長寿を誇る小説のシリーズは数多くあるが、それらの結末に立ち会えることは滅多にない。まして「堂々の大団円」と呼ばれるのにふさわしい最終巻を拝める機会は稀だろう。夢枕獏の新作は、読者にそうした楽しみを味わわせてくれる。このたび2巻同時刊行される『新・魔獣狩り12・13 倭王の城(上・下)』(祥伝社ノン・ノベル。以下すべて同じ)は、著者の代表作〈魔獣狩り〉シリーズの最新刊である。
 夢枕獏の作家デビューは1977年だが、その直後から〈魔獣狩り〉の構想を得て執筆を試みていた。「月刊小説」の連載を経て祥伝社ノン・ノベルから『魔獣狩り 淫楽編』が刊行されたのは1984年。同書は社会現象ともいえるヒットを記録し、夢枕を一躍人気作家の地位へと押し上げた。『魔獣狩り』を三部作で一応完結させたあと、夢枕は同書のスピンオフ作品を続々と発表し始めた。主人公の1人、サイコダイバー・九門鳳介の単独出演作品『魔獣狩り外伝 聖母隠陀羅編』と同じく高野山の美形僧・美空が登場する連作短編集『魔獣狩り外伝 美空曼荼羅』、鳳介と同じサイコダイバーの毒島獣太が主役を務める『魔性菩薩(上・下)』『黄金獣 淫花外法編/秘宝争奪編』『呪禁道士』などがそれである(連作の公式タイトルが〈魔獣狩り〉ではなく〈サイコダイバー〉で統一されているのは、毒島獣太の登場作をシリーズとして数えているからだろう)。また、『魔獣狩り』三部作完結前から執筆が始められていた『新・魔獣狩り序曲 魍魎の女王(上・下)』は、その毒島獣太と『魔獣狩り』主人公の1人である文成仙吉が登場する作品で、新シリーズの導入編の役割を果たすことになった。
『新・魔獣狩り』は『魔獣狩り』三部作をはるかに凌ぐ壮大なスケールの物語となり、完結までに20年近い歳月を要している。『魔獣狩り』で呈示された即身成仏した空海の謎だけではなく、各地に伝わる黄金伝説や、古代日本を支配した鬼道の起源を巡る謎など、伝奇小説の限界に挑戦するかのように題材が詰めこめるだけ詰めこまれた。そうした物語が最終巻でどう収束するのか、おおいに興味のあるところだ。発売はこの週末。心して待て。

(杉江松恋)







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