ザッケローニがJクラブの監督として来日していたら、たいした話題にはなっていないはず<br>(Photo by Tsutomu KISHIMOTO)

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ダルビッシュが、来シーズンのメジャー行きを断念したというニュースを耳にしたプロ野球界の某長老。日曜日朝、恒例のテレビ番組で結構な話だと喜んでいた。

この方は僕の知る限り、日本人選手が海外でプレイすることに大抵、反対する。野球に限らず、サッカー選手の場合も。

驚くのは、こうした考え方が、日本のプロ野球界では特殊なものではないことだ。「日本プロ野球界の損失」とか「人材の流出」とか、そうした言い方をもって嘆く人は少なくない。サッカーより明らかにネガティブな話として通っている。

しかし、イチローを例に取れば分かりやすいが、彼のプレイはほぼ毎試合、日本のお茶の間で観戦できる。どこか遠くに行ってしまった感はゼロ。オリックスの選手よりむしろ身近に感じられる。その他のメジャーリーガーもしかり。脚光を浴びやすい仕組みになっている。日本プロ野球界から出ていった選手ではあるが損失感はない。野球の普及発展にはむしろ大きく貢献している。

日本のサッカー界のムードは、どんどん行きましょう、だ。欧州でプレイすることを悪く言う人はほとんどいない。ファンは頑張ってこいよと選手の背中を優しく押す。サッカーと野球との違いだ。もちろん僕は、サッカー的な考えの方が断然好き。小学生の頃、野球派からサッカー派に転じた決定的な理由でもある。サッカーには計り知れない広がりを抱くことができた。

とはいえ、当時サッカーに抱いた夢、すなわち世界性を積極的に伝えようとするメディアはそう多くない。

いま、欧州サッカーといえば、香川や本田、長友等の話ばかり。欧州サッカーそのものの話はほとんど出てこない。だから、彼らが活躍している意味や意義は、少しも伝わらない。所属するクラブのレベルもよく分からない。

イチローの安打数が6割、7割を占めるメジャーリーグの報道にもそうした傾向がある。日本人選手の話しかしようとしない。

メディアは、日本人があまり絡んでいない大会の話も伝えようとしない。それがいかに世界的にメジャーなイベントであっても、日本人がいなければ無視。チョイスはハッキリしている。訴求の対象は、スポーツ好きというより日本好き。専門性の高い人ではなく素人になる。

世界体操選手権と言えば、内村航平の話ばかり。世界体操選手権の大会そのものの話はほとんど聞かれない。フィギュアスケートのNHK杯も、登場人物はほぼ全て日本人。女子のシングルで優勝したコストナーの話は無に等しい。

ゴルフもそうだ。主役は常に遼くん。優勝争いにまったく絡まなくても、だ。アメリカ女子ツアーの話題も、宮里藍、宮里美香の成績ばかり。

各メディアとも、モノの見方は、これで一致している。田舎っぽいというか、なんというか、この異様なまでの内向きさには、覆わず閉口したくなる。取り柄の少ないマイナーな国にいるような気がして僕は仕方がない。

国内でプレイする外国人選手に対する冷たさも尋常ではない。いくら活躍しても大きく扱われることはまずない。国内のゴルフツアーで韓国人選手が勝ってしまった場合はその典型。困った話になっている。

Jリーグ報道もしかり。これまた日本人選手の話ばっかり。香川や本田がドイツやロシアで騒がれる姿とは対照的。良い選手は良いと国籍にかかわらずハッキリ言うのが、ドイツでありロシア。世界のスタンダードだ。Jリーグに一頃より優秀な外国人選手が減ったことは事実だが。

そうこうしていると、広島在住の知人からメールが舞い込んできた。

ペトロビッチ監督のことを、メディアはもっと紹介すべきだとそこには書いてある。 

確かに。もし、ザッケローニが、Jリーグのどこかのクラブに招かれていたなら、ここまで脚光を浴びることはなかったろう。日本代表監督でなければ、ただの人。日本に関係しているものと、いないものとの差には著しい開きがある。

内向き。

それはニュースを見ていても感じる。NHK BSぐらいではないだろうか。海外のニュースをキチンと流す放送局は。そうした意味で日本は珍しい国だ。ヨーロッパでは考えられない話だ。国境が接している、いないの差はあれど、新聞、雑誌等、全てのメディアがその調子であるところは問題。週刊誌の電車の中刷り広告に、その辺境性は端的に表れている。日本の外交ベタといわれるが、それも当然な気がする。外国の話には、基本的に興味が持てないのだから。

少なくともサッカーは、それでは勝てない。強くならない。日本のだけ見ていると、世界の情勢はもちろん、日本の姿そのものも見えてこない。いまメスを入れるべきはこの内向きな視線。僕はそう思う。

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