DUST』、テレビドラマ『太陽の季節』(TBS系)、『あり得ない!』(毎日放送)など、数多くの脚本・演出・監督を手がけ、幅広く活動している。才気溢れる気鋭の作家として注目を集めている。

 その岡本氏が挑んだ初の本格小説が、『彼女との上手な別れ方』(小学館)。

 ガジロウは31歳のダフ屋。金と女のことしか頭にない自己中心的な男であるが、ある日、交通事故に遭う。本人は無傷であったが、事故を起こした車に乗っていた若いストリッパー・ユウコ、ルイ、ケイと老運転手ジョニーは死亡してしまう。突然、あの世へと旅立ってしまった四人は、現世への未練が絶ちがたいのか、幽霊となってガジロウの前に現れる。四人の幽霊はガジロウ以外の人には見えない。ガジロウは四人の遺した多額の金銭を条件に、四人の心残りを果たすことを請け負うのだが......。

 物語はガジロウ、ユウコ、それぞれの視点からの一人称パートが交互に展開していく。読みやすく、スピーディーに話が二転三転する上質のエンタテインメントである。仕事へのプライド、人生の価値、精神的な恋愛、作家の死生観などが、奇想なストーリーの中にぎゅっと詰まっている。"チンピラ"ガジロウの成長していくさまが、さわやかな読後感を与えてくれる。『彼女との上手な別れ方』というタイトルから「んー、つまらない恋愛小説なんだろうなあー」と想像していたらとんでもない。いい意味でタイトルに裏切られる小説だ。
(文=平野遼)

・岡本貴也(おかもと・たかや)
1972年神戸市生まれ。早稲田大学大学院修士課程終了(理学博士)。00年、糸井重里賞受賞作でドラマ脚本化デビュー。09年『DUST』、08年『斜塔〜シャトウ』、07年『スイッチを押すとき』、06年『舞台 阪神淡路大震災』など多数の舞台脚本・演出や、02年TBS東芝日曜劇場『太陽の季節』、BS-i『ケータイ刑事 銭型愛』、04年フジテレビ『世にも奇妙な物語』などドラマ脚本、劇場用映画なども多数手がけている。



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