「プアなイノベーションより、優れたイミテーションを」―東レ経営研究所・佐々木常夫インタビュー(2)

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 若いビジネスマンが仕事について悩んでしまったり、仕事に身が入らなくなってしまうことは今も昔も変わりません。
 前回からベストセラー『そうか、君は課長になったのか。』著者で、先日『働く君に贈る25の言葉』(WAVE出版/刊)を刊行した佐々木常夫さんのインタビューを配信していますが、経団連理事を経験し、現在は東レ経営研究所の特別顧問を務める同氏にしても、若い頃は同じような経験をお持ちのようで…。

■「プアなイノベーションより、優れたイミテーションを」
―佐々木さんは会社の若い方とよく飲みに行かれるんですか?


佐々木「行きますよ。この前も誘われて行きました。2回続けて違う女性社員に誘われたので“一対一じゃなんだから2、3人まとめてくれよ”って言ったんですよ。そうしたらまあよくしゃべりますよ(笑)4時間くらい喋ってました。最後は私にも喋らせてくれって言ったくらいですから」

―佐々木さんは20代・30代の時、どのようなことを考えてお仕事をされていましたか?

佐々木「私は会社に入社した動機もいい加減で、行き当たりばったりで入ったし、配属部署の希望を聞かれてもどこでもいいと言ってきましたからね。とりあえずは目の前の仕事を一生懸命にやろうとは思っていましたけど、失敗ばかりしていましたね。でも徐々に先輩を見たり仕事を通じていろいろなことを感じるようになりました。もう少し工夫しようとか、伸びて行きたいという成長意欲はありましたから。
失敗しながらも少しずつは成長していたので、普通のビジネスマンにはなれるかなとは思っていましたね」

―いわゆる“出世欲”はありましたか?

佐々木「まぁ、それなりにありましたね。でも、それより、とにかくお金がなかったですからね(笑)
結婚した時もなかったけど、さらに子供がバタバタと3人続けて生まれたので。子供が生まれると出産費用も育児費用もかかります。当時の私の貯金残高って30万円くらいでしたからね。だから出世したいとかではないですけど、どうやって生活していこうかと思っていました。ただ高度成長期でしたから10何年か経ったら課長になって、そうなったらちょっとは給料も上がるんじゃないかという希望はあったので、何とか今を乗り切ろうと思えましたね。
当時の生活費が1カ月9万円。それで全部やりくりしないといけないので、キュウリなんかは一本の半分をみんなで分けて食べたりとかね。家内はよくぞあの時を乗り切ったと思いますね。本当に貧乏でしたよ、10年近くその状態でした」

―先ほど若い頃は失敗ばかりだとおっしゃっていましたが、これまでで一番大きな失敗はどんなことですか?

佐々木「いい加減にやっていましたし、仕事をなめてましたから、本当に失敗ばかりでしたよ。毎日酒飲んで遅刻したりね。態度はだんだん改まったんですけどね。」

―態度が改まったことには何かきっかけがあったのでしょうか。

佐々木「一番大きかったのは再建会社に派遣されたことです。31、2歳の時に東レの袖のかかった会社の再建の仕事に出されたんですよ。それから私の人生観なり仕事のやりかたは激変しましたね」

―どのように変わられたのですか?

佐々木「その会社が潰れると負債総額が1600億円で戦後2番目の倒産だと言われていたんですよ。それで再建のために東レから14人派遣されたんです。
メンツにかけても再建しないといけないから、当時の社長が取締役の一人に、どんな人間を何人連れて行ってもいいから必ず再建しろと言ったんです。そうしたらその取締役は営業と生産と経理の3人選んで、今度は取締役がその3人に、何人でもいいから選んで連れて行けと言ったんです。その3人のなかの経理の人間が私を選んだので私も派遣されることになりました。
それで行ってみたら会社はガタガタでした。毎月赤字で本当にいつ潰れるかわからない状態でしたから、やらなきゃいけないことがたくさんあって、土日も出勤していましたし、平日は11時12時までやっていましたね。死ぬほど働きました。
一緒に行ったメンバーが精鋭揃いだったので私はそこでいろいろなことを教えてもらったんです。仕事のやり方もそうですし、派遣先の会社の社員と一緒に仕事をする時は彼らの心を掴まなければいけないということもそうです。
確かに精鋭揃いでしたけど、2人に1人は心が離反していくんですよ。働く動機にしても“いずれ東レに戻って偉くなってやろう”と思っている人もいるんです。そういう人に出向先の社員はついて行かないですよ。“この会社のために何かやってあげたい”と思っている人についていくんです」

―本書の第4章は『どこまでも真摯であれ』というタイトルがつけられていますが、佐々木さんにとって『真摯である』ということはどういうことですか?

佐々木「私はいつも“幼稚園で教えてもらったことをきちんとしなさい”と言っています。人に会ったら挨拶をしなさい、みんなと仲良くしなさい、仲間外れを作ってはいけません、ウソをついてはいけません、悪いと思ったら勇気をもって謝りなさい。こういったことが真摯でいるということだと思います。
つまり、まっすぐな人間でありなさいということ。まっすぐな人間は極めて強いですから。人から信頼されること、人に対して真正面から向かっていくこと。いじけていないし斜に構えていない。そういうことは社会で生きていくうえで極めて重要なことだと私は思います」

―オリジナルなものを重視する価値観が優勢な現代ですが、佐々木さんは本書の中で「プアなイノベーションより、優れたイミテーションを」と述べています。その真意を教えていただけますか?

佐々木「もちろんイノベーションは大事ですよ。でもみんな小学生から大学までは人に教えてもらうわけでしょう。ところが社会人としてどう過ごしていいかは教えてもらっていないわけで、それは社会に出てから早く学ばなければなりません。それにはイミテーションが一番早いんです。
本『部下を定時に帰す仕事術』にも書いていますけど、私が再建企業に派遣されて最初にやった仕事が書庫の整理だったんです。私は書庫にあった書類を整理して半分捨てて、残すべきだと思ったもう半分をカテゴリーごとに重要度別にランク付けしてファイル体系を作ったんです。
会社の仕事って基本的には同じことの繰り返しで、先輩の誰かがどこかで過去に似たようなことをやっているんです。だから私は仕事の指示を受けたら“このファイルとあのファイルを見たらいいな”と参考にしていました。そういう意味で、私は“自分の頭を使うより先輩の作った優れた作品(書類)を盗みなさい、優れたイミテーションを繰り返しているうちに優れたイノベーションができるんだ”と言っています。
40代になったら今度はイノベーションだけですが、20代・30代のうちはイミテーションをやらなければダメだと思いますね」

■イベント情報
佐々木常夫氏×坂東眞理子氏特別授業「仕事と人生でいちばん大切なもの」が11月26日(金)17:30〜、東大駒場キャンパス交流ラウンジにて開催されます。参加者抽選(無料)申し込みは先はこちらから

(第1回 自分の価値観で行動するから若い人が離れて行く を読む)
(第3回 「いい習慣は才能を超える」に続く)


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