【バック・トゥ・ザ・80′S】Vol.4 学校で唯一読めたコミック! 『エスパークス』今昔物語

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 『エスパークス』。

 この名前にビビッと来た人は、ほぼ間違いなく1980年代から90年代に、清く正しいジャリ文化を享受できた幸せな人だ。

 エスパークスとは、「たれぱんだ」「リラックマ」「まめゴマ」などの女の子向けファンシーグッズを多数生み出したサンエックスの「男の子向け」オリジナルキャラクターである。ストーリーは、スーパーヒーロー・エスパークスが相棒の小猿・キー助を始めとする多くの仲間と共に、地球のみならず宇宙の平和を乱すさまざまな悪とバトルを繰り広げる、という壮大なファンタジー・アクション活劇。

 その人気ぶりは、「『これは文房具ではない』と校則で持ち込み禁止になった学校が続出するほど」(昨年、発売された再録本より)だったというから驚きである。

 今回は、そんな僕らのヒーロー『エスパークス』のスタッフにエスパークス誕生秘話をうかがった。

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■実は作家性が非常に強かった『エスパークス』

『エスパークス』が誕生したのは1989年のこと。

 その歴史は、一冊のノートから始まった。

 主人公・エスパークスをはじめとするカッコよくてかわいいキャラクターが表紙に描かれた、B5サイズのノート。一見、よくあるキャラクター文具かと思いきや、その中身の大部分を占めるのは漫画や迷路、すごろくなどのアナログゲームだ。

 ノートと漫画、アナログゲームのハイブリッド・メディアとして彗星のごとく文房具シーンに登場した『エスパークス』は、魅力的なキャラクターの活躍や壮大な物語もさることながら、学校でも「合法的に」読める漫画(だって購買部でも売ってる文房具だったもんね!)という側面や、ノートのみならず鉛筆、消しゴム、カンペンケース、下敷きなどに描かれたストーリーを補完することで物語の全体像が見えるというコレクション性が大いに受けて、当時の小学生男子を中心にスマッシュヒット! 最終的に、95年リリースの第9弾まで続くロングランシリーズとなったのだ。

 当時の盛り上がりぶりについて、『エスパークス』プロジェクトの一員だったサンエックス広報担当の黒田政和氏はこう語る。

「当時はノートなどの単品の他にも、『エスパークス』関連の文房具が全部セットになったボックスを売っていたのですが、それもすぐにソールドアウトになっていました。小売店からも『いつ次が入る?』とよく問い合わせがありました。具体的な金額は出せないのですが、当時の『エスパークス』は他のキャラクターのおよそ4倍の売り上げでした。非常に大きな数字で、まさに商品が右から左にどんどん流れていくという感じでしたね」

 ちなみに、文房具の他にもスーパーファミコンでゲーム化、小学生向け漫画雑誌「コロコロコミック」(小学館)でコミック版が連載されるなど幅広いメディア展開も行われた『エスパークス』。実現には至らなかったが、テレビアニメ化企画までも存在していたという。そんな一時代を築いた『エスパークス』の生みの親とも言えるのが、キャラクターデザイン、漫画制作を担当したデザイナーの征矢浩志氏だ。

 征矢氏は、企画の始まりを以下のように語る。

「当時『ドラゴンクエスト』のようなファンタジー物が流行していたので、似た感じの新しいヒーロー物をやろうというところから企画が始まりました。当初は入社したばかりの僕がキャラクターデザインをして、プランナーさんと二人でお話を考える、という小さな体制で作っていたので、そんなに長く続くとは考えてはいませんでした」

 そんな軽い気持ちでスタートした『エスパークス』だが、あれよあれよと言う間に人気に火がつき、先述のような大ヒット商品に急成長していったという。

 驚きなのは、通常の商業コミックにおける担当編集者に相当する存在はなく、基本的に征矢氏が漫画家と編集者を兼ねていたということだ。

「ある意味、同人誌みたいなものです(笑)。ただ、やはりお金を出して買ってもらう商品なので、自分の趣味性だけを押し出していくのはいけないというバランス感覚は働いていました」

 と、当時を述懐する征矢氏。

 そんな征矢氏の作家性と商業作品としての良心がギリギリのバランスで共存していた『エスパークス』には、主人公・エスパークスをはじめ、ジャディーン、二代目エスパークスなどのヒーローのほか、キー助、ハガエル3世のようなファンシーキャラ。はたまたキューカー、マジックカプセルから出てきた3人組など、ホラー映画に出てきそうな迫力満点の敵キャラといったさまざまな要素をもったキャラクターが混在している。

 そんな「ごった煮」な『エスパークス』ワールドの原点は、一体何だったのだろうか。

「元々アメコミやプログレッシブ・ロックのCDジャケット・イラスト、H・R・ギーガー(映画『エイリアン』のデザイナー)やホラー映画が好きで、その影響が表紙イラストやキューカーなどの敵キャラの絵に出ていますね。でも、サンエックス的にはキー助みたいなファンシーキャラも生かさないといけない。さらに男の子にはカッコいいと思ってもらわないといけない。それらをどうミックスしようかと思った時に参考にしたのが、香港映画です。ドタバタと全然物語と関係ないところでカンフーアクションをやっていたら、いつの間にか終局に向かっていた、という雰囲気を参考にしました。もう一つ参考にしたのは遊園地です。絶叫マシンもあれば、小さい子も楽しめるような乗り物があるというような、皆が楽しいものを心がけました。そういう自由な創作ができたのは、商業誌ではなかった、ということもあるかと思います」

 「香港映画」に「遊園地」──。

 確かに、誌面狭しと大活躍するキャラクターや楽しげなゲームの数々の持つカラフルで賑やかな雰囲気は、それらとよく似ている。僕たち男子が大好きなものを惜しみなく盛り込んだ「ぜいたく感」こそが、『エスパークス』の楽しさの本質だったのかもしれない。

 そんな『エスパークス』は、第9弾で唐突にシリーズが終了してしまうが、完結編の第10部の構想もあったそうだ。今のところ発表される予定はないようだが、「機会があれば、いずれ発表したい」という気持ちは今でもあるそうだ。

 現在『エスパークス』はオフィシャルサイトが立ち上げられ、昨年にはこれまで発表された『エスパークス』第1弾から第9弾までを完全収録した再録コミックスも発売され、ファンから根強い声援が今も届いているという。

 今後の展開については、

「即座に何かをするということは難しいのですが、今も応援してくださる皆さんの声を伺いつつ、何らかの形で応えていきたいと考えています」

 と黒田氏は語っており、まだ『エスパークス』の戦いは終わりを告げていない模様。次なる展開に期待が高まるばかりだ。


■時代の境目に立っていた『エスパークス』

 『エスパークス』が誕生した89年は任天堂の携帯ゲーム機ゲームボーイが登場し、翌年にはスーパーファミコンが発売されるという、子ども向けのデジタル・ホビーが急速に高性能化し始めた時代。

 そして、『エスパークス』が終了した95年はソニーのプレイステーション、セガのセガサターンなど、次世代機と呼ばれる超高性能ゲーム機が流行し始めた時代である。

「『エスパークス』が生まれた頃は、アナログなホビーがデジタル・ホビーと共存できた、最後の幸せな時代だったと思います。それがデジタルに傾いていった理由は、世相的にバブルが弾けて、一つのパッケージの中での充実感というものが重視されるようになってきたために、バラバラの商品を集めるという行為が時代にそぐわなくなったからなのかも知れません。カードゲームはアナログ・ホビーですが、一つのパッケージに何枚かカードが入ってるし、テレビゲームはソフトを一本買えば、とりあえず事足りてしまうわけですから。子どもとしては、グッズをコレクションするという行為はすごく魅力的ではあるのですが、例えば800円くらいする缶ペンケースなどを度々買い換えるとなると、スポンサーのお母さん方からしたら苦しいものがあったのかもしれませんね」

 征矢氏は、このように語る。

 『エスパークス』のメディアミックスが始まったのは、ブームの末期である93〜95年から。完全に人気を後追いする形でのやや遅めのメディア展開は、現在よく見られる最初から計画されたメディアミックスとは少し感覚が異なる。

 このように、純粋に子どもたちからの人気だけで盛り上がり、大きなブームとなった『エスパークス』は、80年代から90年代におけるホビーの性質の変化を象徴する記念碑的な作品なのかも知れない。

 それにしても、漫画のような出版物とは異なるため、どんなに売れても発行部数という数字での記録は残らず、リアルタイムでブームを体験した小学生以外にはほとんど知られることもなく、時代の荒波に揉まれて、そっと役割を終えたかのように表舞台から去っていった『エスパークス』の姿は、まるで名も告げずにそっと立ち去る孤高のヒーローのようだ。

「新しいものを望む皆さんの声には、できるだけ応えていきたいと思うのですが、皆さんの中で『エスパークス』を育てていただいてもいいと思います。いろんな人が自分なりのエスパークスを作ってくれれば幸いです」

「権利関係に絡んじゃったりするのは困りますけど(笑)」と苦笑しつつも、征矢氏は語った。もしかすると『エスパークス』の新たな活躍を一番心待ちにしているのは、彼本人なのかもしれない。
(取材・文=有田シュン)


●エスパークスオフィシャルサイト
<http://esparks.jp/>



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